「前にもお願いしましたよね？」——その一言が胸に刺さるとき
「前にもお願いしましたよね？」──その言葉を聞いた瞬間、胸がざわつく。もちろん相手に悪気がないのはわかっているし、こちらのミスであることも理解している。けれども、その言い方、そのタイミング、その“感じ”が、なぜか心に刺さる。司法書士という職業柄、依頼者や関係者からの信頼が命だ。でも、どれだけ頑張っても完璧にできない日もある。そんなとき、この一言は想像以上に重い。
言い方じゃなくて“タイミング”がキツい
正直に言えば、「前にもお願いしましたよね？」というフレーズそのものよりも、それを言われた“場面”がつらい。例えば、ようやく山積みの業務が片付きかけていた夕方。疲れがピークのときに電話口で言われると、自分の心が一気に沈むのがわかる。声のトーンが普通でも、こちらのコンディションによっては、ダメージが倍増する。
自分でも気づいていた「ミス」。でも言われると落ち込む
実は指摘される前から気づいていた。資料を一部提出し忘れていたこと。でも「今夜にでも修正しよう」と思っていた矢先に、「前にもお願いしましたよね？」と刺される。言われて当然だと頭では理解している。でも、心のどこかで「わかってたのに…」という自責と悔しさが混ざり、必要以上に凹んでしまう。
司法書士って、いつも完璧を求められている気がする
登記ミスは命取り。書類の誤記載ひとつで手続きがストップすることもある。だからこそ、私たちは常に「ミスしないように」と緊張しながら仕事をしている。でも人間である以上、完璧は難しい。それでも、依頼者や取引先は“正確さ”を当然のように求めてくる。そしてそれに応え続けるのが司法書士だ。
事務員への指示が甘かったのは自分
実際、今回の件も原因は自分にある。事務員に伝えたつもりが、具体的な資料内容まで指示していなかった。見落としが起きても不思議じゃない状況だった。でも、そういうときに限って、「前にも言いましたよね？」という言葉が自分に返ってくる。だから、自分で自分を責めるしかない。
でも全部一人で抱えている状況、伝わらない
地方の小さな事務所では、分業なんてできない。実務、相談、書類作成、チェック、電話対応……全部自分でやっている。事務員は一人。頼りになるけど、すべてを任せられるわけではない。そういう背景を知ってもらう機会もなく、ただただ“プロとして”扱われる。気づけば、誰にも弱音を吐けなくなっていた。
「できて当たり前」の空気に疲れてくる
依頼者の信頼を得るには、誠実さと正確さが何より重要。でも、いつからか「間違えないことが前提」になっていた。ありがとうの言葉よりも、クレームや指摘のほうが記憶に残る。そんな日々が続くと、「頑張っても評価されないなら、もういいかも」とすら思ってしまう。
言い訳できない職業のつらさ
「うっかりしてました」では済まされないのが司法書士。だから、どんなに疲れていても、どんなに忙しくても、「やるしかない」が正解になってしまう。自分の体調や気持ちは後回し。だからこそ、ふとした指摘が心に深く刺さる。
言い返せば“責任転嫁”と捉えられる恐怖
本音を言えば「それ、そちらの説明不足でもありませんか？」と思うこともある。でも、それを口に出した瞬間、“逃げた”と見なされてしまう。司法書士という立場では、反論よりも謝罪と再対応が優先される。それが“信頼”だと言われれば、黙って飲み込むしかない。
それでも反論できない自分が一番しんどい
言われるたびに「自分が悪い」と納得しようとする。でも、どこかで納得していない自分もいる。じゃあ言えばいいのに、言えない。性格的にもそうだし、立場上も難しい。それを繰り返すうちに、自分自身を否定しているような感覚になる。
性格的に強く言えない司法書士の弱さ
声を荒げたり、言い返したりするのが苦手だ。もともとそういう性格だからこそ、司法書士という“調整役”が向いていると思っていた。でも、逆にそれが裏目に出ることもある。ときには毅然とした対応が必要なのに、それができない自分に自己嫌悪してしまう。
「優しさ」が足かせになる瞬間
事務員にも、取引先にも、なるべく丁寧に接している。怒ったり突き放したりしたくない。でも、そうやって我慢を続けていると、自分の心がすり減っていく。「優しいだけじゃやっていけないよ」と誰かが言ってくれたら、少しは楽になれる気がする。
どうすれば自分を責めすぎずに済むのか？
このままでは、自分が壊れてしまう。そう感じてから、少しずつ対策を始めた。もちろん劇的な変化はない。でも、意識を変えるだけでも気持ちは違ってくる。「責める」から「振り返る」へ。完璧を目指すのではなく、できることを確実にやる方向にシフトした。
一呼吸置いて、「なぜ言われたのか」を冷静に見る
感情的に反応すると、余計に落ち込む。だから最近は、一度深呼吸して「なぜ相手はそう言ったのか」を考えるようにしている。相手が急いでいたのかもしれない。自分が同じことを二度ミスしていたのかもしれない。そこに気づければ、少しだけ気持ちが軽くなる。
気づきメモと“見える化”でリスク軽減
最近始めたのが「ミス再発メモ」。どんな小さなことでも、一度ミスした内容はExcelにメモしておく。似た場面に出くわしたとき、過去の注意点を思い出すだけで回避できることも多い。自分を責めるのではなく、未来の自分を助けるために記録する。
司法書士を目指す方へ伝えたいリアル
この仕事は、信頼と責任に支えられている。でも同時に、プレッシャーと孤独にも包まれている。やりがいはある。間違いなく。でも、それと同じくらい「しんどさ」もある。だからこそ、これから目指す人には、自分を守る方法も一緒に学んでほしい。
正確性とスピードの板挟みは常にある
登記の締切は待ってくれない。顧客の期待も高い。そんな中で「正確に、でも早く」という要求に応え続けるのは本当に大変だ。それでも、私たちはやらなければならない。だからこそ、無理をしすぎない工夫が必要だ。
怒られるより、言えなかった後悔の方がキツい
「言い返せなかった」ことが、夜中になってからじわじわ効いてくることがある。「あのとき、こう言えばよかった」とか「次はこうしよう」と考えても、すでに遅い。それでも、そうやって反省している自分を少しだけ認めてあげたいと思っている。
