まさかの登記書類取り違え事件
あれは忘れもしない火曜日の午後。午前中にぎりぎりで仕上げた登記申請書類をバタバタと封筒に入れ、事務員さんが郵便局に走ってくれた数時間後、一本の電話が鳴った。「あの…届いた書類、まったく関係ない物件の登記になってるんですが…」と言われて、血の気が引きました。自分の名前で送ったのは間違いない。でも、送った中身がまるで違う。それは別件の依頼者のものでした。思わず「えっ…?」と声が漏れたあの瞬間、今でも夢に出てきます。
「あれ?何かおかしい…」と気づいた瞬間
普段から登記の手続きで多少の書類不備は経験しますが、この時はまったく違う人の書類を送ってしまったという、シャレにならないミスでした。電話の向こうの依頼者が冷静だったのがせめてもの救いでしたが、こちらの頭の中は一気にパニック。「どうやって取り戻すか」「誰にどの順で謝るか」そんなことばかりが渦巻いていました。
差出人は間違いなく自分。でも宛先が違った
封筒に貼ってあった宛名も、自分のメモも、全て合っていたんです。つまり、封筒だけ正解で、中身だけ間違っていた。逆に言えば、まったく気づくタイミングがなかったということです。作業が重なり、見慣れた住所の封筒に、似た名前の書類を入れてしまった…そんな地味なミスが、実務では命取りになります。
どうしてこんなミスが起きたのか
忙しさにかまけた、というと聞こえは悪いですが、実際問題、うちのような小規模事務所では一つひとつのミスが出る余地が日常の中に潜んでいます。書類をチェックする時間、封をする時間、確認する時間、そのすべてが「急げば飛ばす」対象になりうるのです。
忙しさと紙の山に埋もれて
件数が増えると、書類の山がどんどん積み重なります。司法書士の業務は本当に「紙」との戦いです。メールやPDFも増えてきたとはいえ、肝心な登記書類はまだまだ紙の世界。その中で、同時進行する案件の資料が机の上にあちこち並ぶ日々。うっかり混ざることは、起こり得てしまいます。
「とにかく早く送らないと」が招く判断ミス
このときも、「今日中に出さなきゃ」というプレッシャーの中で、なんとか午前中に書類を封入し、事務員に持たせました。余裕がなかったので、ダブルチェックを怠ったのです。何度も見直していたつもりなのに、「見た気になっていた」だけ。思い込みほど怖いものはありません。
人手不足のリアル:事務員も手が回らない
うちは事務員が一人だけ。ベテランですが、彼女もまた他の案件で手一杯でした。私も現場に出ていたため、最終チェックは結局誰もしていなかったことになります。組織的なチェック体制を作ることの大切さを、身をもって痛感しました。
複数案件が同時進行…脳内の混乱と疲労の積み重ね
この仕事を長くやっていても、同じ時期に複数の相続登記や抵当権抹消登記が重なることがあります。案件ごとに状況も提出先も違うのに、頭の中で整理しきれないことがある。それでも「慣れ」でこなしてしまおうとする。そこに落とし穴があるんですよね。
誤送信がもたらした地味に大きな代償
この手のミスは、表立って大炎上するようなトラブルではないけれど、確実に信用を削っていきます。登記業務は「正確性」と「信頼」が命ですから、小さなほころびでも、取引先や依頼者の不安につながってしまいます。
まず先方に平謝り、そして再発防止の誓い
ミスが発覚してすぐ、相手方に謝罪の電話をかけ、事情を説明し、書類を返送してもらいました。その際の送料や手間も当然こちら持ち。さらに、あらためて正しい書類を送付。もう、それだけで1日が潰れました。何より精神的にしんどかったです。
「信用」って一度崩れると、取り戻すのが大変
「人間だからミスもあるよ」と言ってくださった依頼者に、私は頭が上がりません。逆に言えば、普通の人なら不信感を持って離れてもおかしくない状況でした。書類ひとつのミスが、数年来の関係を壊しかねない。登記業務の重みをあらためて思い知らされました。
一見小さなミスでも信頼の土台は揺らぐ
司法書士に求められるのは、正確性だけでなく安心感です。「あの先生に任せておけば大丈夫」と思ってもらえるかどうか。それが揺らいだ瞬間、次の依頼は来ないかもしれません。今回は救われたけれど、次はどうなるかわからない。それが現実です。
「司法書士も人間です」なんて言い訳は通じない
誰だって間違える。でも、それを依頼者に言うのは逃げでしかないと感じます。結局、信頼を預かる立場にある以上、ミスを前提にしてはダメなんです。だからこそ、体制を整えるしかないんですよね。ミスをしないための仕組み。感情より仕組み、です。
この仕事、神経すり減らしすぎじゃない?
時々、本気で思います。なんでこんなに気を使わないといけないのか。書類の名前を一つ書き間違えただけで、全部やり直し。登記完了予定がズレれば、依頼者の予定もズレる。なのに、感謝されることよりクレームの方が先に来る。正直、報われない気持ちになることもあります。
紙との闘い、プレッシャーとの闘い、そして自分との闘い
紙の重みがプレッシャーの重みになっていく。夜中にふと「あれ、あの案件の申請書…印鑑合ってたっけ?」と不安になって目が覚めることもあります。自分が信用できなくなる。そんな日々の繰り返しです。
「向いてないかも」と思う夜の多さ
新人の頃は「早く一人前になりたい」と思っていました。でも、今は「この仕事、本当に向いてたのかな」と思う夜が増えました。それでも辞めずにやってるのは、やっぱり「誰かの役に立てる実感」があるからなのかもしれません。
でも、だからこそ伝えたいことがある
この仕事に疲れている司法書士さん、あるいはこれから司法書士を目指そうとしている方に言いたいのは、「完璧じゃなくてもいい、でも仕組みは整えておこう」ということです。ミスは防げる。でも、そのためには感情ではなく、構造が必要なんです。
同じように悩んでるあなたへ
一人で抱えて苦しんでいる司法書士さん、多いと思います。ミスをすると「自分が悪い」と思ってしまいがちですが、それは仕組みの問題かもしれません。チェックリスト、ダブルチェック、タスクの見える化。簡単なことで救われる場面は多いです。
ミスを責める前に「仕組み」も見直そう
今回のミスも、封筒に書類を入れる前にもう一度チェックする体制さえあれば防げたはずです。「慣れ」と「急ぎ」に頼りすぎると、いつか必ず穴が開きます。自分を責めるより、まずは仕事の流れを見直してみましょう。
一人で抱え込まない工夫を
「自分がやらなきゃ」が口癖になっていませんか? 事務員でも、外注でも、ツールでもいい。誰かと情報を共有することで、自分の負担を減らすだけでなく、ミスの可能性もぐっと減らせます。責任感の強さは大事ですが、背負いすぎないことも同じくらい大切です。
ベテランでもミスをする。だから共有しよう
「ベテランなのにそんなミス?」と思われるかもしれません。でも、ベテランだからこそ油断する部分もある。だから、こうしてコラムに書いておきます。誰かが同じミスを防げたら、それだけで少しは意味があると思えるから。