1枚の書類に、なんでこんなに時間がかかるのか
「たかが1枚でしょ？」と依頼者に言われたことがあります。正直、内心では「その1枚のために、こっちは何工程こなしてると思ってるんですか」と叫びたくなりました。司法書士の仕事は、一見シンプルに見えて、その裏側では信じられないほどの確認、やりとり、細かい書式への配慮が詰まっています。目立たない仕事ですが、1つのミスが後々の手続きに大きな影響を及ぼすため、慎重にならざるを得ません。
「確認しすぎ」と言われる恐怖
書類を何度も見返していると、事務員に「またですか」と笑われることがあります。でも、笑い事じゃない。たった一つの数字のミス、誤字、それが原因で補正通知が届く。しかも相手が法務局となると、その対応にも神経を使わされる。結局、何度も見直して、何も間違いがないことを祈るしかないんです。
1回のミスが信用を吹き飛ばす
過去に一度、依頼者の住所の番地がひとつずれていただけで、登記が通らなかったことがありました。補正には対応しましたが、「先生のところ、大丈夫ですか？」と少しだけトゲのある言い方をされたのが未だに忘れられません。それ以来、どんなに急ぎの案件でも、自分の目で何度も確認するようになりました。
事務員にも任せきれない理由
うちの事務員は勤勉で本当に助かってる。でも、最終チェックだけは譲れない。なぜなら、責任はすべて私が負うからです。たとえどんなに些細な間違いでも、結局クライアントからの信用を失うのは私。だから結局、「最後の最後まで、自分で見ないと不安」なんです。
資料がそろわない、届かない、揃っても読めない
そもそも書類を作ろうにも、依頼者からの資料がなかなか届かない。届いたと思ったら、必要な部分が抜けている、文字がかすれて読めない、写真が斜めで拡大しても判別できない。そうこうしてるうちに1日、下手すると数日が過ぎていく。この「何も進まない感」が本当にしんどい。
依頼者の「とりあえず送ります」の破壊力
「とりあえず送っておきました！」というLINE。開けてみると、まるで宝探し。ページはバラバラ、表裏が逆、通帳の支店名が切れていたり。善意はありがたいけど、こちらが求めている「正式な資料」ではないことが多く、結局再送依頼する羽目になる。その時間がまた積み重なっていくんです。
FAX、写真、PDF、どれも足りない
今どきFAX？と思われるかもしれませんが、現場ではまだまだ現役。でも、かすれて読めないFAX、なぜか横向きの写真、容量オーバーで開けないPDF…。電子化が進んでも、依頼者の環境に左右されるのがこの仕事。届いた瞬間に「これまた補正になるかも…」とため息が出ることもあります。
登記官の意図を読まされるゲーム
法務局からの返答は、時にクイズのようです。「この場合は補正になりますが、一般的には…」とか、「貴職の判断に委ねます」と書かれていたり。いや、だからその判断を求めてるんですけど？と突っ込みたくなる。実際には、登記官の顔色をうかがいながら、言葉を選ぶ必要があります。
補正通知が来るまでわからない
「この書類で大丈夫」と思って出しても、3日後にひっそり補正通知が届く。電話もなく、メールもなく、ポストに入ってるその紙切れ一枚で、こっちのテンションがガタ落ちします。完璧な書類でも、法務局によって解釈が異なることもある。それがまた不安を生む。
言い回し一つで運命が決まることもある
例えば「持分全部移転」と「全部持分移転」、同じように見えて、局によって指摘されることがある。こういう微妙な言い回しにまで神経をすり減らすのが、我々の仕事。これで「間違ってます」と言われると、何ともやりきれない。だったらテンプレくれと言いたくなります。
積もり積もって、1件で半日仕事
「1件なんてすぐ終わるでしょ」と思っていた新人時代が懐かしい。今では、書類の確認、依頼者への確認、法務局との調整、そして印刷や封筒の宛名書きまで含めると、1件の登記で半日が飛びます。1日3件こなすだけでいっぱいいっぱい。それでもミスが許されないから余計にしんどい。
「ちょっと見ておいて」が3時間消える魔法
事務員に「先生、これちょっと見ておいてください」と言われて受け取った1通の書類。確認し始めたら、あれも足りない、これも聞かなきゃで気づけば3時間。そんなことが1日に何回も起こる。どんどん予定がずれていき、帰り道で「今日は何も進まなかったな」と思う日が増えてきました。
1枚の書類にメモが5枚つく現象
これは笑い話ですが、私の机の上には、1枚の委任状に対して貼られた5枚の付箋が並んでいたことがあります。「確認済」「再確認」「依頼者に要連絡」「住所確認中」「要修正」。自分で書いたはずなのに、どれが最新かわからなくなる。確認しすぎて逆に混乱する。これ、司法書士あるあるです。
効率化しようとするたびに生まれる別の問題
何とか効率化できないかとテンプレを作ってみたり、マクロを組んでみたり。でも結局、案件ごとに細かい調整が必要で、完全自動化は夢のまた夢。効率化しようとして、その設定に時間を取られてしまう。なんとも皮肉な話です。
テンプレートが増えすぎて探せない
便利にするために作ったテンプレが、今ではフォルダの奥で迷子に。どれが最新版だったかもわからなくなる。しかも「この案件だけ特殊だから…」とテンプレを修正すると、それがまた別テンプレとして残る。気づけば同じような文書が10パターン存在していたりするんです。
自動化に失敗すると地獄を見る
以前、PDF自動生成のスクリプトを導入したことがあります。うまく動いていたと思ったら、住所が1行ごとにずれて印刷されていた。しかも気づかず提出してしまい、補正。自動化に頼りすぎた結果、大事な部分を見落とすという本末転倒。それ以来、機械には期待しすぎないようにしています。
それでもこの仕事をやっている理由
正直、面倒なことばかりです。毎日がトラブルの連続。帰ってくる時間も遅い。でも、不思議と辞めたいとは思わない。そんな仕事です。信頼を築くのに時間がかかる分、感謝の言葉は胸に残ります。それがなかったら、とっくに辞めていたかもしれません。
依頼者の「助かったよ」が支えになる
相続が無事に終わったとき、「本当に助かりました」と言われた瞬間。その一言で、あの面倒だった1枚の書類が報われた気がします。直接的に「ありがとう」と言ってもらえる仕事って、実はそんなに多くない。だからこそ、その一言が何よりも励みになります。
愚痴りながらも、自分の存在意義を感じる瞬間
正直、毎日が愚痴の連続です。でも、その愚痴を言えるというのは、誰かの役に立っているからこそ。誰にも頼られていなければ、文句すら出ない。仕事があること、頼ってくれる人がいること、それがこの仕事の本当の価値なのかもしれません。
