依頼人がサインを拒否――まさかの出来事は突然に
司法書士として長年仕事をしていると、まあいろんな依頼人がいますが、たまに「これは本当に現実か?」と目を疑うような場面に出くわします。今回紹介するのは、ある依頼人が、必要な書類にサインするのを断固拒否したというエピソード。何か法的な問題か、手続きの不備かと思いきや、出てきた理由は、あまりに予想外すぎて言葉を失いました。
事件の発端:いつも通りの説明、いつも通りの書類
その日も、いつものように事務所で相続登記の説明をしていました。書類も一通り整えて、依頼人には事前に内容も目を通してもらい、特に異議もなく、「では、こちらに署名をお願いします」といつもの流れで促したところ、相手の手がぴたりと止まったのです。
まさかの一言「これ、私は署名できません」
一瞬、何を言われたのか理解できませんでした。署名できない?なぜ?と聞き返すと、依頼人は「ちょっと…画数が気になって…」と戸惑いながらつぶやいたのです。思わず「えっ?」と声が出ました。
その理由に私は言葉を失った
画数…?まさか姓名判断の話?この段階で私はかなり動揺していました。依頼人の信条を否定するつもりはありませんが、登記のために必要な署名を「縁起が悪いから」と拒否されるとは…その後、さらに衝撃の理由が続きます。
「名前の画数が悪いのでサインしたくない」
依頼人曰く、最近知人に「今の名前は運気が悪くなる」と言われたらしく、それ以来、サインや印鑑を押すことに対して極端に神経質になっていたとのこと。登記のための署名が自分の“運気”をさらに下げるのではと本気で心配している様子でした。
思わず「は?」と聞き返してしまった
いくらプロとして冷静に対応するよう心掛けているとはいえ、その場ではつい「えっ…」と声が漏れてしまいました。正直、こっちは登記の期限もあるし、他の相続人の協力も得てここまで進めてきているのに、そんな理由で断られるとは…と、内心でため息連発です。
印鑑の朱肉の色にもこだわりがあった
さらに驚いたのが、「朱肉の色が明るすぎるから使いたくない」という追加の要望。え?そこ?と思いましたが、本人は真剣そのもの。家にある“濃い赤”の朱肉を持ってきたいから、また後日でもいいですかと言い出す始末。登記申請のスケジュールがズレこみ、他の相続人への説明も余分に必要になりました。
他にもあった“驚きの拒否理由”たち
この件をきっかけに、過去の似たようなケースを思い出しました。司法書士の業務というのは、書類相手に見えて、その実、常に「人間相手」だということを改めて痛感します。
ペンのインクの色が黒じゃないとダメ
「青は不吉」「茶色は陰気」とインクの色に異常なまでのこだわりを見せた人もいました。黒じゃないと絶対にイヤだと、ペンを差し出しても断られ、持参の“縁起のいいペン”で書きたいから一度帰ると…。無理に説得すると逆効果なので、こちらも忍耐勝負です。
書類の端が少し折れていたからNG
一度、書類の左下がほんのわずかに折れていただけで、「こんな雑な書類にサインしたくない」と怒られたこともあります。訂正印が一つあるだけで「こんな修正だらけの書類、信用できません」と言われたことも。いや、こっちは法律にのっとって処理してるだけなんですけどね…。
我々司法書士が直面する“想定外”の現実
契約書や登記関連の書類というのは、法的には形式や内容が重要です。しかし、最終的にそこにサインするのは“人間”であり、その人間の感情や価値観により左右される現実を無視することはできません。
書類を整えても、最後の「人間」が壁になる
どれだけ書類を完璧に仕上げても、依頼人がサインしなければ一歩も進めない。それが司法書士の宿命でもあります。つまり、仕事の最終工程で、いきなり壁が立ちはだかることがある。それも、理不尽な壁が。
冷静な対応が求められるが、感情は揺れる
プロとして怒りをあらわにするわけにはいきません。でも正直、なんでこんなところで足を引っ張られるんだ、と心の中では何度も叫んでいます。
「面倒な依頼人」にどう対応すべきか
一番の対策は、「とにかく聞くこと」。相手が納得しない限り進まないので、多少の非効率は受け入れざるを得ません。理屈で押しても逆効果になるケースが多いため、「気持ちを満たすこと」が先です。
こういうとき、どう乗り越えるか?
現場では常に臨機応変さが求められます。マニュアル通りにはいかない。でも、毎回同じような問題が起きるわけではないからこそ、こちらの体力もメンタルも削られていくのがつらいところです。
まずは一呼吸、相手の価値観を否定しない
「自分だったらそんなことで断らない」と思ってしまいがちですが、それは通用しません。どれだけこちらが正しくても、相手が納得しなければ成立しない。だからこそ、“一呼吸”おいて共感する姿勢が大切なのです。
それでもダメなときの“逃げ道”の作り方
たとえば「日を改めて落ち着いてから再確認しましょう」と提案する。もしくは、「他の親族にも確認してもらってから、またお返事を」といった逃げ道を用意する。そうすれば、少なくともその場の緊張は和らぎます。
事務所経営者としての本音:正直、疲れる
本当に、やりがいと苦労は紙一重です。依頼人の人生に関わる仕事だから責任は重いし、うまくいけば感謝もされます。でも、理不尽な壁にぶつかるたびに、「自分は何をやってるんだろう」と思うこともあります。
事務員にも気を遣う。説明は三倍必要
こういう場面の後、事務員にも「なぜ今日の登記ができなかったのか」を説明しなければならない。しかも、“感情面”の理由なので、伝えにくいし、納得もされにくい。結果、こちらのストレスだけが倍増します。
理不尽を飲み込む日々に、時々嫌気がさす
「なんで自分だけがこんな思いを…」と感じることも多いです。手続き自体はルール通りやっているのに、最後に“気分”でダメになる。そういう積み重ねで、ふと、辞めたいと思う日もあります。
でも結局、やるしかない
それでも、目の前に困っている人がいれば手を差し伸べる。それが司法書士という仕事なんでしょうね。だからこそ、愚痴りながらも、また明日もサインをもらうために机に向かうのです。