「あ、忘れてた…」で全部やり直しになった話
司法書士という仕事をしていると、「忘れてた」の一言が命取りになる場面がいくつもあります。日々の業務に追われる中で、小さな確認漏れや書類の準備ミスが、登記のやり直し、依頼者からの信頼喪失、はたまた法務局とのやり取りの泥沼化へと発展します。この記事では、私自身が実際に経験した「忘れてました」で全てをやり直したエピソードを中心に、同じようなミスをどう防げるかを愚痴まじりに語っていきたいと思います。
些細な「うっかり」が全体を止める司法書士の現場
忘れ物=致命的ミスになる職業
司法書士は一つの小さな抜けで、すべての手続きを最初からやり直すことになる職業です。忘れたのが印鑑証明書だったとしても、それが必要な登記申請であれば不備扱いとなり、最悪の場合は申請却下。何度も足を運ぶことになり、時間も労力も倍に膨れ上がります。こちらがミスをした手前、依頼者に強く出ることもできず、ひたすら頭を下げるだけの日々に疲弊します。
依頼者の信頼が一瞬で消える瞬間
ある日、相続登記の書類を一式そろえて法務局に提出。すべて順調だと思っていたら、電話が鳴り、「評価証明書が入ってません」と職員から冷たい声。その瞬間、血の気が引きました。依頼者には「提出完了しました」と言ったばかり。急いで謝罪し、再提出するも、依頼者の表情は明らかに変わっていました。信頼は積み重ねが大事ですが、崩れる時は一瞬です。
「忘れてた」パターンあるある集
登記申請に必要な添付書類を入れ忘れた
添付書類の入れ忘れは、忙しい現場では「あるある」です。特に、紙と電子申請が混在する中で「どれを紙で出して」「どれをPDFで添付するか」を間違えるケース。自分の中では完璧にやったつもりでも、見直すとポッカリと重要な一枚が欠けている。気づくのはいつも遅い。そしてやり直し。ミスを繰り返すたびに「またやってしまった…」と自己嫌悪のループです。
期日管理ミスで法務局とバトル
登記には期限があるものも多く、特に抵当権設定や抹消などでは、金融機関からのプレッシャーも強くなります。私も一度、登記予定日を一日間違え、法務局に事情説明しながら無理をお願いした経験があります。担当者は淡々と「原則通りです」と突っぱねてきました。そこで知恵を振り絞って別の方法で乗り切りましたが、あれは胃に穴があくかと思いました。
お客様に送るはずの原本を机の上に放置
「これはあとで郵送しよう」と思ってデスクに置いた書類。気が付いたら一週間経ってました。依頼者から「まだ届かないのですが」と連絡がきて、真っ青。急いでお詫びの電話を入れ、速達で送付。こういった「ちょっとした後回し」が原因のトラブル、意外と多いんです。忙しいと、今すぐやらないことは簡単に頭の中から消えてしまいます。
なぜ「忘れ」が起きるのか?
事務所が忙しすぎてミスを生む構造
一人で司法書士業務をこなしながら、事務員一人のサポート体制。これが現実です。電話対応、顧客対応、書類チェック、登記申請、郵送手続き……。すべてを並行してこなす中で、頭の中は常にフル回転。どれだけ気を付けても、人間の集中力には限界があり、結果として「忘れた」が起きてしまうのです。
人手不足と「兼任地獄」
とにかく一人でいろんな役割を抱えていると、どこかで破綻します。事務員が休みの日には、私が電話応対しながら申請書を作成し、来客対応までこなす羽目に。そんな日が重なると、もう頭の中はパンク寸前。優先度が低く見える作業ほど、見事に忘れます。
自分が全部やらなきゃ回らないという思い込み
「このくらい自分でできるだろう」「人に頼むより早い」——そう思って何でも抱え込むと、結果的に自分が一番のボトルネックになります。自分が倒れたら事務所全体が止まるとわかっていても、「誰かに任せる勇気」がなかなか持てません。そして、ミスが起きた時に後悔する。「あの時、頼んでおけばよかったのに」と。
「忘れミス」を減らすためにしていること
チェックリストを使っても抜ける時は抜ける
もちろんチェックリストは使っています。提出書類一覧、期限の確認、依頼者対応の進捗など。でも、チェックするのも人間。チェックリストそのものをチェックし忘れるという本末転倒な事態も…。一覧にしても、手が回らない時には「後でやろう」と放置してしまい、また同じミスを繰り返してしまうのです。
事務員とのダブルチェック体制の現実と限界
事務員との確認体制をつくっても、やはり完全ではありません。特に私が忙しいと、事務員への共有が雑になり、伝達ミスが発生します。「あれ、言ってませんでしたっけ?」という会話が日常茶飯事。結局、最後は自分が全部目を通すことになり、また忙しくなるという悪循環に陥ります。
それでも忘れてしまった時の「リカバリー戦略」
すぐ謝る勇気と、落ち着いて再対応する胆力
忘れてしまった時に一番大事なのは、言い訳せずに素直に謝ること。意外と依頼者は、誠実な対応さえあれば許してくれます。こちらが動揺して取り繕おうとすると、かえって印象が悪くなる。落ち着いて、迅速に、丁寧に。これが意外とできないからこそ、意識して徹底するようにしています。
関係各所への謝罪電話はメンタルにくる
とはいえ、ミスをしたあとの謝罪ラッシュは正直しんどいです。電話一本ごとに自尊心が削られていくような感覚。「すみません」「本当に私の確認不足で」と言い続けていると、夜にはぐったり。何より、自分の無力さに落ち込む時間が長くなり、次の仕事にも影響が出る悪循環に。
未来の司法書士へ:忘れないために必要な「余裕」
ミスを減らすにはスキルよりもスケジュール管理
正直なところ、どれだけ知識やスキルがあっても、スケジュールに余裕がないとミスは減りません。「予定を詰め込みすぎない」「無理をしない」。基本的なことですが、現場ではなかなか難しい。でも、この考えを持てるだけで、かなり救われます。少し余裕があるだけで、見直しの時間が取れ、忘れミスは確実に減ります。
休めないと忘れる、という当たり前の話
疲れ切っていると、当然ながら頭が働きません。睡眠時間が短い、休みがない、そんな生活では、どんなに真面目でも忘れます。だからこそ「ちゃんと休む勇気」も必要。司法書士という仕事にこそ、意識的な休息が必要だと、最近になってようやく実感しています。