「登記はまだですか?」1日3回も電話が鳴る…“完了前の催促地獄”

「登記はまだですか?」1日3回も電話が鳴る…“完了前の催促地獄”

「登記はまだですか?」1日3回も電話が鳴る日常

登記申請を出した当日から、電話が1日3回かかってくる。これは決して誇張ではなく、現実に起きていることだ。午前9時、正午、午後4時と、まるで決まった時報のように鳴る電話。そのたびに業務が中断され、こちらの神経もすり減っていく。「まだ終わらないの?」と言われるたび、思わず「こっちが聞きたいよ」と言いたくなるが、もちろんそんなことは口に出せない。司法書士にとっては、地味ながらも精神的に削られる日常の一幕だ。

仕事の流れを理解してもらえないつらさ

登記がすぐ終わると思っている依頼者の誤解

依頼者の中には「登記なんて、出せばすぐ終わるんでしょ?」と思っている方が多い。テレビのドラマやネット記事の影響かもしれない。現実はそう甘くない。法務局の審査には数日、場合によっては1週間以上かかることもある。こちらがどれだけ丁寧に説明しても、「でも、まだなんですか?」の一点張り。まるでこちらが怠けているかのような言い方をされると、正直つらい。

説明しても伝わらない、司法書士のもどかしさ

「登記は法務局の審査次第なんです」と何度伝えても、話がかみ合わないことがある。電話口で丁寧に状況を説明しても、「でも、もう一回確認してくれませんか?」と念押しされる。依頼者にとっては不動産の売買や相続など、人生の節目になる手続きだから不安なのは理解できる。でもこちらも、急かされても法務局の処理スピードを変えることはできない。そのもどかしさが、毎日の積み重ねでじわじわ効いてくる。

電話が鳴るたびに業務が中断される

集中力が削がれるという地味なストレス

ちょうど申請書をまとめているタイミングで電話が鳴る。しかも「進捗どうなってますか?」の確認ばかり。作業に戻ろうとしても、集中力がすっかり切れてしまう。司法書士の仕事は細かい書類作業が多く、一度気が散ると復帰に時間がかかる。たとえるなら、パズルを組み立てている最中に机を揺らされるようなもの。小さなストレスが積み重なると、心がすり減っていく。

事務員との連携にも支障が出ることも

うちの事務所は、事務員と私の二人体制で回している。事務員が電話対応中だと、来客や別の電話に手が回らないことも多い。しかも同じ人から同じ問い合わせが何度も来ると、事務員の方も「またあの方です…」と苦笑い。お互いに気を遣い合いながらも、心の中では「もう少し待ってくれれば…」とつぶやいてしまう。少人数の事務所では、この“電話対応疲れ”も意外と大きな負担になる。

「クレーム予備軍」との距離感の取り方

催促電話の裏にある不安と焦り

繰り返し電話してくる方の中には、不安でいっぱいの様子も見て取れる。何かトラブルがあるんじゃないか、自分の手続きだけ遅れてるんじゃないか——そうした焦りからの行動だろう。だからといって、その感情をそのままこちらにぶつけられると、正直きつい。相手の気持ちを受け止めつつ、こちらのペースを崩さずに業務を進めるのは、なかなか難しいバランスだ。

対応を誤ると信頼を一気に失うリスク

一度「まだ終わってないんですよね」とだけ伝えてしまったことがあった。それがきっかけで「不安になったから他に頼みます」と言われたこともある。焦って情報を出しすぎても逆効果。かといって、曖昧に濁すと信用を失う。こういう場面での対応ひとつで、信頼関係が大きく揺れることもある。いつも心の中で「面倒なことにならないように…」と祈りながら言葉を選んでいる。

それでもやらなきゃいけない、地方の現実

「じゃあ、もうやめれば?」と思われるかもしれない。でも、地方の司法書士は簡単には逃げられない。地域の信頼を背負い、何年もかけて築いてきた関係があるからだ。便利屋のように扱われることもあるが、それも含めて「地域密着型」の宿命。苦笑いしながら、今日も電話に出る。

「顔が見える距離感」がもたらすプレッシャー

ご近所さんゆえの距離の近さと期待値

電話してくるのは、昨日スーパーで会ったあの人かもしれない。そう思うと、強くも出られないし、放ってもおけない。ご近所づきあいの延長のような関係が、余計なプレッシャーを生む。「◯◯さんとこ、早く終わったらしいね?」なんて言われると、「じゃあうちは?」となるのも自然な流れ。都会にはない、独特の距離感がある。

噂話が早く、気を抜けない環境

「〇〇さんのときは早かったらしいよ」「△△さんの手続きで何かあったって聞いたよ」——こんな話が、あっという間に町中に広がる。自分の知らないところで、自分の評判が決まっていく。だからこそ、どんな小さな案件でも気が抜けない。うわさ話に左右されることの多い地域社会では、丁寧すぎるくらいがちょうどいいのかもしれない。

司法書士の業務範囲と限界

できること・できないことの線引き

「代わりに法務局に急がせてよ」「登記以外の手続きもお願いできる?」——たまに、そんなお願いをされることもある。気持ちはわかるが、業務の範囲には限界がある。できないことはできないとはっきり言う勇気も、時には必要になる。ただし、言い方を間違えると「冷たい人」と思われるので、そのあたりの匙加減が難しい。

時間がかかる理由を正直に伝える工夫

最近は、「なぜ時間がかかるのか」を具体的に伝えるようにしている。「現在、法務局が繁忙期で1週間ほどかかっています」「〇〇という追加確認が必要で、少し時間を要します」——こうした説明をすることで、依頼者も少しは納得してくれる。それでも納得しない人はいるが、以前よりは多少ましになった気がする。

それでも続ける理由と、これから目指す働き方

こんなに大変な思いをしても、なぜ続けているのか。自分でも不思議に思うときがある。でも、この仕事は、やはり人との信頼で成り立っている。時折もらえる「ありがとう」の言葉。それがあるから、今日もまたパソコンの前に座るのだと思う。

「愚痴ってもやめられない」この仕事の魅力

たまに届く「ありがとう」が支えになる

先日も、無事に相続登記が完了した方から「先生に頼んでよかったです」と言われた。その一言で、どれだけ救われたか。電話のストレスや事務作業の大変さも、一瞬だけど吹き飛ぶ瞬間がある。そういう瞬間が、また明日も頑張ろうと思わせてくれる。この仕事は、報われるのは少しだけ。でも、その「少し」のために続けているのだと思う。

未来の司法書士へ伝えたいこと

現場は甘くないが、やりがいはある

司法書士の仕事は、華やかでもラクでもない。むしろ、泥臭くて細かくて、理不尽なことも多い。それでも、自分の力で人の人生の一部を支えているという実感がある。それは、他の仕事ではなかなか得られない感覚かもしれない。興味があるなら、ぜひ一歩踏み込んでみてほしい。

無理せず、自分なりのやり方を見つけて

全ての依頼者に完璧に対応しようとすると、どこかで潰れてしまう。だからこそ、自分なりの距離感、自分なりのルールを見つけることが大事。愚痴をこぼしながらでもいい、誰かに支えられながらでもいい。無理せず、長く続けていくことが、結局は一番大事なのだと思う。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。

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