「すぐ終わるでしょ？」という一言が心を削る
「すぐ終わるでしょ？」──たったそれだけの一言が、妙に刺さることがある。特に司法書士という、間違いが許されない職業ではなおさらだ。業務の外側しか見えていない人からすれば、書類一枚・ハンコ一つで終わるように見えるかもしれない。しかし、実際にはそれがどれだけ準備と確認と神経を使う作業か、なかなか理解してもらえない。小さな一言に見えて、その裏には見えないプレッシャーが潜んでいる。
言ってるほうは悪気がない。だからこそ辛い
「すぐ終わりますよね？」とニコニコ言われるたびに、心の奥にモヤっとしたものが残る。相手に悪気がないのはわかっているし、嫌味でもない。でも、だからこそやっかいだ。こちらが傷ついても、相手にそのつもりがないため、説明すればこっちが神経質に見える。まるで、自分だけが変に敏感な人間のような気がしてしまう。そうして、また一つ、何も言えない感情が心に蓄積されていく。
本当に“すぐ終わる仕事”なんてあるのか？
そもそも、“すぐ終わる”という基準はどこから来るのだろう。登記一件、住所変更一件、本人確認──どれも外から見れば「ただの手続き」に見えるかもしれない。でも、それぞれに背景があり、確認すべき情報があり、間違いが許されない。その責任感を抱えながら、「すぐでしょ？」と言われることが、どれほどのギャップか。簡単な作業ほど、実は気を使っている。そういう現実は、あまりにも伝わらない。
その言葉がプレッシャーになる理由
プレッシャーとは、「早く終わらせなければ」という焦りと、「失敗してはいけない」という恐れの中間に生まれる。誰かに「すぐできますよね」と言われるたびに、その両方を一気に押し寄せられる感覚になる。仕事のスピードが評価される時代とはいえ、専門職にとっては、慎重さもまた同じくらい重要なはずなのに。
“簡単”の押しつけが責任を軽視させる
「簡単なことで申し訳ないんだけど」と前置きされることも多い。その一言があるだけで、なんとなく「断れない」「急がなきゃ」という心理が働く。だけど、こちらからすれば、“簡単なこと”ほど怖い。チェックを抜かしてしまうリスクも、ミスを見逃す可能性もある。そういう緊張感の中で、「簡単なんだから急いでやってよ」という圧を感じてしまうのだ。
時間だけで測られる専門職の価値
何分でできるか、だけが評価基準になってしまうと、本質が失われていく。司法書士の仕事は、書類を作ることではなく、内容の妥当性を確認し、法的な手続きを安全に完了させること。その中には「見えない仕事」が多くある。だけど、時間の短さ＝能力とされる場面もあり、そこにジレンマを感じる日々だ。
心理的負担は作業時間と比例しない
1時間かける仕事よりも、5分で終わるはずの仕事のほうが、精神的にしんどいこともある。特に「早くやって当たり前」という空気のなかで作業する時、集中力は削がれ、判断は鈍り、結果として余計に時間がかかる。ミスのリスクが高まることもある。「簡単な仕事」とは、必ずしも「軽い仕事」ではない。
実際は「すぐ終わらない」仕事が多すぎる
目に見える作業は「数分」で終わるかもしれない。しかし、その準備、背景、確認、やり直し、補足説明…それらがなければ成立しないのが司法書士の仕事だ。そこを理解されないまま、「早くできるでしょ？」と言われると、正直、げんなりしてしまう。
書類一枚の裏にある膨大なチェック項目
登記の申請書一枚。見る人が見れば「コピペみたいなものでしょ？」と軽く扱われがち。でも実際には、前提となる契約内容、物件の状態、登記記録との整合性など、ひとつひとつ確認が必要だ。電話で一言「やっておいて」と言われると、その苦労がすべて無視されたような気分になる。
役所とのやりとりが“すぐ終わらない”典型
登記情報を法務局に提出する際、たとえ一瞬でオンライン送信できたとしても、その前段階で役所に出向いたり、住民票を取得したり、補足書類を求められたりすることもある。しかも役所によって対応がバラバラ。すぐ終わるどころか、半日潰れることもある。そんな現場の苦労は、表には見えにくい。
