「会社印が違います」と言われた日 〜登記の補正通知に青ざめた話〜

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「会社印が違います」と言われた日 〜登記の補正通知に青ざめた話〜

まさかの補正通知――会社印が違う?

登記申請を終え、ひと息ついたのも束の間。法務局からのメール通知に目を通した瞬間、血の気が引いた。「補正が必要です。会社実印が異なります」との文言。まさかと思った。いや、嘘でしょ?こっちは依頼人から預かった印鑑をしっかり押したつもりだった。事務員の彼女にも確認してもらったし、提出前の最終チェックもしたはずなのに。補正通知が来たというだけで心臓がギュッと締めつけられるあの感じ、何度味わっても慣れない。今回は特に、「印が違う」と言われるなんて、想像もしていなかった。

登記申請の直後に届いた一通のメール

いつものように申請を済ませ、午後の案件に取り掛かろうとしていた矢先、法務局からのメールが届いた。「補正があります」というタイトルにドキッとする。開いてみると、原因は“印鑑が違う”とのこと。補正内容に「会社実印が印鑑証明と異なります」とはっきり書かれていた。思わずパソコンの画面を二度見した。

「印鑑が違います」――理解が追いつかない瞬間

心の中で「は?どういうこと?」と叫んでいた。印鑑が違う?それってどういう意味?頭が真っ白になる。事務所で使っていたのは確かに会社の実印のはずだ。依頼人からは「これが会社の印鑑です」と渡されていた。受け取って、証明書と一緒にチェックしたつもりだった。でも、違っていた。つまり、何かを見落としていた。どこでどう間違ったのか……。

原因はどこにあったのか

この補正騒ぎの原因を突き止める必要があった。というか、突き止めなければ次もまた同じことを繰り返すだけだ。事務所内で何が起こっていたのか、冷静に思い返す。

法務局の電話で明かされた真相

いても立ってもいられず、法務局に電話をした。担当者は丁寧に対応してくれたが、核心ははっきりしていた。「提出された印鑑が、登記されている印鑑証明の印影と異なります」とのこと。つまり、実印として使われた印鑑が、現在登録されているものと別物だったのだ。これにはさすがに参った。

印影照合の落とし穴

見た目はほぼ同じだったらしい。丸い印鑑で文字もほとんど変わらない。けれど、ほんのわずかな太さの違いや、彫刻の角度が異なるだけで、法務局は「別物」と判断する。人間の目ではほぼ気づけないような違いも、機械は正確に見抜く。改めて、印影照合という制度の厳しさを思い知らされた。

代表者印と会社印の混同?

依頼人が「これが会社の印です」と出してきたのは、実は契約書などに使う「角印」だった可能性もある。中には複数の印鑑を持っていて、どれが実印か把握していない経営者もいる。今回はまさにそれだった。こちらが確認を怠ったとはいえ、そういうこともある。

事務所内での確認体制の甘さ

印鑑証明書を見て、印影と照らし合わせる――この基本動作をしていたつもりだった。だが、忙しさにかまけて「たぶん大丈夫だろう」と油断があったのかもしれない。事務員も「私も見たけど同じに見えました」と言っていた。人の目なんてそんなもの。甘かった。完全に、慢心だった。

補正の手続きとその煩わしさ

補正が必要と分かった瞬間から、怒涛の対応が始まる。ただでさえタイトなスケジュールのなか、余計な仕事がどんどん積み重なっていく。補正という言葉は簡単だが、その裏にはかなりの手間がある。

補正書の作成と再提出

まず、補正書を作らなければならない。法務局の指示に従い、ミスを訂正し、改めて正しい印鑑で押印した書類を準備する。印鑑証明書の再取得、依頼人との連絡、郵送対応……。ひとつひとつは小さな作業でも、全部を合わせると半日以上があっという間に消えていく。

再申請と補正の微妙な違い

「補正」と「再申請」は似て非なるもの。補正なら登記の順位はそのままだが、再申請になると順位が変わる恐れがある。今回のように印鑑の不一致が「重大な形式不備」と見なされると、補正では済まず、結局取り下げて再申請しなければならないケースもある。ここがまた怖い。

予定が狂う。スケジュールの連鎖崩壊

補正の対応をしている間、他の業務は当然後回しになる。そうなると、次の登記も、そのまた次の仕事も遅れる。時間が足りない。焦りが増す。さらに、依頼人への説明や謝罪も必要になる。こうして予定は次々と崩れていく。

なぜこうしたことが起こるのか

今回のミスには、いくつかの背景がある。技術的な要因だけでなく、精神的な疲労、環境的なプレッシャー、そして「慢心」が複雑に絡み合っていた。

多忙によるチェックの形骸化

登記業務が立て込んでくると、チェック体制が「形式」になっていく。チェックリストはあるが、実質的には惰性でチェックしているだけになりがちだ。特に、日々の処理件数が多い時期は要注意だと痛感した。

「慣れ」が引き起こす確認不足

何度も同じような登記をやっていると、「いつも通り」の感覚が支配する。「大丈夫なはず」と思い込む。その油断が命取りになる。今回の件で、慣れが一番の敵だということを身に沁みて感じた。

再発防止に向けてできること

このままではまた同じミスを繰り返す。だからこそ、今回の反省を活かし、事務所としての運用を見直す必要があった。

印鑑リストと印影確認の徹底

依頼人から印鑑を預かる際に、会社名・代表者名・印鑑の種類・取得日を明記したチェックリストを作成することにした。さらに、印鑑証明の印影と、現物の印を並べてスキャンし、ファイルに保存。少し手間でも、記録を残すことで、次回以降の確認精度が上がる。

アナログな一覧表の強さ

システムに頼る前に、手書きの一覧表を壁に貼った。誰でも一目で見られるように。アナログだが、これが意外と効果的。忙しいときほど、紙でパッと確認できるものがあると助かる。

事務員とのダブルチェック体制

今後は印鑑の確認を必ず二人体制で行うことにした。一人では見逃すことも、二人なら防げる。事務員の彼女と「もうミスしたくないね」と話しながらチェック体制を整えた。

システム化は現実的か?

理想を言えば、印影の照合も自動化したい。でも、現状の事務所体制ではそこまでの余裕はない。コストも手間もかかる。それでも「ゆくゆくは」の目標として、クラウド型の印影管理システムの導入も検討している。

司法書士という仕事の「見えない重圧」

登記にミスは許されない。1ミリの誤差も、1文字のズレも、1つの違う印鑑も「補正」や「却下」の対象になる。神経をすり減らしながら、毎日「完璧」を求められる仕事だと改めて感じた。

「完璧であること」を求められる職業

司法書士という職業は、結果がすべて。依頼人にとっては「きちんと登記されたか」が全てであって、その過程の苦労なんて知られることはない。完璧を求められるが、誰にも評価されない。正直、きつい。

一人で背負う責任と孤独

事務所でたった一人、責任を背負っている感覚がある。ミスがあれば、それは最終的に自分の責任。だからこそ、補正通知を受け取ると、自分の無力さに落ち込む。孤独な職業だなと、つくづく思う。

まとめ:ミスを責める前に、仕組みを見直す

今回の印鑑ミスは、自分の確認不足であり、事務所としての運用体制の甘さでもあった。大切なのは「誰のせいか」ではなく、「次にどう防ぐか」。忙しい日々の中でも、ちょっと立ち止まり、仕組みそのものを見直す勇気が必要だと学んだ。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。

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