予期せぬトラブルは、だいたい朝に起きる
司法書士の仕事は、段取りと時間との戦いです。今日もいつも通り、提出書類を確認し、印刷して出発するだけのはずでした。そんな“いつもの朝”が、一瞬で地獄に変わることもあるのです。そう、あの日、事務所のプリンターが沈黙しました。文字通り、うんともすんとも言わない。トラブルというのは、なぜか提出日当日の朝を選んでやってくるんですよね。
あの日、プリンターはただの箱だった
いつものように電源を入れ、印刷ボタンを押しました。ウィーンという駆動音が聞こえた……と思ったら、途中で止まりました。液晶には「用紙詰まり」。いや、詰まってない。紙を全部取り出しても、もう一度入れても、再起動しても、何も出てこない。機械に舐められているのかと思うほど、反応がない。急ぎの登記書類を前に、ただ無言で立ち尽くすしかありませんでした。
印刷ボタンを押した瞬間の絶望
紙が出てこないと気づいた瞬間、心臓がギュッと掴まれるような感覚になりました。「まさか」と思いながら何度も印刷指示を出すも、出るのはエラー音ばかり。パソコン上では「印刷中」の表示が続いているのに、現実のプリンターは無反応。そのギャップに、だんだんとイライラと焦りが積み上がっていくのです。
インクも紙もあるのに動かない理由がわからない
インク残量は十分、紙も補充済み。電源も入っている。なのに出てこない。こういう時に限って、原因が見えない。ネットで検索してみても、「電源を入れ直してください」「紙を一枚ずつ入れてください」なんて、すでに試した対処法しか出てこない。知識がない人間が機械に挑むほど、無力を感じる瞬間はありません。
「すぐ直せるでしょ」は幻想だった
機械トラブルというと、「ちょっと叩けば直る」とか「一回電源切れば何とかなる」と思われがちですが、そんな甘い話じゃないんです。特に、登記の締切が差し迫っている朝には、その数分の遅れが命取りになることもあります。自分でもどうにかしようと試みましたが、結局は泥沼にはまるばかりでした。
事務員さんの冷静な対処にも限界がある
うちの事務員さんは、本当に頼れる存在です。この日もすぐに駆け寄ってくれて、紙詰まりや設定ミスを丁寧にチェックしてくれました。でも、どれだけ冷静に対処しても、機械が応えてくれなければ意味がない。結局、事務員さんまで無言になってしまい、事務所に漂う「詰んだ感」が、なんとも言えませんでした。
サポートセンターはすぐには来ない、そもそも来ない
メーカーのサポートに電話しようとしたものの、つながらない。やっとつながったと思ったら「訪問は翌日になります」。それじゃ意味がないんです。そんな余裕はどこにもない。バックアップのつもりでコンビニに走りましたが、印刷ミスで2枚分ロス。結局、役所にギリギリで駆け込み、平謝り。あんな汗のかき方、久しぶりでした。
紙一枚が、申請全体を止めることがある
登記の申請は、ほんの一枚の書類で止まってしまうことがあります。機械のご機嫌ひとつで全体がストップする、そんな不安定さに日々さらされているのが私たちの仕事です。大げさではなく、紙が出ないということは「仕事ができない」に直結します。そしてその損失は、依頼人との信頼にもつながってしまうのです。
提出期限は待ってくれない
登記の世界は「間に合いませんでした」が通用しない世界です。いくら原因が機械トラブルでも、それは言い訳にならない。役所は「はいそうですか」なんて言ってくれません。むしろ、「他の事務所はちゃんと出してますよ」と言われる始末。仕事の責任は、最終的に全てこちらに返ってくるのです。
「プリンターが詰まってました」と言っても通じない現実
本当に些細な原因なのに、それが通じないのが辛いところです。相手にとっては関係ない話ですから、「だから何?」で終わってしまう。私の焦りや努力、徹夜した準備もすべて、その一瞬のトラブルで吹き飛んでしまうのです。書類を出せなかった事実だけが残る。それが何より苦しい。
自分でなんでも抱えすぎていたツケ
この日を振り返って、つくづく思うのは「やっぱり自分で抱えすぎていたな」ということ。機械が壊れた時、誰かに頼る仕組みもなく、全部自分でどうにかしようとしていた。それが限界を招いたのです。忙しさを理由に後回しにしていた“もしも”への備え。そのツケが、この一件で一気に回ってきた気がします。
