あのとき決めておけば…信託設定を先延ばしにした結果、家族が困った話

未分類

あのとき決めておけば…信託設定を先延ばしにした結果、家族が困った話

あのとき決めておけば…信託設定を先延ばしにした結果、家族が困った話

信託の設定、つい後回しにしてしまった理由

信託の提案をしても、「また今度でいいかな」と笑ってかわされることが多い。こちらも強くは言えず、「そうですね、焦るものでもないですし」とつい合わせてしまう。だけど、これが大きな落とし穴になる。タイミングを逃すと、あとから取り返しがつかなくなることもある。

「今はまだ早い」と言われることの多さ

実際、元気なうちは「そんなことまだ考えたくない」と思うのが普通だろう。特に高齢の方にとっては、信託の話は“終活”の一環として捉えられがちで、心理的なハードルが高い。だからこそ、本人が元気なときに、少しずつ話を進めておくことが大切なのだが、それがなかなか難しい。

本人が元気なうちは話が進まないという現実

「まだ大丈夫」と言われれば、こっちもそれ以上は踏み込めない。元気なうちに決めておくことの重要性は伝えるが、現実にはその元気な時間が突然終わってしまうこともある。それがわかっているのに、目の前の依頼者の気持ちを優先してしまう自分がいる。

信託設定のタイミングを逃した、ある依頼者の話

数年前、とあるご家族からの相談で、まさにこの「タイミングの遅れ」が致命傷になったケースがあった。お父様は70代半ばで、見た目にも元気そのもの。ご本人も家族も「今はまだ早いですよね」と笑っていた。しかし、事態は急変した。

元気だったお父さんが急変してしまった

そのお父様が、ある日突然脳梗塞で倒れた。命は取り留めたものの、意思の疎通が難しくなった。その時点で信託の設定は不可能。手続きには意思能力が不可欠だからだ。「え? もう無理なんですか?」というご家族の反応が今でも耳に残っている。

家族会議は何度も先延ばしに

もともと、息子さんが信託に興味を持ち、数回相談に来られていた。「父とも話しておきます」と言いつつ、毎回「今回はタイミングが悪くて」と延期。家族全員がそろう機会も少なく、「じゃあ次回に」と繰り返しているうちに、時間だけが過ぎていった。

気づけばもう、意思確認ができない状態に

倒れた直後、すぐに駆け込まれたが、すでにご本人の受け答えは曖昧で、医師の診断書でも「信託契約を結ぶための判断能力はない」とされてしまった。その瞬間、信託という選択肢は消えた。せっかく準備していたのに、もうどうしようもなかった。

手続きが不成立になるとは、こういうこと

信託は、元気なうちに自らの意思で契約を結ばなければならない。代理での手続きは原則不可。つまり、一歩遅れた時点で、選択肢がなくなってしまう。法律的な話ではあるが、現場ではそれが「家族の苦労」として重くのしかかってくる。

意思能力が問われるタイミングの厳しさ

信託の契約には、本人の「理解力」が求められる。たとえ見た目に元気でも、「今日はなんだかぼんやりしている」と感じた時点で、私は慎重になる。専門職として、そこは非常にシビアな判断を求められる場面。だからこそ、「元気なうち」にというのは単なる口癖ではない。

成年後見制度に切り替えるしかない現実

信託ができなくなった結果、成年後見制度を提案することになる。ただ、それは本人や家族にとって柔軟性のない手続きであり、負担も大きい。気軽に使える制度ではない分、「どうしてもっと早く…」という後悔の声を何度も聞いてきた。

信託と成年後見、家族の負担の違い

どちらも「支える仕組み」ではあるが、その性質は大きく異なる。信託は柔軟で、本人の希望が反映されやすい。一方、後見は制度に沿って厳格に運用される。自由が効かない分、家族にとっても窮屈な思いをすることが多い。

柔軟性を失う後見制度のハードル

たとえば、日常の支出一つ取っても、家庭裁判所の許可が必要なケースが出てくる。信託ならば受託者の判断で動ける範囲が広いが、後見制度ではそれが難しい。これが意外と知られておらず、「こんな面倒だと思わなかった」と嘆く家族が少なくない。

感情的にも経済的にも大きい差

手続きのたびに家裁とやりとりをし、報告書を書き、後見人報酬も発生する。そのたびに家族は「なんのために?」と疑問を感じるようになる。信託であれば、本人の意思を尊重しつつ、家族も無理なく支えられる設計が可能だったのに…という後悔が積もる。

「もう少し早く相談してくれたら」司法書士の本音

毎回思うのは、「あと少し早ければ、できたのに」ということ。だけど、こちらから強く押すわけにもいかない。依頼者の気持ちを尊重するあまり、結果として手遅れになることもある。そのジレンマに、私たちは日々悩まされている。

断る側も、けっこうつらい

「できません」と伝えるとき、相手はがっかりした顔をする。それを見ているこちらも、本当に苦しい。でも、法律は融通が利かない。その冷たさを、毎回誰かに説明しなければならないのが、この仕事のしんどさの一つでもある。

「できません」しか言えない悔しさ

「なんとかならないですか?」と食い下がられても、どうにもならない。「信託というのはそういう制度なんです」と伝えても、納得はされない。それでも、こちらはプロとして、線を引かなくてはいけない。優しさと冷静さ、その両立が本当に難しい。

どうすればタイミングを逃さずに済むのか

結論は単純。「元気なうちにやっておく」。でも、それをどう伝えるかが最大の課題。実は雑談の中にヒントがある。無理に制度の話をするのではなく、ちょっとした将来の不安に共感することから始めるのがポイントだ。

元気なうちにこそ話をしてほしい

「まだ大丈夫だから」ではなく、「今だからこそ考えてみよう」という発想の転換が必要。相談に来るのは、不安を抱えている証拠。こちらがその不安に寄り添い、「できるうちに備える」ことの価値を自然に伝えていくことが、司法書士としての務めだと思っている。

司法書士の「雑談」から始める信託導入

形式ばらずに、「もし急に何かあったら、ご家族どうされます?」という問いかけが効果的だったりする。そこから「実はこんな制度があって…」と自然につなげるのが理想だ。

最初の相談で何を話せばよいか

まずは「今、何に困っているか」「誰に何を任せたいか」を聞くことから。制度の話は後。生活の延長としての信託設計が、結果的にもっともスムーズに進む。

信託の“本質”を伝えるコツ

「相続対策」と言うよりも、「大切な人を困らせない仕組み」と伝えた方が響く。信託は資産を守るためではなく、人を守るための手段なのだと実感する場面が多い。

司法書士として抱えるジレンマ

制度と現実の間で揺れることは日常茶飯事。特に信託は「しておけばよかった」の声を一番多く聞く分野かもしれない。それでも、私たちは「できる時に備える」ことを、地道に伝え続けるしかない。

依頼者の事情と、制度のギャップ

法的にはOKでも、感情的に受け入れられないことも多い。「親に信託の話なんてできませんよ」と言われるたび、どうすればいいか悩む。「今後の備え」として話せる雰囲気を、どう作るかが腕の見せどころなのかもしれない。

説得してはいけない、でも放ってもおけない

あくまで“提案”にとどめる。だけど提案しなければ、後悔するかもしれない。だからこそ、私はこれからも雑談の中に「気づきの種」をまき続けようと思う。きっとそれが、誰かを救うきっかけになると信じて。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。

未分類