案件が一気に押し寄せるとき、何が起こっているのか?
司法書士として地方で一人事務所を構えていると、案件がまるで潮のようにやってきます。静かなときは本当に何もないのに、ひとたび動き出すと一気に電話と書類が山のように押し寄せてくる。これはただの忙しさではなく、“圧”なんですよね。最初はなんとかこなそうとするんですが、あるラインを越えると自分のキャパも思考も完全に崩れてしまう。そうなるともう、「何を優先して処理すればいいのか」もわからなくなる。今回はそんな状況で、どうやって自分を立て直すかについて、自戒を込めて書きます。
繁忙期は「予測不能な津波」
忙しさが読めないというのが地方事務所の特徴でもあります。都市部と違って、案件が常に一定数あるわけじゃない。だからこそ、一件大きな相続が入ったり、登記案件が重なったりすると、一気に事務所のリズムが狂う。私のところも、正月明けに4件の相続と2件の抵当権抹消が同時に来て、頭が真っ白になりました。「津波」って、逃げ場がないという意味でまさにぴったりな表現です。
一人事務所ゆえの限界
大手法人と違い、こちらは私と事務員一人だけ。私は外回りも書類作成も、すべてをこなす必要がある。依頼主にとってはそんな事情は関係ない。期限は期限です。夜10時を過ぎてから、「このまま寝ないでいけば明日の午前中には納品できるかな」とか、そんなことを真剣に考えていると、自分が壊れていくのがわかる。それでも止められないんです。
「今日終わらせなきゃ」の連鎖で自滅
「今日やらなきゃ明日もっと大変になる」という思考回路に一度ハマると、抜け出せません。最初は一日だけのつもりが、気づけばそれが数週間続いている。私はある月、毎日夜11時帰宅が続いたせいで、最終的に風邪をこじらせて倒れました。結局、全部遅れました。何やってるんだろうって、心の底から思いましたね。
飲まれそうになる瞬間の心理状態
波に飲まれる感覚って、ただ忙しいというだけじゃありません。自分の意思でコントロールできなくなったとき、人は強い無力感に襲われます。司法書士という職業の責任感が、それに拍車をかける。誰かが困っている、でも自分も崩れかけている。その板挟みの中で、冷静な判断ができなくなっていくんです。
不安よりも「諦め」の感情が強くなる
不安や焦りというより、あきらめに近い気持ちが湧いてくる。「もういいや」「もう知らん」そんな感情。でも、不思議と仕事は続けてるんですよね。手は動くけど、心が完全にシャットダウンしてる状態。私も一度、登記の必要書類を丸ごとコピーし忘れて提出しかけたことがあります。無感情で動くと、ミスが一気に増えます。
自分が回らないと全体が止まる恐怖
一人事務所の辛さは、誰も代わりがいないということ。体調が悪くても、葬儀があっても、基本的には私が回さないと業務が止まる。実際にインフルエンザで寝込んだとき、3日後の登記納期に間に合わず、依頼者から怒りの電話がきました。「代わりがいないなら、どうすればいいんだ」って、自分に問いかけても答えが出ませんでした。
愚痴を吐くことでしか保てない精神衛生
司法書士は感情を見せない職業と思われがちだけど、内心はいつも不安や焦燥でいっぱいです。そんな中で、たった一つ救いだったのは「愚痴を言える相手がいること」。同業者とのLINEグループや、事務員との雑談の中で愚痴をこぼすだけで、かなり気持ちが軽くなります。
「こんな愚痴言いたくないけど…」が日常
「ほんともう無理」「なんでこんなに一気に来るんだ」……言いたくないけど、言わないと潰れる。私は事務員に「ちょっと聞いて」と言いながら、気づけば30分ぐらい話してることがあります。聞かされるほうは迷惑かもしれないけど、少なくとも「聞いてくれる人がいる」というのは心の支えです。
でも、愚痴がないと壊れてしまう
愚痴を押し殺していた時期もありました。でも、そうするとどうなるか。感情の逃げ道がなくなって、ある日突然「もういいや」と事務所を閉めたくなる。それって、危機的状況なんですよね。だから私は、今では意識的に「弱音を吐く日」を週に1回つくっています。これはメンタルを保つためのセルフケアです。
無理に泳がない。立て直すための前提とは
すべてを頑張って泳ぎきろうとすると、沈むのは時間の問題です。だからこそ「無理に泳がない」=「休む」「優先順位を下げる」ことが必要になります。変な話ですが、「あきらめる力」って、経営にはすごく大事だと実感しています。
