あのとき断っていれば──『いい人』を演じた夜の後悔

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あのとき断っていれば──『いい人』を演じた夜の後悔

「断れない性格」が生む仕事の泥沼

司法書士という仕事は、依頼が来ること自体はありがたいものです。ですが、その全てを受け入れていたら身体も心も持ちません。それでも、どうしても「頼まれたら断れない」という性格が災いして、自分の首を締める結果になってしまうことがあります。特に、地方でひとり事務所を構えているような状況だと、つい「地域のために」という気持ちが先行してしまい、無理なスケジュールを詰め込んでしまうのです。

頼まれると断れない——性格の問題か、職業柄か

昔から「お人好し」と言われてきました。相手の頼みに弱く、つい「なんとかしましょう」と言ってしまう。司法書士としての責任感もあるし、依頼人の事情を考えると、無碍にはできない。でもこれ、本当に性格の問題だけでしょうか?私は、この業界全体に漂う「断ってはいけない空気」が根っこにあるような気がしてなりません。特に開業して間もない頃は、依頼を断ることが“悪”のように感じていたものです。

「ちょっとだけ」の引き受けが、なぜ地獄になるのか

「ちょっとでいいんで…」という言葉、要注意です。ちょっとのつもりが、実際には全然ちょっとじゃない。それに、一つ受けると芋づる式に他の処理もついてくるのが登記業務の恐ろしいところ。先日は軽い名義変更のつもりで受けた案件が、実は遺産分割協議にまで発展してしまい、気づけば数十時間を費やしていました。「断っておけばよかった」と後悔するには、十分すぎる地雷案件でした。

その夜、ふと天井を見つめて後悔する

忙しさに追われている時は、アドレナリンでなんとか回してしまえるんです。けれど、夜になってふと事務所の天井を見上げたとき、「今日、なんであんな依頼受けたんだろう」と、どうしようもなく後悔が押し寄せてくる。静かな夜ほど、自分の選択に向き合わされる時間はありません。

家族と話す時間を削ったのは誰だ

「ごめん、ちょっと今日帰るの遅くなる」——これ、何回目だろう。うちには小学生の子がいて、夕食時にはできるだけ一緒にいたい。でも、無理に仕事を引き受けた日は、そんな時間も取れない。子どもの寝顔を見て「ああ、また今日も顔見てないな」と思った瞬間、ものすごい自己嫌悪に襲われるのです。誰のために働いているのか、本末転倒じゃないか、と。

「良かれと思って」は、ただの自己満足だった

「相手のために」と思って無理をする。でも、それって本当に相手のためなんだろうか?仕事が雑になってしまったり、疲れた表情を見せてしまったりすることで、かえって依頼人に不安を与えてしまっているんじゃないか。結局のところ、「良かれと思って」は、自分の中の“いい人”像を守りたいだけの、ただの自己満足だったのかもしれないと思うようになりました。

「いい人」を演じる職業病

司法書士という職業は、ある意味“裏方”です。表に出る派手さはなくても、信頼で成り立つ仕事。だからこそ、無意識に「いい人でいなきゃ」「期待に応えなきゃ」と自分を押し殺してしまいがちです。それが積み重なると、まさに職業病のように、自分の本音を押し込め続けるようになります。

司法書士という立場が背負わされる「期待感」

依頼人にとって、司法書士は「なんでも知ってる」「なんとかしてくれる」存在に見えるようです。もちろん専門家としての責任は果たしますが、その期待が過剰になると、こちらの負担は増す一方です。「これもお願いできませんか?」と言われて、断れずに引き受けてしまう。それが積み重なって、いつしか“都合のいい人”にされてしまうのです。

断ることで失う信頼と、引き受けて失う人生

断れば、「冷たい人だ」と思われるかもしれない。そんな不安が頭をよぎる。でも、すべてを引き受けていたら、自分の時間や健康、家族との関係まで失ってしまう。どちらを選ぶかなんて、本当は明白なのに、実際には決断できない。これは「信頼」と「人生」の綱引きのようなものです。

一人事務所の限界、そして孤独

地方でひとり司法書士事務所を運営していると、すべてを一人で背負わなければならないプレッシャーに押し潰されそうになります。事務員はいても、最終的な判断や責任は自分にしかない。その重みが日々じわじわと肩にのしかかってきます。

事務員には任せられない、でも自分も限界

「これ、お願いできるかな?」と簡単に言えれば楽なのですが、うちの業務はそう単純ではありません。法的判断が必要な場面も多く、結局は自分で対応するしかない。その一方で、身体はひとつしかないし、頭もパンクしそうになる。誰かに任せたい、でも任せられない——このジレンマは本当に苦しいです。

「一人で回す」幻想を捨てるべき時期

独立開業した頃は「なんでも自分でやれる」と思っていました。でも、年を重ねるごとに、それが幻想だったことに気づきます。人を信じて任せる勇気も必要だし、無理をしないことが継続への鍵だと痛感します。一人で回す時代は、もう終わったのだと、自分に言い聞かせています。

断る技術——それでも仕事は回る

最近になってようやく、「断る」という選択肢を意識するようになりました。すべてを背負いこまなくても、仕事は意外と回るのです。そして、ちゃんと断れば、それを理解してくれる依頼人のほうがむしろ信頼を寄せてくれることすらあります。

断ってみた結果、案外相手は困らない

「申し訳ないですが、今は立て込んでいて…」と伝えると、「そうですか、ではまたの機会に」とあっさり引き下がる人も多い。こちらが勝手に“断ったら嫌われる”と想像していただけで、実際にはそうでもない。むしろ、無理に引き受けて失敗するより、誠実な断り方の方がよほど好印象なのだと気づきました。

「今は手が回らない」と伝える勇気

言葉にするのは勇気がいります。でも「今は無理です」と正直に伝えることで、相手も状況を理解しやすくなります。断ることで信頼を損なうのではなく、むしろ、限界を知っている人として見てもらえる。そんな意識の変化が、私の心を少しだけ軽くしてくれました。

若い司法書士さんへ伝えたいこと

これから司法書士を目指す方、あるいは開業して間もない方に、ひとつだけ伝えたいことがあります。「無理して引き受けるのが美徳」という時代は終わりました。自分のペースで、ちゃんと断れる勇気を持ってください。それが、長く続けるために何よりも大切なことです。

いい人である必要は、実はまったくない

依頼人にとって必要なのは、“いい人”ではなく“いい仕事をしてくれる人”です。愛想や八方美人な対応よりも、誠実で的確な判断のほうが信頼されます。無理してまで「いい人」を演じる必要なんて、どこにもないのです。

最初に「線引き」しておかないと後で崩れる

最初のうちに「ここまでしかやらない」「この時間は対応しない」とルールを決めておかないと、後でそれを崩すのは難しくなります。一度受けたら、次も受けてくれると思われてしまう。だからこそ、線引きは最初が肝心です。そしてその線を守る覚悟が、自分を守る手段になります。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。

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