え、まだ登記終わってないのに?引っ越し済ませた依頼人の一言に絶句

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え、まだ登記終わってないのに?引っ越し済ませた依頼人の一言に絶句

登記前に引っ越し?依頼人の一言で固まった朝

「先生、もう引っ越し済ませましたよ」——電話口でそんな軽やかな声を聞いた瞬間、私は一瞬、時が止まった気がした。何かの冗談かと思いたかったが、そうではなかった。まだ登記完了前、抵当権の抹消も所有権移転も済んでいない状態で、すでに依頼人は新居に引っ越してしまっていたのだ。思わず電話を握る手に力が入った。

まさかの「もう引っ越しました」発言

この一言がどれほど私を動揺させたか、わかってもらえるだろうか。「えっ、いつの話ですか?」と聞き返すと、「先週末に引っ越しました。だって鍵もらったし、住めるなら早い方がいいと思って」とさらり。登記が終わっていないリスクを説明したはずなのに……いや、説明したつもりだったのか? 自問が始まった。

全身に広がる「いや、それ先に言ってよ」感

引っ越し自体を止める法的根拠はない。ただ、登記が完了していない状態で物件を使用することがどれだけ危険か、専門家としては説明し続けてきたつもりだった。だが、依頼人にとっては「住めばいいでしょ?」の感覚。言葉は届いていなかった。司法書士の“伝えたつもり”は、依頼人にとって“聞いてない”に過ぎないと、またしても痛感させられた。

登記が終わっていないことのリスク

「登記が終わっていない」というのは、たんなる書類の遅れではない。所有権の法的な移転が完了していないという、極めて重大な状態を意味している。それなのに、依頼人はその危機感を持っていないケースが多すぎる。今回はまさにその典型例だった。

引っ越し=所有権移転ではない

鍵をもらったからといって、法的に「その家の持ち主」になったわけではない。登記簿に反映されて初めて、対外的にもその人の財産となる。この認識のズレがあると、後にトラブルが発生した際、法的に守られない可能性すらあるのだ。

トラブルになるケース:よくあるパターン

実際に、登記前に引っ越したことで後から揉めるケースは少なくない。たとえば、売主に差押えが入っていたことが発覚し、登記前だったために買主の権利が守られなかったという事例もある。事前に危険を回避するための手続きをすっ飛ばすことは、あまりにリスクが大きい。

抵当権の抹消が済んでいなかった例

以前担当した案件では、旧所有者の住宅ローンの抵当権が登記簿に残ったまま、買主が引っ越してしまったケースがあった。その後、ローン滞納による競売通知が届いたとき、買主は当然ながら大混乱。結局は裁判沙汰になり、余計な費用と時間を費やす羽目に。こういう「登記軽視」のツケは、あとから高くつく。

司法書士が責任を問われかねないケース

さらに厄介なのは、依頼人の誤解によって司法書士側が責任を問われる可能性もあることだ。「ちゃんと説明しましたよ」では通用しない。説明内容を記録していなかったり、口頭だけで済ませていたりすると、いざというときに「聞いてない」の一点張りで攻められる。冷や汗ものだ。

なぜこうなった?依頼人との認識のズレ

このズレは、どこから生まれるのだろうか。やはり一番の原因は「登記」というものが一般の方にとって、あまりに抽象的で地味で見えにくい作業だということだ。重要性が伝わりにくいので、つい軽視されがちなのだ。

「登記」という言葉の誤解と軽視

「登記って、なんか市役所みたいなところに出す書類ですよね?」という認識の方も多い。いや、それ法務局だし、そもそもそれで済む話じゃない。登記が完了して初めて「その人の財産」となり、法律上も守られる。それを軽く見られると、こっちは命綱を断たれる思いになる。

こっちが説明しても、伝わってない

紙も渡した。口頭でも伝えた。それでも「引っ越していい」と勘違いされる。結局は「伝えたかどうか」ではなく、「伝わったかどうか」がすべて。司法書士は“専門家”であるがゆえに、つい難しい言葉で話してしまう癖がある。それが距離を生んでいるのかもしれない。

忙しい現場で起きやすい見落とし

言い訳に聞こえるかもしれないが、実際のところ、地方の小さな事務所では時間にも人手にも余裕がない。1件1件に丁寧な説明を……と思っていても、急ぎの案件や補正対応に追われてしまう。結果として、確認漏れや誤解が起きてしまうのだ。

一人事務所の限界:連絡漏れと確認不足

私の事務所は、私と事務員一人の小さな体制。メールや電話のやりとりも手作業が中心で、どうしても限界がある。電話で伝えたつもりでも、文面では残しておらず、後から「あれって言いましたっけ?」となる。これが本当に怖い。

チェックリストがあっても追いつかない

一応、案件ごとのチェックリストはある。でも、現場は生き物だ。イレギュラー対応があれば、すぐに頭がそちらに向かい、チェックが抜け落ちることもある。特に「当たり前すぎて言わなくてもわかるだろう」という思い込みが、一番の落とし穴になる。

事務員に頼りきれない葛藤

事務員はよくやってくれている。でも、法律的な説明や判断はやはり私の役割。彼女に全部を任せるわけにもいかない。かといって、私一人で対応できる量には限りがある。そのジレンマが、日々の疲労感として蓄積していく。

じゃあ、どうすればよかったのか?

後悔しても仕方ないが、やはりこちらの説明体制に問題があったのは事実。今回のようなケースを防ぐには、もう一歩踏み込んだ対応が必要だったのだと思う。伝え方の工夫や、確認プロセスの見直しが求められている。

事前のアラートと書面化の徹底

「登記完了前に引っ越すことは絶対にやめてください」——この一文を、契約書とは別に、確認書類として提出してもらうようにすればよかったのではないか。口頭説明だけでなく、チェックボックス形式で署名もらうなど、もう少し形式化していたら結果は違ったかもしれない。

「まだ引っ越さないでね」をもっと強調すべきだった

書類の一部にさらりと記載しただけでは、依頼人の記憶には残らない。「念のため」として伝えていた部分が、相手には「まあ大丈夫なんでしょ」と聞こえていた。もっと危機感をもって、きちんと強調すべきだったのだ。

同業者に伝えたいこと

このコラムを読んでくれている同業者の方々には、ぜひ「伝わってるか?」を常に疑ってみてほしい。登記前の引っ越しは、依頼人が自分の手でトラブルを招いているようなものだが、最終的にはこちらの責任も問われることがある。

依頼人は登記の重要性を“本気では”わかってない

どれだけ丁寧に説明しても、依頼人の心には響かないことがある。彼らにとって登記は“おまけ”であり、“儀式”程度にしか思っていない人もいる。でも、我々には命綱。だからこそ、伝え方の質を上げるしかない。

それでも責任はこっちに来るという現実

「先生が何も言わなかった」「聞いてませんでした」。そう言われた瞬間、我々の立場は一気に不利になる。説明の証拠、やり取りの記録——面倒でもすべて残しておくべきだと、あらためて痛感している。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。

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