波に逆らわず浮かぶ選択
私が最近実践しているのは、忙しさを“やり過ごす”感覚。つまり、全部やろうとせず、「今日やるべき最小限」に集中するということです。逆に波に逆らって泳ごうとすると、余計な仕事まで抱え込んで溺れます。おかげで、少しずつ呼吸ができるようになってきました。
「今週は沈んでもいい」と思える心の余白
ある週、もう何をしても追いつかない状態になったとき、ふと「今週は沈んでいい」と思ったんです。不思議とそこから、冷静になれました。「今を無理に乗り切ること」ではなく、「再浮上するタイミングを計ること」が大切なんだと気づきました。
実践してみて効果があった「立て直し」の工夫
大きな改革ではなく、小さな見直しでも効果はあります。特に意識してやっているのが、「タスクの見える化」と「やらないことリストの作成」。これだけでも随分と精神的負荷が減りました。
業務の分解と思考のリセット
業務がパンクすると、「すべてが手つかず」に見えてしまいます。なので、紙に全部書き出して、ひとつずつブロックに分けます。そうすると、意外と「5分で終わること」も混ざっていて、そこから再起動できるんです。
まず「やらないこと」を決める
「今週は不動産の相談電話には出ない」とか「契約書レビューは来週回し」とか、意図的に“やらないこと”を決める。これ、最初は罪悪感あるんですが、だんだん「必要な判断」だと思えるようになります。
事務員の存在が救いになるとき
本当に一人では無理です。私も以前は「全部自分でやった方が早い」と思っていましたが、限界を迎えたときに事務員に任せてみたら、予想以上にうまく回りました。人に頼るのって、勇気が要るけど大事です。
「手伝うよ」の一言で息ができた
一番しんどかった日、事務員が「午後の電話応対、私がやりますよ」と言ってくれたんです。その瞬間、肩から何かがふっと降りました。「ひとりじゃない」って、すごい力になります。
任せる勇気、育てる根気
すぐには任せられない。でも、小さなことから少しずつ教えていくと、信じられないぐらい成長してくれる。人に任せるのは「時間がかかる投資」だけど、長期的には絶対にプラスです。
他の司法書士も、実は同じ波にもまれている
SNSでは「バリバリ稼いでる」「効率的に回してます」って人も多いけど、裏ではみんな、しんどい思いしてる。私は同業者の集まりで、初めてそれを実感しました。安心しました。
見えないだけで、みんな疲れてる
「うちも3月は地獄でしたよ」って、ベテランの先生が言ってくれたんです。その瞬間、「自分だけじゃない」って思えて、ちょっと泣きそうになりました。苦しさを共有する場は大事ですね。
「完璧に回ってる事務所」なんて幻想
「あの事務所は完璧」なんて、勝手な幻想です。実際は裏で必死に調整してるし、ミスもしてる。SNSや表の姿に惑わされないで、自分のペースを守る方が結局うまくいきます。
目指している人へ:この現実も知っておいて
司法書士という職業は誇り高いけど、決して華やかではありません。特に一人事務所をやるなら、孤独・重責・体力勝負の3点セットは避けて通れません。でも、それを知った上で目指すなら、きっと乗り越えられます。
独立後の自由=責任100%の世界
「自由に働ける」ってよく言われるけど、自由には全部自分で決めて、全部自分で背負うっていう現実がある。その覚悟が持てるかどうかが分かれ目だと思います。
夢が潰れる話じゃなく、備えてほしい話
これを読んで「やっぱ無理そう」と思ったなら、それはそれで大切な気づき。でも、「そうか、対策すればいいんだ」と受け止めてくれたなら、それは強さです。あなたなら、たぶん大丈夫。
「飲まれないために」ではなく「浮かび続けるために」
完璧を求めず、波に逆らわず、沈まない術を身につける。それが、司法書士という仕事を続けていくために必要な姿勢なんだと思います。自分を責めず、誰かに頼り、そして時には諦める。それもまた、前に進む力です。
無理しない。減らしていく覚悟を持つ
「今月はもう断る」と決めたとき、自分を取り戻せました。収入より健康、完璧より継続。そんな風に考え方を変えていくことで、少しずつ波の中でも呼吸できるようになってきました。
しがみつくより、力を抜く技術
ずっと全力で泳いでたら、息が続かない。でも、力を抜いて浮いてれば、意外と次の波が来るまで持ちこたえられるもの。そんな「脱力の技術」を、これからも磨いていきたいと思います。