「お金の話はまた今度」――この一言の破壊力
司法書士として仕事をしていると、どうしても避けられないのが報酬の話です。しかし、その一言で一気に心が折れる瞬間があります。「お金の話はまた今度」。このセリフを聞いた瞬間、なんとも言えないモヤモヤが心に広がります。信頼されているようで、実は軽んじられているような気持ちになるのです。地元で小さな事務所を構え、日々奔走している私にとって、この一言は精神的なパンチとして効いてくるのです。
支払いの話になると空気が変わる瞬間
初回の面談で案件の流れを説明し、見積もりを提示する。その段階までは皆さん和やかです。けれど、報酬の話を切り出すと、微妙な沈黙が流れる瞬間があります。「ああ、来たか」と思うのは経験値ゆえでしょうか。こちらとしては淡々と業務内容に応じた正当な報酬を提示しているだけなのに、まるで“お金にがめつい人”扱いされてしまう感覚に陥ります。
「信頼してるから」と言われても、信頼できない
「先生のこと信頼してるから、お金のことは後ででいいよね？」というような言い回しは、実に巧妙です。信頼という美名のもとに、支払いを後回しにしようとする人も少なくありません。全ての人がそうではないですが、この言葉に甘えてしまうと、回収不能になることも多いのが現実です。信頼を口にするなら、報酬もきちんと支払ってくれ、と声を大にして言いたい。
報酬の話を後回しにされる職業、司法書士
司法書士という職業は、どうにも「お金に潔癖であるべき」みたいな風潮があります。正直、報酬のことを真面目に伝えようとすると、どこか“空気を読めない人”のような扱いを受けがちです。でも、こちらも生活があります。事務員への給料、家賃、諸経費、毎月の支払いに追われながら、報酬が後回しにされることへの不安は、計り知れないものです。
専門職なのに「お金の話＝いやらしい」と思われがち
医者や弁護士なら「これだけかかります」と言っても嫌な顔されません。でも司法書士が同じことを言うと、なぜか違う反応をされることがあります。専門職としての自負を持っていても、「そんなにかかるの？」と驚かれるたびに、自分の価値が否定されたような気持ちになります。結局、「相場より安くやってくれるかどうか」が評価基準になってしまう現実があります。
実は見積もりが一番メンタルを削られる
登記申請や遺産整理よりも、見積もり作業が精神的にキツいときがあります。金額を提示することで、「頼まれなくなるかもしれない」と不安になるし、「安くしてくれないか」という交渉が始まると、疲れがどっと出ます。値引きが当然と思われていることも多く、「ちょっとだけお願い」みたいな話が、どれだけ工数を増やすか分かってもらえないのが現実です。
「後で払う」の後で、本当に払われるのか？
「お金のことは後で」と言われて、実際にその“後で”が来ることは半分くらいです。きちんと支払ってくれる方もいます。でも、音沙汰なくなる人もいますし、「払うつもりだったけど、もう必要ないからいいよね」と開き直られることすらあります。結局のところ、契約書や覚書を残さない限り、こちらのリスクだけが増えていくのです。
経験から学んだ“後回し請求”のリスク
昔は「信じてあげたい」という気持ちが強かったのですが、痛い目にも何度か遭いました。「今は手元にないけど、来月には必ず払うから」という言葉を信じて動いたら、数ヶ月経っても支払われず、結局そのままフェードアウト。仕事の対価が無報酬になるのは、精神的ダメージが大きいものです。
・口約束が破られた事例
「先生を信じてるから」と言っていた依頼者が、連絡も取れなくなったことがありました。家族に聞いても「そんなの本人同士の話でしょ」と取り合ってくれず、泣き寝入りです。口約束ほど危ういものはない、と痛感しました。
・「先に登記だけお願い」で消える依頼人
特に不動産関係で多いのが、「急ぎで登記だけやってほしい」というパターン。先に処理だけ済ませてしまうと、その後に「もう済んだからいいでしょ」と言われてしまうことも。信頼関係を大切にしたいけれど、現実はそう甘くありません。
なぜストレスになるのか――感情と実務の乖離
この仕事をしていて思うのは、「人に感謝されること」と「報酬を得ること」が必ずしも一致しないということです。感謝の言葉は嬉しい。でも、現実問題として支払いがないと生活は成り立ちません。この感情と実務のズレが、日々のストレスの根本にある気がしています。
「人がいいから損する」の繰り返し
やさしくしてしまうと、つけ込まれる。だからといって厳しくすると、次は依頼が来ないかもしれない。そんな狭間で揺れ動いてばかりいます。事務員にも「また無償対応ですか？」と呆れられることもありますが、気づけば同じことを繰り返している自分がいます。
お金の話を避ける文化と向き合う
日本社会には「お金の話は下品だ」という空気があります。でも、仕事としてやっている以上、報酬の話を避けては通れません。司法書士の価値を守るためにも、「お金の話をきちんとする」ことを、もっと当たり前にしていかなければならないと感じます。
「お金の話ができない司法書士」は潰れる
どんなに良い仕事をしても、報酬がなければ事務所の経営は成り立ちません。自分が生活できなければ、依頼者の支援も続けられません。だからこそ、報酬について「後でいい」は禁句にしなければならないと、身をもって実感しています。無理な依頼を断ることも、プロとしての責任なのだと思います。
愚痴は尽きないけれど、それでもやっていく理由
やっぱり人の役に立てたときの達成感は捨てがたいし、長く関わった依頼者が「ありがとう」と言ってくれる瞬間も確かにある。だけど、そういう場面にたどり着くまでに、いろんな愚痴や不満があるのも事実です。愚痴を吐きながら、それでも一歩ずつやっていく。そんな司法書士もいていいじゃないか、と思っています。
