そのひと言が、明日を変える。
なぜ、こんなにも心が折れそうになるのか
司法書士として地方で事務所を構えて十数年。やってもやっても終わらない業務、絶え間ない電話対応、細かな気配りが求められる現場。そんな毎日を繰り返していると、ふとした拍子に「なんのためにやっているんだろう」と感じる瞬間があります。特に一人事務所であればなおさら、誰にも頼れない感覚がじわじわと心を削っていきます。忙しさという名の濁流に飲み込まれながら、私たちは知らず知らずのうちに「自分を支える言葉」を失っていくのかもしれません。
日々積み重なる小さな疲労
ひとつひとつは些細な業務でも、それが毎日何十件も重なると気づけば心身ともに擦り減っています。朝一番の電話対応、郵送物のチェック、書類の精査、登記情報の確認……どれも手を抜けないし、手を抜けばミスに直結する。なのに、その積み重ねに「お疲れさま」と声をかけてくれる人はほとんどいない。だから、つい愚痴っぽくなるのです。「誰のために頑張ってるんだっけ?」と。
「書類の山」と「電話の嵐」に埋もれて
特に月末や年度末、繁忙期になると机の上の書類の山が文字通り崩れそうになります。電話も鳴り止まず、1日10件以上の問い合わせが舞い込むこともざら。内容は登記の相談から、よくわからない営業電話まで。どこまで丁寧に対応するか、どこで線を引くか、正直なところ毎回迷います。そのたびに自分の時間が削られていく感覚がして、やるせなくなるんです。
事務員に頼れない葛藤
うちの事務員さんはとてもよく頑張ってくれているのですが、結局のところ責任の重さが違います。最終判断は私が下さなければならないし、何かあれば矢面に立つのも私。だからこそ、事務員にすべてを任せきれない自分がいます。頼りたい気持ちはある。でも、もし間違いが起きたら…という不安もある。信頼とリスクの狭間で、常に揺れています。
誰にも言えない孤独との戦い
司法書士という仕事は、意外と「一人」で完結してしまう場面が多いです。お客さんとは関係性があっても、同業者とはライバルでもあり相談相手にはなりづらい。ましてや、自分の弱みなんて見せられない。そんな空気がこの業界にはあります。だから、悩みを抱えていても誰にも言えず、自分の中で飲み込んでしまうことが多いんです。
家族に愚痴っても伝わらない
妻に「今日もしんどかった」とこぼしてみても、正直なところピンと来ていない様子です。登記がどうとか、法務局がどうとか、専門用語が多すぎて話が噛み合わない。それも仕方ないと分かってはいるけど、なんとなく虚しくなります。わかってもらえないという感覚は、じわじわと心を冷やしていきます。
同業者同士でも競争意識が邪魔をする
地域の司法書士同士で集まる機会もありますが、どうしても仕事の量や事務所の規模などを比べてしまいます。「あの人は法人化してる」「事務員を3人も雇ってるらしい」といった話題になると、素直に自分の悩みを出す気にはなれません。結果、またひとりで抱え込んでしまうんです。
転機は、いつもさりげない言葉だった
そんな日々の中、心にふっと風が吹くような出来事があります。劇的な変化ではなく、ほんの些細な言葉。でも、それが驚くほど心に染みて、明日を生きる力になってくれたことが何度かありました。だから私は、「言葉の力」を決して軽く見ないようにしています。
お客さんの「ありがとう」が刺さった日
何気なく対応した相続登記の依頼で、「先生、本当に助かりました」と涙ぐみながら言われたことがあります。こちらとしては、いつもの業務の延長。むしろちょっとイレギュラーで時間もかかった案件だったので、申し訳なさすらあったのですが、その一言が不思議と心を癒してくれました。
心ないひと言より、心あるひと言
逆に、無神経な一言で深く傷ついたこともあります。「こんなの誰でもできる仕事ですよね?」という電話での言葉。そんな時に限って、別の依頼者から「丁寧に対応してくれて助かった」と言われることがある。そのギャップに、まだやれる、もう少し続けてみようと思える自分がいるのです。
事務員の何気ない一言に救われた夜
ある日、夜遅くまで残って作業していたとき、事務員さんがふと「先生って、いつもちゃんと全部チェックしてるんですね。尊敬します」とポロっと言ってくれたんです。驚きました。まさかそんなこと思っていたなんて。でもその一言で、その週の疲れが全部吹き飛んだ気がしました。
愚痴に共感してくれる存在のありがたさ
仕事の不満を言っても「わかります」とうなずいてくれるだけで、気持ちが和らぎます。それ以上の解決策なんていらない。ただ、否定せずに聞いてくれる人がいるだけで、随分と救われるんです。
過去の自分にかけたい「たった一言」
今振り返ると、あの頃の自分にひとこと言ってやりたくなることがあります。失敗ばかりだった頃、寝る間もなく働いていた頃、すべてが無駄に思えたあの頃。そんな自分に、あの一言があれば少しは楽になったかもしれないと。
「無理しなくていい」は魔法の言葉
誰かに言ってほしかった。「無理してるように見えるよ」「ちゃんと休んでもいいんだよ」って。言われたかったけど、言われなかったから、自分で気づけなかった。司法書士は自分を追い込みがちだからこそ、こういう言葉を誰かに届けていく役割もあるんじゃないかと最近は思うようになりました。
「もう十分がんばってる」って誰かに言ってほしかった
世の中には、自分を褒めてくれる人って少ない。結果が出なければ評価されないし、出ても「当然」と思われることも多い。だからこそ、誰かがポツリと「十分がんばってますよ」って言ってくれたら、その日くらいは少し気が楽になれるんじゃないかと思うんです。
言葉の力を信じるということ
司法書士という仕事は、形式や正確性を重視する分、感情や言葉のやりとりが軽視されがちです。でも、本当に人の心を動かすのは、ちょっとした言葉だったりします。だから私は、言葉の力を信じています。そして、自分自身も誰かの背中をそっと押せるような言葉を持っていたいと思います。
励ましとは、決して大げさなものでなくていい
「がんばれ」よりも、「そばにいるよ」のほうが響くこともあります。司法書士に限らず、疲れている人ほど、大きな言葉よりも、静かな言葉に心を動かされるものです。そんな言葉を、自分も自然に口にできるようになれたら、と思います。
司法書士という職業の中で必要な「優しい嘘」
時には、現実をそのまま伝えるよりも、少し柔らかく伝えることで救われる依頼者もいます。「間に合います」と断言できないときでも、「なんとか調整してみます」と伝えることで安心される方もいる。その言葉が、相手を助け、自分も守る。言葉の力って、そういうところにも宿るのだと思います。
これから司法書士を目指す人へ伝えたいこと
今、司法書士を目指している方へ。華やかな部分は多くないし、しんどい場面もたくさんあります。でも、人の人生に関わる仕事だからこそ、感謝されたときの嬉しさも本物です。そして、どんなに疲れても、ほんのひと言があなたの支えになることがあります。
甘くはない。でも、支え合う力は確かにある
この仕事は孤独です。でも、完全に一人ではない。悩みを共有できる仲間もいるし、苦しさに共感してくれる同業者もいます。そういう存在がいることを忘れず、必要なら声を出してください。誰かが必ず応えてくれます。
ほんの少しの言葉が、あなたの背中を押す日がきっと来る
一言で状況が変わることはありません。でも、その一言で「もう少しだけ頑張ろう」と思える日があります。私は何度もそういう言葉に救われてきました。そして、これからも救われると思います。だからこそ、あなたにも伝えたい。「そのひと言が、明日を変える」ことが、確かにあるのだと。