結局、走るのは自分
事務員さんがいてくれても、最終的に書類を持って役所に走るのは自分です。その責任の重さと孤独感は、やった人間にしかわからないと思います。書類が揃わない、時間がない、機械も動かない。それでも動かなきゃいけない。あの朝、私は書類を抱えて、信号無視すれすれで走っていました。本当に、情けないやら、悔しいやら。
業務が属人化していることのリスク
小規模な事務所ほど、特定の人しかできない作業が増えてしまいます。これはもう仕方ない部分もありますが、それがトラブル時には大きなリスクになります。今回のようなケースも、誰かがいれば解決したかもしれない。でも「誰か」がいない。たったそれだけで、事務所全体が止まってしまうんです。
「あの人がいないとできない仕事」が多すぎる
うちの事務所でも、「この作業は自分」「これは事務員さん担当」と、分担が完全に固定化してしまっています。そのせいで、どちらかが欠けた瞬間、何も回らなくなる。簡単なプリンター設定ひとつとっても、「担当じゃないからわからない」となるのが実情です。分かってはいるけど、手が回らないのが現実です。
小さな事務所にありがちな罠
人手が少ないからこそ、日々の業務を回すことで精一杯になり、体制整備にまで手が回らない。これが小さな事務所の悲しさでもあります。「緊急時マニュアル」なんて理想論に思えてしまうんですよね。だからこそ、一度トラブルが起きると、歯車が一気に狂っていくのです。
非常時の体制を整えていない自分が悪い
結局は、自分がサボっていたツケでもあります。「プリンターの調子が悪いな」と前から思っていたのに、忙しさを言い訳に放置していた。バックアップ方法も整備していなかった。それが今回の混乱を生んだのだと思います。反省はしてる、けど、また同じことが起きそうな気もしていて、それがまた辛いんです。
でも、そんな余裕がどこにあるというのか
本音を言えば、そんな余裕なんてどこにもありません。今週だって新規案件が4件、相続関係で揉めている案件もあって、毎日が綱渡りです。何か起きる前に備えようなんて、理屈では分かってるけど、日々の業務に追われて何も手がつけられない。それが現場の現実です。
こういう日を、これからの誰かのヒントにする
今回の出来事は、ただの機械トラブルと言ってしまえばそれまでです。でも、実際には多くの「備え不足」や「属人化の弊害」など、事務所運営の本質的な課題が表れた一日だったとも言えます。だからこそ、この記事が、これから司法書士を目指す方や、同業者の方への一つのヒントになればと思います。
「プリンターが詰まっただけ」じゃ済まない現場感
想像してみてください。登記期限が迫る朝、プリンターが沈黙し、打つ手もなく事務所で固まる自分。これが現実なんです。だからこそ、備えが必要です。二台目のプリンターを用意する、PDFでの提出も選択肢に入れるなど、リスクを分散する術を、普段から考えておくべきだと身をもって学びました。
想定外の事態を“想定内”に変えるには
「そんなこと起きるわけがない」と思っていたことが、実際に起きた時、人は動けなくなります。だからこそ、小さな“もしも”にも目を向け、備える。それは大袈裟なことではなく、むしろ地味な準備の積み重ね。自分の身を守るために、今日からでも始められることはあるはずです。
司法書士という仕事に、機械との闘いも含まれている
私たちの仕事は、法律の専門職であると同時に、意外と“機械職”でもあります。パソコン、プリンター、複合機、FAX…どれか一つが止まると業務全体が滞る。そんな状況を日々経験しながら、誰にも言えずに耐えている司法書士が、日本中にたくさんいると思います。
誰にも教わらなかった“地味で重要なこと”
司法書士試験では、プリンターの直し方なんて出ません。でも、実務ではそれが一番大事だったりする。そんな“試験では教わらなかったリアル”が、日常の中にいくつも転がっている。これから司法書士を目指す方には、そういう部分にも目を向けてほしいと思っています。