たった一枚のミスが、信頼を崩壊させる

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たった一枚のミスが、信頼を崩壊させる

信頼は紙一重――書類ミスが引き起こす現実

司法書士という仕事は、「書類」に始まり「書類」に終わるといっても過言ではありません。登記申請書や委任状、印鑑証明書や住民票――どれもが、ほんの些細なミス一つで依頼者の信用を大きく揺るがします。普段から丁寧に確認しているつもりでも、ミスは起きる。そのたった一枚のミスで、信頼は音もなく崩れ落ちるのです。

どれだけ丁寧にやっても、ゼロにはならないヒューマンエラー

いくら注意深く作業しても、人間である以上、ヒューマンエラーは避けられません。私も新人の頃は、自分だけはミスをしないと信じていましたが、現実はそんなに甘くない。見落とし、書き間違い、ファイルの誤送付…。慣れてきた頃ほど、うっかりやらかすんです。

「この一枚が全て」――司法書士の仕事の怖さ

司法書士の仕事には、完成した書類をお客様に手渡す「瞬間」が必ずあります。その一瞬で、「この先生に任せてよかった」と思ってもらえるか、それとも「なんだか不安だな」と思われるかが決まるのです。だからこそ、一枚一枚の書類が命取りになります。信用って、結局“紙”みたいに薄いんです。

実際にあった、小さなミスからの信頼喪失

実際、私自身も過去にいくつかのミスを経験しました。どれも悪意はありません。でも、それはお客様には関係のない話です。向こうにとっては、「専門家に頼んでこのレベル?」という失望感がすべてなのです。

住所の番地ひとつ違っただけで

あるとき、登記申請の際に依頼者の住所を「4丁目5番2号」とすべきところを「4丁目5番3号」と記載して提出してしまいました。番地が1つ違っただけ。でも、訂正申請、再提出、依頼者への説明と、連鎖的にトラブルが拡大。最終的に、「やっぱり別の事務所にお願いするわ」と言われたときの喪失感は今でも忘れられません。

印鑑証明の有効期限切れ、誰が責任を取るのか

ある依頼で、印鑑証明書をもらってすぐに書類を作成し、登記のタイミングを待っていたところ、提出時にはその印鑑証明が有効期限切れに。依頼者は「渡したときは有効だった」と言うし、私は「提出前に気づくべきだった」と自責の念。だれが悪いというより、信頼が目の前でしぼんでいく感覚が恐ろしかった。

「でも言われなかったんですけど?」という依頼者の言葉

こちらは手順を説明したつもりでも、相手に伝わっていないことが本当に多い。とくに書類の準備や期限に関する話は、お互いの認識のズレが致命的になります。「そこまで細かく聞いてない」とか「そんな話された覚えがない」と返された時の絶望感たるや。言った言わないの世界で戦うしかないのが現実です。

訂正書ひとつでは済まない空気

訂正書を出せば、形式上は問題が片付いたように見えます。でも、依頼者の中に生まれた“モヤモヤ”はずっと残る。修正自体よりも、「あの先生に任せて大丈夫なのか」という気持ちを生んでしまうことが怖いのです。書類ミスって、訂正できても信用は完全には戻らないんですよね。

一人事務所の限界と、誰にも頼れない孤独

うちは小さな事務所で、事務員さんが一人いるだけ。基本的に書類の最終チェックや責任はすべて私にかかってきます。これは精神的にもなかなかきついです。「なんであのとき、気づけなかったんだろう」って、自分を責める夜が増えていくんです。

確認しても確認しても、不安が消えない

書類作成に関しては、ダブルチェックもトリプルチェックもします。でも、それでも100%の安心は得られません。提出した後に「あの項目、ちゃんと見たっけ?」と急に不安になる夜もあります。確認に確認を重ねることでしか、自己防衛はできません。

事務員さんの負担と、自分の責任の板挟み

事務員さんにも当然チェックはお願いしていますが、最終的な責任はやっぱり自分。彼女にミスがあっても、責めることはできません。というか、責められない。責任感と申し訳なさの中で、だんだん“自分で抱えるしかない”空気になっていく。それが一番しんどい。

クライアントが去る瞬間は、静かにやってくる

信用が失われるときって、派手な音はしません。何も言われずにフェードアウトされて、しばらくして「あの方、別の先生に頼んだみたいですよ」と他所から聞く。そういう“静かな断絶”が、精神的には一番こたえます。

謝罪しても取り戻せない「安心感」

ミスが起きたとき、すぐに謝罪し、訂正の手配も急ぎます。でも、それで安心してくれる依頼者ばかりではありません。一度揺らいだ信用は、もとに戻すのが本当に難しい。「安心して任せられない」という印象は、謝ってもなかなか消えないのです。

二度と連絡が来なかったあの依頼者

以前、軽微なミスをしてしまった依頼者に、丁寧に謝罪と対応をしました。でもそれ以降、その方からのご依頼は一切なし。別に責められたわけではありません。ただ、もう戻ってはこない。それが答えなのでしょう。

それでも続けるしかない現実と、対策の模索

どれだけ落ち込んでも、事務所を回さなければなりません。だから、ミスを防ぐ仕組みを少しずつ整えるしかない。完璧は無理でも、限りなくミスを減らす努力を、日々積み重ねていくしかありません。

自動チェック?ダブルチェック?限界はある

最近ではOCRやRPAを使っての自動チェックの話も聞きます。便利そうですが、小さな事務所でそこまでの投資は現実的ではない。それに結局、最後は人の目に頼ることになる。チェックリストやテンプレートを駆使しても、安心は得られても不安はゼロにならないんです。

チェックリストを作っても、結局「人」

チェックリストを作ると多少の漏れは防げます。でもそれを使うのも人。慣れが出てくると「大丈夫だろう」と思ってしまいがちで、チェックが甘くなることも。結局は、最後の砦は“気を抜かない心”しかありません。

「見落とし」をゼロにできる日は来るのか

見落としをゼロにする――これは永遠のテーマです。でも私は、もう「ゼロにはできない」と思っています。だからこそ、ミスしたときの対応の仕方、信頼の回復方法まで含めて“備える”という発想で生きています。

自分のメンタルを守る工夫と割り切り

ミスが怖いのは、依頼者より自分の心を追い詰めてくるところです。だから私は、「完璧じゃないことを受け入れる」と決めました。もちろんミスは減らす。でも、起きたときにはちゃんと謝って、切り替える。自分を責めすぎない。それが、この仕事を続けるための最低条件だと思うんです。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。

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