「あれ、今日は何も進んでない?」――依頼者の話を聞くだけで終わる一日

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「あれ、今日は何も進んでない?」――依頼者の話を聞くだけで終わる一日

「あれ、今日は何も進んでない?」――依頼者の話を聞くだけで終わる一日

今日は朝からあれこれ予定を立てていた。登記の準備をして、銀行とのやり取りも片付けて、あの件の調査も終わらせてしまおう――そう思っていたのに、気づけば夜。ふとスケジュールを振り返ると、実質的に何も片付いていない。なぜか。それは午前中に来た依頼者と1時間以上話していたからだ。正確には、こちらが話していたわけではなく、ひたすら「聞いていた」。司法書士という仕事は、手続きよりも「聞く力」が試される場面も多い。でも、こちらにも時間と気力の限界はある。この記事では、そんな「聞くだけで終わる日常」をネガティブに、でも少しだけ建設的に見つめてみたい。

毎日のようにある「聞くだけ案件」

なぜか最近、特に多くなっている気がする。「ちょっとだけ相談いいですか?」と予約が入り、15分で済むと思っていたら、蓋を開けると1時間超。よくある話だ。中にはリピーターの方もいて、「あの話の続きなんですが…」と、また同じ話が始まる。こちらとしては先に進めたいのだけど、切り上げるタイミングを見失うと、ずるずると時間だけが流れていく。

相談予約は「15分くらいで終わると思います」から始まる

この言葉、実際には9割くらいの確率で当たらない。依頼者が「15分」と言うとき、それは「本題に入る前のウォームアップトーク」をカウントしていない。そして本題も、実際にはあちこちに飛んでいく。「あの人がこう言ってた」とか、「息子がねぇ」とか…。相談の核に触れるまでがとにかく長い。でも、話し方で緊張しているのが伝わってくると、無下に遮ることもできない。

気づけば1時間、気づかなくても疲労感だけ残る

時計を見る余裕もないまま、「あ、もうこんな時間ですね」と口にしてはじめて1時間以上経っていたことに気づく。何かをした実感がないのに、疲労感だけはしっかりある。パソコンも開けず、資料も触れず、ただ座っていただけなのに。こういう疲れは、事務処理の疲れとはまた違って、気力を削られる。

なぜ話を聞くだけで終わってしまうのか

冷静に振り返ると、「聞くだけ」で終わる原因はいくつかある。依頼者との相性やタイミング、内容の複雑さもあるけど、一番大きいのは「話がまとまっていない」こと。依頼者は自分の中に渦巻いている感情や不安を全部出そうとする。でも、それを受け止める側のこちらには限りがある。

本題に入る前の世間話で流れる時間

「最近暑いですね」「選挙どうなりますかね」…こうした雑談も大事なアイスブレイクだけど、下手するとここで10分以上使ってしまう。自営業者の高齢の方などは、話し相手が少ないためか、こちらとの雑談に価値を見出してくれている。でも、こちらの時計は止まってくれない。

話がとっ散らかっていて要点が見えない

あれこれ話が飛び、途中で別の話題になり、気がつくと最初の相談内容がなんだったかも忘れてしまう。メモを取りながら聞くけれど、こちらも集中力を切らさず追いかけるのが大変。無理に整理して確認しようとすると、相手に「急かされた」と感じさせてしまうリスクもある。

依頼者の頭の中は「整理されていない引き出し」状態

例えるなら、書類が無造作に詰め込まれた引き出しを急に開けて、どれを見せたいか決まっていないような感じ。自分でも「何を相談したいか分からない」と言いながら話してくる人もいる。そういう時こそプロの腕の見せどころかもしれないが、それを毎日繰り返していると、こちらも気が滅入ってくる。

こちらから切り上げるタイミングが難しい

「そろそろ…」と言いかけたときに、「もう一つだけ聞いてもいいですか?」が来る。それが3回くらい繰り返されることも珍しくない。事務員が何度か覗いてくると、「さすがにまずいかな」と思いつつ、それでも言い切れない自分がいる。

「聞くだけ」で終わることの業務的ダメージ

話を聞くことが仕事の一部とはいえ、他の業務が止まってしまうと支障が出る。特に一人事務員と二人三脚で回しているような小さな事務所では、1時間の遅れがそのまま夜の残業につながる。正直、手が回らない。

スケジュールは崩れる、書類作成は夜にまわる

朝に決めた予定は、相談が長引くことで全て後ろ倒しになる。書類の準備やメール対応が夜になるのは日常茶飯事。集中力が落ちた状態での登記内容チェックは、リスクすら感じる。

他の案件への集中力もガタ落ち

「聞くだけ相談」が終わったあと、すぐに他の案件に切り替えるのは難しい。頭が話の内容でいっぱいで、集中するまでにまた時間がかかる。結局、効率は大きく下がってしまう。

それでも「相談無料」で終わる現実

無料相談枠で1時間話を聞いて、感謝されて終わり。見積もりまで出して「また検討しますね」と去っていくパターンも多い。もちろん商売だから仕方ない。でも、積み重なると虚無感が残る。

断ち切る勇気が持てない理由

なぜ自分はもっと効率的に動けないのか。毎回、反省しながらも改善できない。その背景には、自分の性格的な要素もある。

やさしさ?気弱さ?「もう少しだけ」と思ってしまう

話を途中で遮るのは冷たいかなと思ってしまう。特に高齢の方や感情的になっている人には、なんとなく「ちゃんと最後まで聞いてあげたい」と思ってしまう。気が弱いと言われればそれまでだけど。

事務員の視線がちょっと痛い

何度か様子を見に来る事務員。その視線が「まだやってるんですか?」と語っているように感じる。こちらも「すみませんね」と言いたくなるが、それで話が終わるわけではない。

話を聞くだけの時間を「価値」に変えるために

ただ愚痴っているだけでは、何も変わらない。少しでもこの「聞くだけ時間」に意味を持たせるには工夫が必要だ。

タイマーを使って相談にリズムをつける

「30分で一区切りにしましょう」と最初に伝え、スマートに時間を区切る工夫。アラームを鳴らすのではなく、机の上に小さなタイマーを置いて、視覚的に「時間が限られている」ことを伝えるだけでも効果がある。

ヒアリングシートで本題にたどり着く道筋を作る

事前に簡単なチェックリスト形式のヒアリングシートを用意し、相談前に記入してもらうだけで、話がだいぶ整理される。「今日はどの件のご相談ですか?」と尋ねやすくなるのもポイント。

「何を決めたいのか」を最初に確認する

相談者の話の中には「話したいこと」と「本当に決めたいこと」が混在している。最初に「今日は何を決めて帰りたいですか?」と聞くことで、会話のゴールが明確になりやすい。

最後に「次のアクション」だけは必ず言語化する

たとえ相談だけで終わったとしても、「次にやること」を口に出して確認するようにしている。「登記を進めるには、何が必要か分かった」と一言言ってもらえるだけで、こちらの満足感もだいぶ違う。

それでもまた話は長くなるけど

努力しても、すべての相談が効率的に進むわけではない。でも、少しずつでもストレスを減らす工夫はしていきたい。

司法書士という仕事は「話を聞く」ことも含めてナンボ

話を聞くのが仕事の一部なら、それに疲れてしまうのも当然かもしれない。とはいえ、その「聞く力」が信頼につながるのも事実。悩ましいところではある。

でも、「今日は進んでないなぁ」の気持ちには折り合いを

完璧な一日なんて、めったにない。何も進まなかった日も、相談者の不安が少し軽くなっていたら、それでよかったのかもしれない。…そう思えたら、少しだけ今日も報われる。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。

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