“ちょっとだけ”の落とし穴――気づけば全部持っていかれてた話

“ちょっとだけ”の落とし穴――気づけば全部持っていかれてた話

「ちょっとだけお願いします」に潜む罠

「すみません、ちょっとだけお願いできませんか?」この言葉、司法書士をやっていると本当に日常茶飯事です。悪意があるわけじゃないことはわかっています。でもね、その“ちょっと”が積もりに積もって、気づけば一日が終わっている、そんなことが何度あったかわかりません。田舎の事務所で一人雇って細々やってると、こういうお願いを断るのが本当に難しいんです。

断れない性格が裏目に出る瞬間

もともと断るのが苦手なんです。だから「すぐ終わるんで…」と頼まれると、「まあ、いいか」と引き受けてしまう。たとえば、登記相談で来られた方が「住所変更もついでに…」「相続のことも聞いてもいいですか?」と次々に追加してくる。気づけば1時間以上話し込んでいて、次の予定にしわ寄せがきます。しかも、それが有料か無料か曖昧になりがちで…。

“ちょっと”が積もって夜が溶ける

一日の終わり、机に残ったままの書類の山を見てため息をつく。「あれ、今日の予定ってこんなに進んでなかったっけ?」って。朝の時点では「今日は楽勝かな」と思っていたのに、終わってみれば何も進んでいない。“ちょっと”という名の小さな依頼たちが、時間を食いつぶしていくんです。

依頼人の感覚とこっちの現実

依頼人にとっては、ちょっと立ち寄って、軽く話して、何か聞ければいい程度の感覚なんでしょう。でもこちらにとっては、調べものが発生したり、書類の準備が必要だったり、意外と後工程が多い。その感覚のズレが、毎日の疲れを増幅させます。

1通のFAX、1本の電話がもたらす連鎖

たとえば、昼過ぎに届いた1通のFAX。見ると、「この書類、ちょっとだけ確認してもらえますか」と一言。内容はシンプルに見えるけど、結局は法務局への照会、電話でのやりとり、調査の確認まで必要。あっという間に1時間コース。しかもその合間に電話も鳴る。「今ちょっといいですか?」の嵐で、集中できるわけがない。

「すぐ終わるよね?」の裏にある手間地獄

「5分で終わると思うんですけど」って、そう言われると「5分なら」とつい引き受けてしまう。でもその“5分”が嘘なんですよね。内容を聞けば10分で済むわけがない。しかも、相手は「ついでにこれも…」と雪だるま式に話を広げていく。気づいたときには、もう1時間以上取られているんです。

事務員ひとりの現実、二馬力では足りない

うちの事務所は、僕と事務員の二人体制。見方によっては少数精鋭。でも現実には、手が回らない案件が日々増えていきます。事務員も優秀だけど、任せきりにはできない領域も多くて、どうしても僕が手を出さなきゃいけない。そのバランスが難しいんです。

頼れる相棒…でも全部は任せられない

事務員には本当に助けられています。でも、司法書士としての責任があるから、最終確認はどうしても自分でやらないと気が済まないんですよね。確認作業だけで夜まで残ることもあります。ミスは許されないし、相手は「ちょっとだけ頼んだ」くらいの認識でしかないから余計に神経を使う。

結局、最後は自分で確認しないと不安

どれだけ信頼していても、「あれ、あの数字本当に合ってたっけ?」って思ったら、寝る前にもう一度ファイルを開く羽目になる。それが一度気になり出すと、頭の中でぐるぐるして眠れない。精神的にもすり減っていくんです。

“ちょっと”と“無料で”はセットでやってくる

「ちょっとだけ教えて」って相談には、なぜか「無料で当然」みたいな空気がある。これが不思議でならないんです。コンビニで「ちょっとだけコーヒーもらえますか?」って言ったらお金取られるのに、士業にはなぜ無料相談を求めてくるのか。

相談の延長線で始まる無償対応

最初は世間話程度で始まる。気軽な感じで「そういえば…」なんて話が出てきて、気づけば専門的なアドバイスになっている。でも請求なんてできる空気じゃない。「ちょっとだからね」と言われたら、「まあいいか」と引いてしまう。でも、それを繰り返すうちに、どんどん時間と精神を消耗していく。

いつの間にか仕事が増えていく構造

しかもその“ちょっと対応”をしたことで、後日「この前の件なんですけど」とまた別の依頼が来る。しかも「前に無料でやってもらったから今回も…」という空気。断ればケチ扱いされ、受ければ自分が苦しくなる。このループから抜け出せなくなっていく。

頑張りすぎて壊れる前に

気づけば体も心もすり減っていた。休日も電話のことが気になって、気が休まらない。こんな状態を長く続けていたら、いつか壊れてしまう。そうなる前に、どこかで線を引かないといけないんですよね。

「やりがい」の呪いから距離を置く

司法書士という仕事は、社会の役に立っているという実感があります。でもその「やりがい」が、自分を追い詰める呪いにもなる。「頼られているから」「断ったら冷たい人だと思われるから」そんな思いで無理をしてしまう。けれど、その無理は誰も報いてくれません。

境界線を引く勇気が自分を守る

「これは有料になります」「今日は時間が取れません」そう言えるようになることが、本当の意味で自分を守ることだと思うようになりました。最初は勇気がいります。でも、それができるようになると、ちょっとだけ心が軽くなるんです。

若手司法書士・志望者に伝えたいこと

これから司法書士になろうとしている方には、ぜひ“ちょっとだけ”という言葉の重さを知ってほしいです。それは思ったよりも時間を奪い、心を削ります。やりがいはあります。でも、甘くはありません。現実を知ったうえで、それでも続けたいと思えるなら、きっとこの仕事は向いていると思います。

「ちょっと」の正体を見抜けるようになるまで

経験を積んでいくうちに、「これは時間がかかるな」「これは後から大変になるな」という感覚が身についてきます。でも最初のうちは見抜けません。だからこそ、最初から全部を引き受けないこと。丁寧に対応しつつ、距離感を保つことが大切なんです。

最初から全力で走ると、途中で息切れする

「頑張り屋」は司法書士に向いていそうで、実は危ないタイプ。燃え尽きやすいんです。僕もそうでした。走り出したら止まれなくなって、何年も突っ走った結果、体も心もガタがきました。だからこそ、最初から「ちょっとだけ」の正体には警戒してほしいんです。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。

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