人手は欲しい。でも雇えない。――小さな事務所の葛藤と現実

未分類

人手は欲しい。でも雇えない。――小さな事務所の葛藤と現実

人手は欲しい。でも雇えない。――小さな事務所の葛藤と現実

なぜ「雇いたいのに雇えない」のか?

地方の小さな司法書士事務所を運営していると、毎日のように「もう一人誰かいてくれたら」と思います。電話は鳴るし、期限は迫るし、目の前の業務でいっぱいいっぱい。それでも「じゃあ誰か雇えばいいじゃないか」と言われると、そう簡単な話じゃないんですよね。気持ちと現実の間にある大きな壁、それが「雇いたいけど雇えない」という悩みです。

人手不足なのは明らかなのに動けない理由

今のままだと回らない、という危機感は常にあります。忙しい時期になると事務員さんと二人で黙々と作業を続け、昼食もまともに取れずに夕方になってしまうことも。だけど「じゃあ雇おう」と踏み切れない。理由は明白で、「安定的に払える自信がない」んです。仕事はあるけど、毎月波があるし、急なキャンセルや変更も日常茶飯事。そんな不安定な中で、誰かの生活を背負う決断ができないんです。

求人を出す勇気が出ない――負担とリスクの恐怖

「ハローワークに出してみたら?」「知り合いに聞いてみたら?」という助言もあります。でも一度雇えば、それは責任が伴うこと。もし数ヶ月後に仕事が減ってしまったら、給料をどうするのか。辞めてもらうわけにもいかない。いったん入ってもらったら、こちらの事情で切るなんてできない性格なんです。だから、軽々しく求人票を出すことすらできません。

地方事務所ならではの採用の難しさ

東京のような大都市圏と違い、地方ではそもそも「働きたい」という人の数が少ない。それに加えて、専門的な内容を含む司法書士事務所の仕事は、応募されにくい現実があります。「簡単な事務です」なんて言えないし、かといって未経験OKと書けば、教育が大変。八方ふさがりの中で、求人という選択肢すら閉ざされてしまいます。

応募がそもそも来ない、という現実

一度、意を決して求人を出したことがありました。ハローワークと地域の求人誌に掲載しましたが、1か月で応募はゼロ。年齢も性別も不問、経験も不問にしたのに、まったく反応がなかったのです。理由はあとから聞いて分かったのですが、「場所が不便」「時給が安い」「仕事内容が重そう」――地方ではそのどれか一つでも引っかかると、誰も来てくれないんです。

「時給900円でもいいので…」の甘い幻想

「うちはそんなに忙しくないし、時給900円くらいでも十分だろう」と思っていた昔の自分に言いたい。甘すぎる、と。求人市場の相場は上がり続けていて、最低賃金スレスレの募集では誰も見向きもしないのが現実。しかも、「司法書士事務所」というだけで「なんだか大変そう」と敬遠されてしまうのです。やっと来たと思った応募者が「行政書士と何が違うんですか?」と聞いてきたときは、正直ガクッときました。

通勤距離・仕事内容・地域柄の壁

地方では「車で通える範囲」が最優先条件になります。公共交通機関もあてにならず、片道30分を超えると一気に応募率が下がる。しかも、司法書士業務は正直「地味」でありながら、細かく、責任が重い。誰にでもできる仕事ではないし、かといって高度な報酬が出せるわけでもない。地方というだけで既にハンディがある中、仕事内容と報酬のバランスも崩れていて、求人が成立しないのです。

雇っても続かない…採用の“その後”という問題

仮に奇跡的に採用できたとしても、それで悩みが解決するとは限りません。むしろ、そこからが新たな苦しみの始まりでした。以前、20代の女性を採用したことがありましたが、半年で辞めてしまいました。その理由が、「想像と違った」でした。

仕事が地味で敬遠される職種

地味でミスが許されず、誰にも評価されにくい仕事。それが司法書士事務所の現場です。毎日ひたすら書類を整え、ミスがないように気を配り、電話対応で神経をすり減らす。SNS映えもしないし、達成感も派手なものではありません。そこに魅力を感じる人は、そう多くありません。

「簡単な事務」と思われがちな職務内容

「ちょっとした事務」と思って入ってくる人もいますが、現実は違います。不動産登記、相続、商業登記――専門用語も多く、書類の種類も多岐にわたります。しかも、期限管理や補正対応も求められ、正確性が何より重要。軽い気持ちで入ってくると、想像以上のプレッシャーに押されて辞めてしまう。これはもう、構造的なミスマッチです。

本音を言えば、教育する余裕がない

誰かを育てたい気持ちはあるんです。でも現実はというと、目の前の業務で手一杯。新人に教える時間なんてとても取れない。毎日がギリギリの綱渡りで、「これはこうやって…」と教えているうちに、自分の締切が迫ってきて、イライラしてしまう。悪循環です。

教えるよりも自分でやった方が早いという矛盾

よくある「あるある」ですが、ほんとにそうなんです。教えて失敗されるくらいなら、自分でやった方が早い。結果として、いつまでも新人が育たないし、任せられないから余計に自分の負担が増える。これは「雇う側の限界」でもあります。

マニュアルを作る気力が湧かない日々

「マニュアルを整えれば人が育つ」とよく言われます。でも、それを作る気力がないんです。毎日タスクに追われる中、仕事の流れを文字に起こして整えるのは至難の業。そもそも、自分自身も勘と経験で動いている部分が多く、言語化しようとすると混乱してしまう。だからといって、放置しても何も変わらない。これもまた袋小路です。

時間をかけて育てても、辞められたら終わり

やっと育ったと思った頃に辞められる――これが一番こたえる。時間も気力も費やして、やっと「任せられる」と思った矢先に「家庭の事情で…」と退職。感情的には責められないけど、残された側の虚しさと疲労感は半端じゃありません。もう一度、同じサイクルを繰り返す気力がなくなってしまいます。

理想と現実のギャップに折り合いをつけるには

ここまで読んでいただいて「じゃあどうするの?」と思った方へ。正直、今も答えは出ていません。ただ、少しずつ意識を変えて、現実に折り合いをつけていくしかないのかなと思っています。理想通りに人を雇うのが無理なら、理想の形自体を見直していくしかないのかもしれません。

「すぐには雇わない」という選択も一つの戦略

「雇わなきゃ回らない」と思い込んでいる部分もありましたが、逆に「雇わずにどう回すか」を考える方が、今の状況には合っているのかもしれません。業務の棚卸しをして、減らせる仕事を見つける。スピードは落ちても、クオリティを維持する。自分の働き方自体を見直すことで、少しずつ余裕を作れるかもしれません。

「雇う前提」ではなく「外注」や「効率化」の視点も

最近では、記帳や封筒の宛名印刷など、外注できる仕事も増えてきました。また、クラウドサービスやAIの力を借りて、自動化できる部分も出てきています。すべてを「人」で解決しようとするのではなく、「仕組み」や「サービス」で補う発想も必要なのかもしれません。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。

未分類