プレッシャーが積もるとどうなるか
「ちょっとしたことだから」「すぐ終わるから」──こうした軽い一言に対応し続けていると、心の中に積もる疲労感がどんどん増していく。やらなきゃ、でもミスできない、でも急がなきゃ──そのループに陥ってしまうのだ。
イライラ、焦り、判断ミス…悪循環の始まり
焦って仕事をすると、どうしてもチェックが甘くなる。それを取り返そうとすると余計に時間がかかり、さらにプレッシャーがかかる。結果、疲れが増して生産性が下がる。負のスパイラルに陥っていることにすら気づかないほど、疲弊してしまうのだ。
「またミスしたらどうしよう」が毎回つきまとう
小さな確認漏れで訂正が出たり、クレームにつながった経験があると、それがトラウマのように残る。「またあれをやったらどうしよう」と思いながら作業することで、集中力が散り、逆に失敗を招く。プレッシャーとは、そういう形で心にのしかかってくる。
「言われる側」のリアルな本音
何気ない一言が、人をどれだけ追い詰めるか──それを理解してもらえないまま、「また無理してしまった」と自分を責めることになる。そういう声は、なかなか外には出せない。でも、きっと多くの司法書士が感じていることだと思う。
「すぐ終わるよね？」は地味にメンタルを削る
朝の一発目に「すぐ終わると思うんですが…」と依頼されると、それだけでその日のペースが乱れることがある。「それ、あとにしていいですか？」と返しても、なぜか空気が悪くなる。こういう小さなストレスが積み重なって、日々のしんどさに繋がっている。
「じゃあやってみてくれ」と言いたくなる瞬間
「それくらいなら自分でやってくれよ」と思うこともある。口には出さないけど。特に、書類の準備も何もせずに「すぐ終わりますよね」と言われたときは、イラッとする。「いや、準備に時間かかるんだけど」とツッコミたくなるが、結局飲み込む。そのたびに、自分が小さくなったような気がする。
じゃあ、どう対処すればいいのか
完全に防ぐことはできない。でも、自分の中で線引きをすることはできる。すべてを真面目に受け止めていては、こちらが潰れてしまう。ある程度の“受け流し力”と“自分軸”を持つことが必要だ。
言葉をそのまま受け取らない“鈍感力”
「すぐ終わりますよね？」を、真に受けない技術。言葉通りに捉えない、むしろ「はいはい、いつものやつね」と軽く受け流す。それだけで精神的ダメージはかなり軽くなる。依頼はちゃんと受ける。でも、心まで持っていかれないようにする。それが自分を守る方法だ。
自分の中で作業の正当な評価軸を持つ
他人の言葉に左右されず、「この作業にはこのくらいかかる」という自分なりの基準を明確に持つ。そうすれば、急かされてもブレない。時間ではなく、「丁寧にやったかどうか」で評価する視点を忘れないようにしている。
相手の期待に寄せすぎないことの大切さ
「期待に応えなきゃ」と思いすぎると、無理をする。それが結果的にミスや後悔につながる。信頼を損ねないために誠実に対応することは大事。でも、それが「無理してまで応えること」だとは思わないようにしている。
誰かに伝えたくなる“しんどさ”もある
このしんどさは、実際に現場で働く人にしかわからない。だからこそ、こうして文字にして残しておきたいと思った。司法書士として、たまには愚痴をこぼしてもいい。そう思える場所があってもいい。
共感されるだけで、救われることもある
「わかる」「自分もそう」と言われるだけで、少しだけ気持ちが楽になる。だから、この記事を読んだ誰かが「同じこと感じてた」と思ってくれたら、それだけで意味がある。ひとりじゃない、と感じられるだけでも、救われる。
この仕事を続けているのは、結局人のため
どれだけしんどくても、結局この仕事を辞めていないのは、人の役に立っている実感があるからだ。面倒な案件、無茶な依頼、それでもやり遂げたあとに「ありがとう」と言われたとき、少しだけ報われる気がする。だから、明日もまた「すぐ終わるでしょ？」に耐えながら、頑張っていくのかもしれない。
