夜中のメール返信、ついやってしまう理由
気がつけば夜中の0時過ぎ、今日もまた依頼人からのメールに返信してしまっていた――そんな日が、私の事務所では当たり前のようになっていました。静まり返った夜、昼間には処理しきれなかった依頼が頭をよぎり、「今返しておけば明日が楽になる」と思って、つい手が伸びてしまうのです。けれど、それが日常になると、自分では気づかない“損”を生んでいることがあります。
静かな時間にしか集中できないという錯覚
確かに夜中は電話も来ないし、来客もない。静かです。だからこそ集中できる気がする。でも、よくよく考えればそれは“日中に集中できていないことの言い訳”なのかもしれません。忙しさに振り回され、昼間の効率が落ちているから、夜に頼ってしまう。私自身、「夜の方が仕事が捗る」と思っていた時期がありましたが、それは単なる逃避でした。
「すぐ返すべき」という責任感と不安
司法書士という仕事は、信頼の上に成り立っています。だから、依頼人を不安にさせたくないという気持ちから、「夜でもすぐ返した方がいい」と思ってしまう。特に初回の問い合わせなどは、「この一通を逃せば縁も逃すかも」という不安もつきまといます。私も独立当初、夜中の1時に来た問い合わせメールにその場で返信して、逆に「遅くまで大変ですね」と驚かれたことがあります。
自分の時間を奪う“習慣化した善意”
返信すること自体は悪くない。けれどそれが“当たり前”になってしまうと、自分の首を締めてしまう。夜中の返信が日常化すると、休息時間が削られ、プライベートもあってないようなものになります。気づけば、テレビを見る時間も、風呂にゆっくり入る時間もなくなり、「なんのために仕事してるんだろう」と虚しくなることも。善意でやっているはずなのに、自分をすり減らしているのです。
このクセがもたらす“見えない損”とは
夜中にメールを返すという行動には、目に見えない損失が隠れています。依頼人にとっても、自分にとっても、良かれと思ってやっていることが、意図せぬ誤解や疲弊を生む結果になってしまうのです。
依頼人との距離感が崩れる危うさ
夜中でも返信がある。そう思われてしまうと、依頼人の中で「この人は24時間対応してくれる人」というイメージができてしまいます。全員がそうではないですが、中にはどんどん要求がエスカレートする人も。そうなると、こちらが普通の営業時間に対応しても「遅い」と言われたりして、どんどん首が締まります。
夜に返す=いつでも対応してくれる人という誤解
「夜に返してくれるから安心」と思われるのは、一見するとプラスのように見えます。でも、それは“安心を売るサービス”ではない司法書士にとっては、誤解を招くリスクでもあります。実際、夜遅くに「今から電話していいですか?」という連絡が来て、心底げんなりしたことがあります。誤解を与えないためにも、対応時間の境界線は守った方がいいと痛感しています。
心と体のコンディションが崩れやすくなる
夜中にメールを打つと、当然ながら寝るのが遅くなります。その積み重ねで睡眠の質が下がり、翌朝の集中力が下がる。それに気づいたのは、朝の登記申請で致命的な入力ミスをしかけた時でした。「あ、これはもう限界だな」と思った瞬間でした。
翌日のパフォーマンス低下と疲労の蓄積
事務所の仕事は、意外と細かい判断が多く、ボーっとしてると簡単にミスが出ます。私も事務員から「先生、今日ちょっとボンヤリしてませんか?」と指摘されてハッとしたことがありました。睡眠不足は、静かに、確実に、仕事の質を下げます。
周囲の反応と「良かれと思って」のズレ
夜中に返信することが、自分では「いいこと」のつもりでも、他人から見ればありがた迷惑な場合もあります。とくに一緒に働いている事務員や家族の目線で見直してみると、いろいろと気づかされることがあります。
事務員の本音は「夜中に来られても困る」
私が夜中に送ったメールを、翌朝に出勤した事務員が見ると、「この時間まで働いてたんですか…?」と心配と困惑が混じった反応をされます。私としては“仕事の段取りをよくするため”のつもりでも、相手からすると「どこまで付き合わされるんだろう」とプレッシャーになっていたようです。
依頼人にとってもプレッシャーになる場合も
夜中に返信が来ると、受け取った側も無言のプレッシャーを感じることがあります。「この先生、こんな時間まで働いてるの?じゃあ自分もすぐ返さなきゃ」と思わせてしまう。中には「夜にしか連絡が来ないから不安になる」という声もありました。善意のつもりが、かえって不安を呼ぶ結果になることもあるのです。
クセを直すための小さな工夫
いきなり夜中の返信をゼロにするのは難しいかもしれません。だからこそ、現実的で、小さなところから見直す工夫が大事です。無理なく、自分のペースで習慣を整えることが、結果として自分も周りも楽にします。
下書き保存で“送信時間”を調整する
私が最近実践しているのは「とりあえず下書き保存して、朝に送る」という方法。返信の文章は夜に書いておいて、送るのは翌朝。Gmailなら送信予約もできます。これだけで、相手には「しっかり休んでる人」という印象が残ります。
朝の送信予約で「ちゃんと休んでる人」を演出
少しズルいようですが、「朝に送る」だけで、相手に安心感を与えることができます。夜中に書いたメールも、送信時刻が朝8時になっていれば、健康的で信頼できる印象になる。実際、これを始めてから「夜遅くまでお疲れさまです」と言われる回数がぐんと減りました。
業務時間の明確化と“自分ルール”の徹底
「夜9時以降は業務外」と自分で決めて、それを依頼人にも伝えるようにしたところ、自然と夜の連絡が減りました。もちろん緊急時は別ですが、ルールを伝えるだけで、自分の気持ちも整理されるようになります。「何時でも返信しなきゃ」と思っていた自分の思い込みに、ようやく気づけました。
同業者にも伝えたいこと――無理するのは美徳じゃない
夜中のメール返信――これは、真面目で責任感のある司法書士ほど陥りがちなクセです。でも、それが「美徳」だと勘違いしてはいけないと、今は思います。疲れ切った状態で仕事をしても、結局どこかでツケが回ってくるのです。
「頑張ってる感」をやめたら心が軽くなった話
一時期、睡眠時間を削ってまで「誠実な対応」をしようとしていた自分がいました。でも、それで心が荒んできて、表情も暗くなっていたと事務員に言われてショックを受けました。そこから「頑張ってるフリ」をやめたら、少しずつ呼吸が楽になってきました。
無理しない姿勢が逆に信頼につながることも
今では、「夜は返信しない主義です」とはっきり伝えるようにしています。それでも依頼人との信頼関係はむしろ強まりました。安心して任せられるのは、無理してる人よりも、自分を整えている人。そういう姿勢の方が、結果として信頼されるようになるのだと思います。