あの瞬間、背筋が凍った――FAX送信ミスで個人情報が漏れた話

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あの瞬間、背筋が凍った――FAX送信ミスで個人情報が漏れた話

あの音の後に、嫌な予感しかしなかった

ピーッというFAX送信音は、もはや「昭和の遺物」とすら感じる時代だが、うちのような地方の司法書士事務所では、まだ現役で使われている。ある日の夕方、依頼者に関する資料を送るために事務員がFAXを操作した。特に確認もなく、いつも通りの流れ。しかし、送信完了の音が鳴った瞬間、ふとした違和感がよぎった。「あれ?送信先、本当にあってた?」。その瞬間、血の気が引いた。背中に冷たいものが走るとはこのことだった。

そもそもFAXって令和に必要なのか

本音を言えば、FAXなんて今すぐにでも廃止したい。でも、相手方がFAXしか受け取れないと言ってきたら、こちらとしては従うしかないのが実情だ。メールで送ってくれと言いたいところだが、裁判所や一部の不動産業者、士業間ではFAX文化が根強く残っている。正直、電子メールやセキュアなクラウド共有の方がよほど安心なのに、FAXだけは「慣習」という名の元に生き残り続けている。

紙と機械が生み出す“ミスの温床”

紙ベースでのやり取りは、人の目で確認しないといけない部分が多すぎる。FAX番号の打ち間違い、表裏逆に入れて送信、原稿がくしゃくしゃで送られる――そんな単純なヒューマンエラーが日常的に起きうるのがFAXだ。しかも送ったら即送信、キャンセルなんてできやしない。メールなら「送信取り消し」ボタンもあるのに、FAXには猶予ゼロ。これだけでも、もう十分に“危険な道具”だと思う。

メールじゃダメなんですか?って何度も思う

メールなら、送信前に件名や内容を読み返すことができるし、誤送信しても一応は削除依頼が可能だ。でもFAXは、送ってしまったら終わり。その送信先が間違っていれば、赤の他人に重要な個人情報が届いてしまうリスクがある。しかも、FAXって送り先の確認がディスプレイの番号だけ。まさに「感覚」で操作しているようなものなのに、そこに住所・氏名・相続財産といった極めて重要な情報がのっているのだから、笑えない。

事務所の日常業務に潜む落とし穴

日々の業務に追われる中で、ひとつひとつの作業を丁寧にやるのは理想だが、現実はそう甘くない。書類の作成、電話応対、外回りの段取り、登記情報の確認…どれも大切で、どれも手を抜けない。そんな状況の中で、事務員が少し疲れていたり、私が「急いで送って」と一言言ってしまっただけで、ミスは起こる。これが現場のリアル。

人が少ないと、チェック機能がザルになる

うちは事務員がひとりしかいない。つまり、その人がミスをしても、確認する人がいない。私自身も確認しきれないほどタスクを抱えていることが多く、結果として「お互いが信じて進めてしまう」状態が常態化していた。信頼は大事だが、業務においては「疑ってかかる」くらいで丁度いいのかもしれない。特にFAXのような取り返しのつかない手段は。

「急いでるから」と言った結果がこれ

あの日、私が事務員に「これ、至急でお願い」と言ったのがそもそもの始まりだった。彼女は悪くない。責任は私にある。でも、焦りの中で「確認してから送って」と言わなかった自分に今でも後悔している。結局、プレッシャーの中で「多分これで合ってる」と思って送った結果が、FAX誤送信という取り返しのつかないミスにつながった。

ミスが発覚した瞬間、凍りついた

FAXの送信が終わってから、ふと送信先の番号が頭に引っかかった。確認すると、やはり別の依頼者の番号だった。状況を理解した瞬間、言葉が出なかった。これまでに経験したどんなミスよりも重大だと、その場で直感した。紙に記載された情報は、もう誰かの手元に届いているかもしれない。やり直しはきかない。

送信先の違和感に気づいたのは送信「後」だった

「あれ、この番号…さっきの相談者じゃなかったか?」。違和感があって履歴を確認すると、やはりミスだった。焦って送信先に電話するも、「すでに確認しました」とのこと。そこまで悪用される内容ではなかったとはいえ、住所、氏名、財産内容が書かれた資料が他人の手に渡ったことには変わりない。これはもう、言い訳できない。

