「楽そうですね」の一言に固まった日 ― 司法書士のリアル、教えます。
「司法書士って楽そうですね」──この一言、何度も聞いたことがあります。でも、今回は違いました。相続登記の書類に埋もれながら、電話が鳴りやまず、昼ごはんを15時にかき込んでいたその瞬間に、不動産業者さんに言われたんです。笑顔を返す余裕もなく、思わず固まってしまいました。この記事では、そんな「楽そう」に見える仕事の裏にある現実と、実際に一人事務所を運営する僕のリアルな日常をお話しします。
なぜその言葉が刺さったのか
想像と現実のギャップにいつも振り回される
「士業だから安定してそう」「机に座って書類見てるだけでしょ?」そんなイメージ、よくわかります。僕自身も、司法書士を目指していた頃はもう少し穏やかな日々を想像していました。でも実際には、書類の山、クライアントとの電話、裁判所とのやり取り、そして法務局との攻防戦の連続。午前中だけで3つの案件が同時進行する日もあります。想像していた世界と現実の乖離、そのギャップが一番のストレス源かもしれません。
言われた瞬間、頭の中に浮かんだ“あれこれ”
「楽そうですね」と言われたとき、頭の中で数々のエピソードがよみがえりました。夜中に顧客から「至急で」と言われて対応したこと。書類の不備で法務局に三度足を運んだこと。役所の窓口で「それはこちらでは出せません」とたらい回しにされたこと。それでも、「楽そう」というひと言に、自分の頑張りが一瞬で否定されたような気持ちになるんです。
司法書士の「楽そう」に見えるポイント
表に出にくい業務の裏側
司法書士の仕事は、表に出る部分が少ないんです。登記申請書は誰かが作ったものだし、契約書のチェックも陰の作業。だから、第三者には「何してるかわからない=楽そう」と映る。でも実際は、法律の細かなニュアンスや形式に細心の注意を払い、間違えれば大問題になる責任と隣り合わせ。表に見えない努力がほとんどなんです。
スーツ姿で机に向かう=楽ではない
「座ってる仕事=肉体労働じゃない=楽」そんな図式があるんでしょうか。でも、スーツを着て冷房の効いた事務所にいても、心は常に戦場です。登記の受付期限に追われ、依頼者の不満を受け止め、契約の文言に神経をすり減らす。体は動かしていなくても、頭と心はフル回転です。
一人事務所のリアル:地方の現場は孤独と隣り合わせ
人手がない、時間もない、でも責任だけはある
地方で一人事務所をやっていると、人手不足は日常茶飯事です。事務員さんは一人いてくれるけど、細かな判断や顧客対応は全部僕がやるしかない。急ぎの案件が重なると、昼休みもトイレの時間も惜しんで動き回ります。でも、責任はすべて僕にのしかかってくる。胃薬が手放せません。
「事務員一人」の重さとありがたさ
一人だけ雇っている事務員さん。彼女がいてくれるから、なんとか回っている。でも、逆に言えば彼女が休んだら事務所は止まります。体調不良や家庭の事情があると、僕が全部カバーしなければいけない。その重みと、同時にありがたさを、日々かみしめています。
業務の中で消耗していく瞬間たち
登記申請のミス一つで何時間も消える
たった一つ、申請書の番号を書き間違えただけで、法務局からの補正依頼。修正のためにまた現地に行き、関係書類を確認し、顧客に連絡して、再申請。この一連の流れで一日が飛びます。集中力の欠如は命取りで、精神的な消耗も大きい。でもそれを外には見せません。
顧客対応、電話、郵便、全部一人で回す現実
電話は鳴り止まないし、郵便物は溜まるし、顧客対応もしなきゃいけない。地方だと特に「ちょっと寄っていい?」が多くて、予定が狂うことも頻繁です。もちろん事務員さんもがんばってくれてますが、それでも回らないときは自分で全部やるしかない。机の上は常にカオスです。
「楽そうですね」に込められた無自覚な圧力
苦労を想像されない職業のしんどさ
司法書士って、「お堅い仕事」だと思われていて、苦労してるようには見えないみたいです。でも、現実はかなり泥臭い。調整、確認、交渉、そして失敗のリスク。気づかれないまま評価されない。これ、結構きついです。
説明する気力もなくなる日もある
一つ一つ丁寧に「いや、意外と大変なんですよ」って説明してた時期もあります。でも、繰り返し言われると、もう説明する気力もなくなってくる。黙って笑ってやりすごすしかない。誰にもわかってもらえない感覚、これが一番つらいかもしれません。
じゃあ、なんで司法書士を続けているのか
感謝の言葉一つで救われることもある
正直、辞めたいと思う日は月に何回もあります。でも、依頼者さんが「本当に助かりました」と言ってくれる、その一言で救われるんです。家族の相続が無事に終わったと報告してくれるとき、「この仕事しててよかったな」と思える瞬間があります。
辞めたいけど、辞められない理由
この仕事、自由もあるしやりがいもある。だけど、負担もでかい。でも、いざ辞めようと思っても、これまで積み上げた信用や人とのつながりを思うと、簡単には投げ出せません。結局、愚痴をこぼしながらでも、続けるしかない。それが現実です。
これから司法書士を目指す人に伝えたいこと
「好き」だけじゃたぶん足りない
この業界、「法律が好き」「人の役に立ちたい」だけでは続きません。事務処理能力、精神的タフさ、そして孤独に耐える力が必要です。「正確であること」「我慢強くあること」が求められる場面が多く、理想とのギャップに心が折れそうになることもあります。
でも、向いてる人には向いてる
ただ、一人で黙々と仕事を進めるのが得意な人、人の人生に深く関わる責任を背負える人には、司法書士は天職になり得ます。やりがいの大きさは確かにあるので、合うかどうかをしっかり見極めたうえで、目指してほしいと思います。
司法書士として生きていくという選択肢
地方ならではのやりがいと限界
地方ではまだまだ司法書士の存在が重宝される場面があります。だからこそやりがいもあるし、頼られる存在になれる喜びもある。でも一方で、報酬の単価が低かったり、案件数が限られていたりと、経営的な難しさも正直あります。
一人事務所の可能性と閉塞感
一人で事務所を回すということは、自由と孤独が表裏一体です。やり方は自分で決められるけれど、悩みも不安もすべて一人で抱える。発展させようと思っても、人を増やすリスクやコストを考えると、なかなか踏み出せないのが現状です。
言葉の受け取り方と、自分の立て直し方
「楽そう」と言われたときの対処法(心の中)
昔はイラっとしてました。でも最近は、「ああ、そう見えるようにちゃんとやれてるってことか」と、勝手にポジティブ変換しています。それでもやっぱり、しんどいときにはグサッときますけどね。そんな時は一旦離れてコーヒーでも飲んでます。
言い返すでもなく、飲み込むでもなく
無理に言い返す必要もないし、全部を飲み込む必要もない。「ああ、また来たな」と受け流すスキルが大事です。言葉の刃を受け止めず、サラッと流す。そんな習慣が、メンタルを守るコツかもしれません。
まとめ:それでも明日は来るし、案件は減らない
自分のペースでやっていくしかない
楽じゃない、けどやめられない。そんな毎日です。無理せず、自分のペースで、できる範囲でやっていくしかない。たまには休んで、たまには愚痴って、それでも前には進んでいける。そう信じて、今日もまた書類とにらめっこしています。
同業者へのエールとして
この記事を読んで「わかる!」と思ってくれた同業者の方がいたら、それだけで書いた意味があります。みんな、それぞれの現場で戦ってる。だからこそ、時々はこうして、リアルを吐き出してもいいんじゃないかと思います。