“ついでにこれも”の恐怖──その一言が招く取り返しのつかない事態

“ついでにこれも”の恐怖──その一言が招く取り返しのつかない事態

「ついでにこれも」の一言が心を削る

司法書士として日々働く中で、依頼者の「ついでにこれもお願いできますか?」という言葉ほど恐ろしいものはありません。一見すると軽い依頼のように思えるこの一言が、業務の流れを乱し、想定外の手間と精神的負担をもたらします。忙しい中でも頼られるのはありがたい——そう思いたい気持ちはあるものの、現実はなかなかそううまくはいきません。時には「ちょっとしたこと」が一日を丸々狂わせるほどの破壊力を持つことさえあるのです。

一見ありがちな言葉、でも負担はズシリ

「ついでにこれも」と言われると、ついつい「まあ、いいか」と引き受けてしまいがちです。ですがその結果、予定していた作業が後ろ倒しになり、結局夜遅くまで残業することになることもしばしば。依頼者にとっては簡単なお願いでも、それをこなすには手続きや確認事項が多く、想像以上に時間がかかることがあります。特に私のように事務員が一人しかいない小さな事務所では、その一件の「ついで」が大打撃になることもあるのです。

善意の依頼が引き起こす心のざわつき

依頼者に悪気はないのだと頭では理解しています。「ついでに」という言葉には、むしろ信頼の意味すら含まれていることもあります。でも、その善意がこちらの心をざわつかせる原因になるのが現実です。今処理している案件を中断し、新たな確認をして、関係者に連絡を入れて……と、頭の中が一気に混乱します。丁寧に仕事をしたい自分にとって、その「ついで」が妥協の原因になるのが一番怖いのです。

なぜ“ついでに”が怖いのか

「ついでに」と聞くと、小さな追加依頼のように思えます。しかし、司法書士の実務においては、この言葉が意外なほど大きな意味を持ちます。ちょっとした依頼が新たな業務として発生し、しかもそれが他の案件にも影響を及ぼすリスクがあるため、油断できません。

依頼者の感覚と実務のギャップ

依頼者が「簡単でしょ?」と思っている内容でも、実務的にはそうはいかないことが多々あります。たとえば「これも登記しておいて」と言われた書類に誤字があると、それを指摘して修正し、関係者に再度確認を取り……と、どんどん時間がかかっていきます。このギャップを埋めるのが本当に大変です。

「簡単なことだから」の破壊力

「簡単なことだから」と言われると断りづらくなってしまいます。でも、そういう言葉ほど怖い。登記の世界では、小さな間違いが後々大きな修正や責任につながることもあります。一度引き受けた以上は、最後まで責任を持たなければいけません。結果として、思った以上の負担を背負う羽目になります。

専門性の軽視と尊厳の摩耗

「ちょっと書類見るだけでしょ?」「法務局に行くんだからついでに…」——こういう言葉を受けるたびに、こちらの専門性が軽く見られているような気がしてしまいます。依頼者に悪意がないのはわかっているのに、どうしてもモヤモヤが残る。その積み重ねが、精神的な摩耗につながります。

段取りが崩れると、全体が壊れる

司法書士の仕事は段取りが命です。一つの案件を処理するにも、手続きの順番や締め切りに注意を払っています。そこに突然「ついで」の依頼が入り込むと、その段取りが一気に崩れ、他の案件にも影響が出ます。一つのほころびが全体を揺るがす——そんな怖さが「ついでには」の中に潜んでいます。

よくある“ついで地雷”の実例

実際に私の事務所であった“ついで地雷”をいくつか紹介します。どれも依頼者にとっては善意や気軽なお願いのつもりだったのでしょう。でも、実務上はとんでもない影響がありました。

登記申請ついでに相続相談

あるお客様が会社設立登記の依頼で来所されました。書類も整っていたので、無事に進むと思いきや、「実は実家の相続の件もちょっと相談いいですか?」と。そこから30分の雑談が始まり、結局、午後に予定していた他の業務がすべて後倒し。事務員も呆れてました……。

法務局に行くついでに書類提出も

「今日法務局行かれるんですよね?じゃあ、これもついでに出してきてください」と渡されたのは、別の案件の相続放棄の書類。窓口が別だった上に、内容確認も必要で、思ったより時間を取られました。結局、本来の目的の登記申請書類の提出がギリギリに……。

「これも入れておいて」と直前で追加変更

登記申請の前日、依頼者から「やっぱりこの名義も一緒に入れてもらえますか?」と連絡が。急遽書類を作り直し、関係者に印鑑を取りに回る羽目に。予定していた他の案件のチェックができなくなり、翌日ミスが見つかって冷や汗をかきました。

それでも断れない司法書士の現実

本音では「無理です」と言いたくなる場面でも、つい引き受けてしまう。なぜなら、依頼者との信頼関係を壊したくないし、地域で仕事をしている以上、悪い噂が立つのも避けたい。だから我慢してしまうんです。

“頼られるのはありがたい”という呪い

「頼りにしてます」と言われると、それだけで断るのが難しくなります。小さな地域社会で仕事をしていると、そういった言葉に過剰に応えようとしてしまう。でも、それって結局、自分で自分を追い込んでるだけなんですよね……。

小さな親切が大きなストレスに変わる

「ちょっとだけなら」という気持ちが積もっていくと、知らぬ間に自分の首を絞めることになります。無理に受けた依頼が、数日後にトラブルとなって返ってくることもありました。その度に「やっぱり断ればよかった」と後悔するんです。でも、また次の「ついでに」を断れない。まるで呪いです。

負の連鎖を断ち切るために

このままでは心も体も持ちません。だからこそ、「ついでにこれも」と言われたときの対処法を意識的に持っておく必要があります。

“ついで”を断る勇気の作り方

断るのが苦手な人間こそ、仕組みで防ぐのが一番です。ルールを作って、「が、別件として扱わせてください」と機械的に対応するようにしています。最初は心苦しいですが、慣れてくると逆に気が楽になります。

明文化とルール化で線引きを

私は「新規案件は事前予約制」「書類提出は前日まで」などのルールを設け、事務所のホワイトボードに書いて貼っています。それを見た依頼者も「あ、これはダメなんだな」と理解してくれることが多く、無理な“ついで”依頼が減ってきました。

説明の工夫で角を立てずに断る

「できなくてすみません」ではなく、「きちんと対応したいので、別でお時間をいただけますか」と言うようにしています。言い方ひとつで、印象が全然違うものです。断るのではなく、丁寧に扱っているという姿勢が伝われば、理解も得られやすくなります。

「忙しいです」を使いすぎない工夫

ただ「忙しいので」と言い続けていると、だんだん“言い訳”のように取られてしまうこともあります。そうではなく「〇〇の確認に時間が必要なので」「この件に集中したいので」と理由を添えることで、相手も納得してくれやすくなります。伝え方、大事です。

最後に:同じ悩みを抱えるあなたへ

もし、あなたも「ついでにこれも」という一言に日々振り回されている司法書士なら、ぜひ声を大にして言いたい——「そのストレス、よくわかります!」。私もそうですし、多分ほとんどの同業者が同じような経験をしています。無理して頑張るのはやめましょう。ルールを作って、自分を守る。嫌な顔をしないで、丁寧に線を引く。少しずつでも、そういう工夫をしていくことで、日々の仕事がほんの少しだけラクになります。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。

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