たった一言で、救われた夜があった

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たった一言で、救われた夜があった

「もう限界かもしれない」と思った日のこと

地方の司法書士として、依頼者の信頼を背負うのは当然のこと。でも、当然だからこそ誰も「ありがとう」とは言わない。日々の業務は淡々と、時には容赦なく積み重なる。登記の修正依頼、書類の不備、事務員の休み、全てが一気に押し寄せたある日のこと、「もう限界かもしれない」とふと独り言が漏れた。夜の事務所で一人、書類の山を前にして、疲れ果てていた。

依頼の波に呑まれる日々

月末になると、登記申請の駆け込みが増える。依頼者から見れば「これ急ぎなんで」と軽く言う一言も、こちらからすれば夜を削る覚悟が必要な一言になる。特に不動産関係の案件が重なると、細かなミスが命取りになるから、確認作業に倍の時間をかけている。目の奥がズキズキしてきても、コーヒーでごまかして乗り切るのがいつものパターンだ。

人手不足という慢性病

事務員は一人。休まれると、電話対応から書類チェック、発送まですべて自分でやらなければならない。もちろん専門業務もある。朝から夜まで走り続けるような日々。正直、人を雇う余裕なんてない。でも、雇わないと回らない。このジレンマに、いつも悩まされている。

事務所経営のプレッシャー

田舎の事務所に、いつまで依頼が来るのか。そんな不安は常に頭の片隅にある。登記のオンライン申請が進むなかで、昔ながらの対面業務にこだわることが正解なのかも分からなくなってくる。経費の見直しや営業活動もこなさなければならず、「司法書士」である前に「経営者」であることを思い知らされる。

心が折れかけた瞬間に聞こえた、あの一言

書類の不備で市役所から電話があったその日の夕方、依頼者の女性がふらっと事務所に現れた。正直、疲れすぎて笑顔すら出なかった。でも、その方がふと口にした「先生がいてくれて本当によかったです」という言葉が、心に刺さった。わざわざお礼を言いに来てくれた。その一言で、すべてが少しだけ報われたような気がした。

「先生がいてくれてよかったです」

この一言は、どんな「報酬」よりも重かった。こちらは日々の業務に追われ、自分の価値なんて考える余裕もない。でも、その言葉に「ちゃんと役に立ててるんだ」と思えた。きっと、その人にとっては数秒の一言。でも自分にとっては、一晩の疲れを吹き飛ばすだけの力があった。

たった一言に詰まっていた全て

「よかったです」と言ってもらえるには、信頼が必要だ。書類をミスなく仕上げるだけじゃダメで、丁寧な説明、待たせない連絡、細かい気遣い。それらを重ねた末に出てくる言葉だったと思う。だからこそ、深く沁みた。日々の愚痴を並べたくなる気持ちも、その瞬間だけはすっと消えていった。

依頼者の何気ない感謝が胸に刺さる理由

司法書士という職業は、派手な評価はされない。むしろ「うまくいって当たり前」の世界だ。そんななかで、依頼者が自分の仕事に気づいてくれたという事実が、何よりの報酬になった。あの言葉は、表面的な「ありがとう」じゃなく、本音だったからこそ重みがあった。

信頼は、結果じゃなく積み重ねの中にある

信頼される瞬間というのは、たいてい一発逆転では訪れない。小さな積み重ねが大きな信用につながっていく。地味な作業でも、丁寧な対応でも、それがちゃんと見られていたんだと思えることで、心が救われる。

迅速な対応だけでは生まれない関係

確かに早い対応は大事だ。でも、信頼されるのはそれだけじゃない。途中経過の共有や、聞かれる前に伝えるひと言が積み重なって「この人に任せたい」という気持ちが生まれる。そういう対応ができるかどうかが、信頼の差になる。

愚痴を聞いてくれた日も「仕事」だった

ときどき依頼者が私生活の悩みをぽろっと話すことがある。最初は戸惑ったけれど、今はそういう時間も大切だと思っている。信頼しているからこそ話すわけで、それも立派な「仕事の一部」だ。そんな信頼関係を築けるようになった自分を、少しだけ誇りに思っている。

司法書士は感謝されにくい仕事?

誰かが困っている時にこそ出番が来る、それが司法書士だ。でも、解決しても感謝されるとは限らない。だからこそ、信頼の積み重ねが報われる瞬間は、本当に貴重で、宝物のように感じる。

評価が可視化されにくい現実

営業職のように数字で成果が見えればやりがいにも繋がるが、司法書士の仕事は「問題が起こらないようにする」ことが多い。だから評価されにくい。むしろ「何も起こらなかった」ことが最高の成果だ。でもそれって、伝わりづらい。

トラブル解決は「当たり前」になってしまう

問題が起きた時にすぐ動いて、解決しても「ありがとう」は一瞬。でもミスがあれば、何年経っても「なんであんなことに」と言われる。それがこの仕事の辛いところ。でも、だからこそ信頼された時の喜びも大きい。

それでも続けられるのは、あの一瞬があるから

きつい日も、逃げたくなる日もある。でも、心のどこかにあの一言がある。それが、続ける理由になっている。司法書士としてのキャリアを重ねるなかで、いろんな出会いがあるけれど、あの「たった一言」ほど心に残っているものはない。

自分の存在意義を確認できる瞬間

誰かのためになれていたんだと、ほんの少しでも思える。それが、司法書士として働く意味を再確認させてくれる。書類の束より、信頼のひと言のほうがずっと重い。そう思えるようになったのは、年齢と経験を積んだからかもしれない。

「誰かの役に立てた」という実感

たとえそれが月に一度の言葉でもいい。それがあれば、またやっていける。この実感がある限り、多少のミスも、多少の無理も、なんとか受け入れられる気がする。

夜中に思い出して泣きそうになる言葉

「先生がいてくれてよかった」──この一言を思い出すたび、あの日の疲れた自分の顔が浮かぶ。そして、少しだけ笑ってしまう。続けてきてよかったな、と。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。

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