「今から来れますか?」依頼人の一言で、夜9時の現地立会が決まった夜

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「今から来れますか?」依頼人の一言で、夜9時の現地立会が決まった夜

突如鳴った電話、夜の静けさを破る一報

その日もようやく業務を終えて、事務所を閉めたのが夜7時半。事務員も帰り、コンビニで買った弁当を食べながら、録画していたテレビ番組でも見ようかと思っていた矢先、スマホが鳴った。表示されたのは、数日前に面談した依頼人の番号。「ああ、急ぎかな…」と嫌な予感を覚えながら出ると、第一声が「今から来れますか?」だった。地方の小さな司法書士事務所にとって、「今から」は、たいていろくな話じゃない。

「ちょっとだけ立ち会ってもらえませんか?」の重さ

「物件の売主が急に都合ついたらしくて…今からじゃないと話がまとまらないかもしれないんです」と依頼人は言う。「ちょっとだけ」なんて軽い言葉の裏には、書類確認・印鑑照合・本人確認・登記に関わる重要事項の説明など、やるべきことが山ほどあるのだ。こちらとしても「行けません」と一言で断れる案件ではない。結局、「今から行きます」と返事していた。

その瞬間、頭によぎる5つのこと

1. そもそも今日終わったはずの業務

夕方の段階で「今日の業務は終了」と思っていた。疲れた頭をオフに切り替えていたそのタイミングで、再び“オン”に戻さなければいけない。このスイッチの切り替えが地味にキツい。もう一度、頭の中を登記関係の知識で満たし、万が一のための印鑑証明の確認事項まで引っ張り出す。

2. 家族との時間はどうするのか問題

実はこの日の夜は、久しぶりに家族で一緒に夕飯を食べる予定だった。子どもが「今日こそ一緒にごはん食べようね」と言っていたのを思い出すと、胸がチクリと痛む。こんな生活をしていて、父親としてまともに見てもらえているのか…正直、わからない。

3. 行くか行かぬか、損得の天秤

この仕事、正直な話をすると「金額的に割に合うか?」という計算も脳裏をよぎる。でも、依頼人との関係性や紹介元の顔もある。断ったことで今後の仕事に影響が出るかもしれない。それならば「今回は我慢」と、感情にフタをして現場へ向かうことになる。

4. 交通手段と防寒具の用意

場所は車で30分ほどの郊外の物件。街灯もまばらな土地で、足元もおぼつかない。夜間は冷え込む季節で、ジャケットだけでは寒さが堪える。ヘッドライトや懐中電灯、念のための予備電池など、プチ探検隊のような準備が必要だ。

5. 万が一のトラブル対応シナリオ

夜の立会いはリスクもある。もし書類に不備があったら?もし売主と買主で話がこじれたら?もし身分証が偽造だったら?そういう「まさか」の事態を想定して、事前に何パターンかの対応シナリオを頭に入れておく。もはや現地に向かうだけで一仕事だ。

「頼まれたら断れない」性分が招く働き方

この業界に入って以来、ずっとこの「断れない」性格が災いしている気がする。誠実であることは大事。でも、それが自分の健康や生活を削っているとしたら、どこかで見直さなければいけないのかもしれない。

地方司法書士の“便利屋”化が進む現実

都市部と違い、地方では「司法書士=何でも相談できる人」的なポジションになりがちだ。夜中でも「ちょっと見に来て」「ちょっと聞きたい」で呼ばれることがある。もはや“士業”というより“何でも屋”に近い感覚さえある。

断る罪悪感 vs 引き受けた後悔

断ったら「冷たい人」と思われる。でも、引き受けると「なんで自分ばっかりこんなことを…」と後悔する。そのジレンマに、もう何年も悩まされ続けている。どちらを選んでもモヤモヤは残るのだ。

立会現場にて:照明もない土地での書類確認

現地に着いたのは夜9時15分。売主と買主が車のヘッドライトで足元を照らして待っていた。冷たい風の中で、書類を広げて確認する作業。筆記具もかじかんだ手で握るしかない。「こんな環境でやる作業じゃないよな…」と、心の中でぼやいていた。

懐中電灯片手に、不動産の影を追う

現地確認も必要だったが、周囲は真っ暗。スマホのライトを頼りに地目を確認し、建物の状態をざっくりチェック。「昼間来たら10分で済むのに…」という虚しさが、足元から沁みてくる。まさに“業務外業務”だった。

依頼人は感謝、でもそれで報われるのか?

依頼人は最後に「本当に助かりました。まさか来ていただけるとは」と深々と頭を下げてくれた。…でも、それが何だというのだろう。感謝の言葉は嬉しい。だけど、現実問題、感謝では生活できないのだ。

「この働き方、いつまで続けるんだろう…」と帰り道で思う

帰り道、コンビニで冷えたおにぎりを買って食べながら、ふと「こんな働き方、いつまでやるんだろう」と思った。自分の人生の主導権を握っているようで、実は依頼人に振り回されているだけなんじゃないか。

心身の疲労と、報酬の見合わなさ

日中の業務ですでに疲れ切っているのに、夜間の立会いでさらに消耗。報酬はといえば、時間外割増も何もない“サービス対応”。依頼人に請求すれば「そんなにかかるんですか?」と言われてしまう。なんだかなぁ、という気持ちになる。

まとめ:一人事務所だからこそ、自分を守る線引きが必要

どこかで自分の限界を線引きしないと、潰れてしまう。この件を通して、あらためて「依頼を断る勇気」「夜間対応は要相談」など、ルールを明確にしておく必要を感じた。善意だけでは、この仕事は続けられない。

“善意”に頼られるリスクを考える

「この人なら何とかしてくれるだろう」と思われることは、ありがたい反面、とても危険だ。無理をすればするほど、さらに無理が積み重なっていく。そして気がつけば、自分だけがすり減っていることに気づく。

理不尽に備えるルール作りを

今後は、「夜間は事前予約のみ」「急ぎ対応は追加料金あり」など、最低限のルールを明文化しようと思う。相手が悪いわけじゃない。ただ、こちらも生活がある。お互いが納得できる距離感を築くために、必要なことだ。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。

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