まさか…と思ってFAX送信履歴を見て青ざめる

送信履歴の番号を見て、本当に背筋が寒くなった。何度も番号を見返したけれど、事実は変わらない。もうこの瞬間、「あー終わったな」と思った。大げさではなく、人生でトップクラスに落ち込んだ瞬間だった。

先方にすぐ電話…でも「もう見られてるかも」という絶望

間違って送ってしまった相手にすぐ電話をかけた。「が、誤って資料を送信してしまいました…」と震える声で話す。相手は冷静に対応してくれたが、「もう見ちゃいましたけど…」という言葉が返ってきたとき、本当に心が折れた。もうどうしようもない。謝罪するしかなかった。

言い訳なんて通用しない、完全にこちらの責任

誤送信された方、そして本来の依頼者、どちらにも頭を下げに行った。信頼が一気に崩れる瞬間というのは、本当に一瞬だ。誤送信の原因をどう説明しようが、「個人情報が他人に渡った」という事実がすべてを物語っている。何より、自分の中で「やってしまった感」がずっと残るのがつらい。

事後対応の苦しさと自己嫌悪

問題が発覚してから、すぐに上司に報告…なんてことはない。なぜなら私はその上司だからだ。すべての責任は自分に降りかかる。その重圧に押しつぶされそうになりながら、誤送信の事実、原因、今後の対策を書面にして依頼者に説明した。自分が信頼されるべき立場なのに、信頼を壊してしまった。この自己嫌悪は簡単には消えない。

依頼者への報告が何よりつらい

「すみません、別の方に個人情報が届いてしまいました」。この一言を言うのが、どれほどつらかったか。依頼者は怒らなかった。それが逆につらかった。「大丈夫ですよ」と言われたけど、それが本心なのか、呆れて言葉が出なかったのか…もう考えるだけでしんどかった。

自分の信頼ってこんなにも脆いのかと実感

士業って、結局「信頼」で仕事をしている。だからこそ、ひとつのミスが命取りになる。そのことを身をもって痛感した。謝罪しても、信頼が戻る保証はどこにもない。だからこそ、こういう凡ミスこそ、絶対に起こしちゃいけなかったんだ。

再発防止に向けて、やったこと・やらなかったこと

誤送信から数日後、私はFAXの使用ルールを見直した。そして、できることはすべてやろうと決めた。ただ、現実的にできなかったこともある。「FAXを廃止する」ことは、そのひとつだ。

送信ルールを形だけでも「明文化」

今さら感はあるけれど、送信ルールを文書化した。「送信前には必ずダブルチェック」「FAX番号は紙でなく名簿からコピペ」など、当たり前のことを見える化した。これだけで事故がゼロになるとは思わないけれど、少なくとも、また同じミスをする確率は減らせるはずだ。

FAX使用そのものをやめた…かったけど無理だった

本音ではFAXなんて今すぐにでもやめたかった。でも、関係先とのやり取りや、役所との手続きなどで、まだFAXが現役の場面もある。結果、FAXを完全廃止することは断念し、代わりに送信のたびに「確認作業を怠らない」仕組みに注力することにした。

同業者に伝えたい、「これ、他人事じゃないです」

このコラムを読んでくれた司法書士や、司法書士を目指す人には、ぜひ覚えておいてほしい。FAX誤送信なんて、他人事じゃない。いつ、誰にでも起こりうる。そして起きてしまえば、信頼を大きく損ねてしまう。FAX一枚で、それまで積み上げてきたものが崩れることもあるんだ。

小規模事務所こそ、凡ミスが命取りになる

私のように一人事務員+司法書士の体制では、確認の目が足りない。だからこそ、ミスが起きやすい。人数が少ないから仕方ない…では済まされないのがこの仕事の怖さ。だから、全力で「確認作業」を仕組み化しないといけない。

自分が悪くなくても、事務所の責任になるという現実

仮にミスをしたのが事務員でも、それを管理できなかった自分の責任になる。それが司法書士という立場の重さであり、厳しさだ。自分が悪くなくても、結局は自分の信用が問われる。だからこそ、職員の作業にも、もっと目を光らせるべきだったと、今では思う。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。

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