相続登記の説明、なぜこんなに伝わらないのか
司法書士として日々、相続登記の説明を依頼者に行っていますが、「どうしてこんなに伝わらないんだろう」と感じる場面が多々あります。こちらは法律に則って必要な手続きを、できるだけ噛み砕いて説明しているつもりなのに、相手の表情はどんどん曇っていく。「それって本当に必要なんですか?」と問われると、心の中でため息が出ます。知識の差だけではなく、相手が置かれている状況や心の余裕のなさが、理解の壁を高くしているのだと感じる日々です。
専門用語が多すぎるという現実
「登記」「権利証」「法定相続分」「遺産分割協議書」……こうした言葉を、業務では当たり前のように使っています。でも、相続の相談で来られる方にとっては、聞いたことがあるような、ないような言葉ばかりです。説明するたびに、「それってつまり、どういうことなんですか?」と聞かれ、また一から言い換える。その繰り返しに、正直、疲れるときもあります。言い換えても言い換えても、伝わらないもどかしさに、自分の語彙力の限界を思い知らされることもしばしばです。
「登記」と「名義変更」のズレ
「登記」と言っても、依頼者には「名義変更」としか認識されていないことが多いです。「名義を変えるだけでしょ? なんでそんなに書類がいるの?」と言われると、心がチクッとします。確かに、車の名義変更とは違って、相続登記は法定の根拠や手順が必要で、それなりの複雑さを伴います。でもその違いを丁寧に説明しても、聞き手にとっては面倒が増えただけの印象しか残らない。自分が税務署の職員か何かにでもなったような、冷たい存在に思えてしまう瞬間があります。
「名義を変えるだけでしょ?」への違和感
この「名義を変えるだけでしょ?」という言葉には、あまりに多くの誤解が詰まっています。相続登記は、単に名義を変える作業ではなく、法的根拠に基づいた所有権の承継であり、関係者全員の合意が必要になる繊細な手続きです。でも、依頼者の頭の中では「誰か一人が役所に行ってちゃちゃっと済ませること」くらいの感覚でいることが多い。伝えるこちらも、誤解されるたびに少しずつ神経をすり減らしていくのです。
戸籍と遺産分割の説明の難易度
戸籍を集める必要があると説明すると、「なんでそこまでいるの?」と驚かれます。中には「父の出生からの戸籍? もう役所にないって言われたけど?」と怒り出す方もいます。遺産分割協議書の説明に至っては、「兄弟がもう会いたくないって言ってるんですけど」と苦笑交じりに言われ、こちらも言葉に詰まる。法律的な説明が必要なのはわかっていても、家族の事情が絡んでくると、それだけで説明の難易度が跳ね上がります。
感情と法律の狭間で
こちらが話しているのは法律の話でも、依頼者にとっては「感情の話」であることがほとんどです。過去の確執、兄弟間の対立、親への複雑な思い。それらがすべて、相続登記という形で表面化してくる。そうした背景を背負った人に対して、淡々と法的要件を説明するのは、正直しんどい。法律の正しさが、感情の重さに押し負ける瞬間もあります。
「それ必要なんですか?」という一言の破壊力
どんなに丁寧に準備しても、依頼者からの「それって本当に必要なんですか?」の一言で、すべてが崩れる気がする時があります。こちらとしては当然のことを説明しているのに、まるで無駄なことを押しつけているかのような雰囲気になる。無力感に襲われながらも、それでも手を止めるわけにはいかない。そんな気持ちを抱えながら、次の依頼者を迎えています。
書類を集める手間への反発
「もう何通、戸籍出せばいいの?」と苦笑混じりに言われるたび、心のどこかで「わかります、私だって面倒だと思いますよ」と呟いてしまう自分がいます。でも制度がそうなっている以上、避けて通れないこともまた事実です。それを納得してもらうには時間がかかるし、場合によっては怒りをぶつけられることもある。正直、こっちが泣きたくなることもあります。
家族の中での温度差も伝わってくる
たとえば、長男は「ちゃんとやらないと」と真面目に考えているのに、末っ子は「別に放っておいても問題ないでしょ」と無関心。そういう温度差が、登記の説明を通じてひしひしと伝わってきます。家族会議の代行をさせられているような気分になることもありますし、「自分が調整しないと進まないのか」とプレッシャーに押しつぶされそうになる日もあります。
自分の中のもどかしさと無力感
何年やっても慣れないのが、この“伝わらなさ”に対するもどかしさです。相手の表情を見ながら説明の方向を変えたり、資料を加えたり、それでもピンと来ない顔をされた瞬間に、「自分は何をしているんだろう」と感じてしまう。そんな心の揺れと、今日も戦っています。
丁寧に話しても伝わらない日
一時間かけて話したのに、「じゃあまた考えます」と言われて帰られると、ガックリきます。「結局、何も伝わってなかったのか」と思うと、反省と同時に脱力感が襲ってきます。自分の力量不足なのか、タイミングが悪かったのか、それとも制度そのものが人に優しくないのか……悶々と考えながら事務所の椅子にもたれる夜があります。
「プロとして失格なのか」と思う瞬間
伝わらない説明を繰り返していると、「もしかして自分、向いてないんじゃないか」と思ってしまうこともあります。特に忙しくて疲れているときほど、そんな思考に陥りがちです。でも、過去の自分と比べると少しずつ伝える技術は磨かれているはず……と自分を励ましながら、なんとか踏ん張っています。
依頼者の反応に一喜一憂してしまう
本当は、感情を切り離して淡々と仕事をこなすべきなんでしょうけど、なかなかできません。ちょっとした笑顔や「助かりました」という一言に、思いのほか救われることもあれば、「それ必要なんですか?」の一言でどん底に落ちることもある。人に振り回されているようで、自分に嫌気がさすこともあります。
心がざらつく時の処理方法
そんなときは、近くのコンビニで甘いコーヒーを買って、車の中で一人になる時間をつくります。静かな車内で、「まぁ、みんな大変なんだよな」と頭を整理する。その時間があるかないかで、次の仕事への気持ちの切り替えが全然違ってきます。心のざらつきをそのままにしないことが、続けるコツなのかもしれません。
それでも、やめない理由
伝わらないことばかりの毎日ですが、それでもこの仕事をやめたいと思ったことはありません。むしろ、悩んで悩んで、ようやく感謝の言葉をもらえた瞬間に、これまでの苦労が報われる。そんなふとした報酬が、明日もやろうと思わせてくれるのです。
たまに返ってくる「ありがとう」の重さ
すべてがうまくいったわけではないけれど、「本当に助かりました」と言われた時、その言葉の重みを実感します。完璧じゃなくても、誰かの役に立てた実感。それが、この仕事を続けている理由かもしれません。伝わらなくても、伝えようとする姿勢だけは忘れたくないと思っています。
報われる瞬間を支えにしている
疲れたときに思い出すのは、文句を言っていた依頼者が最後に握手してくれたことや、後日お礼の品が届いたこと。小さなことかもしれないけど、それが心に残っていて、「また頑張ろう」と思わせてくれる。決して割のいい仕事ではないけれど、こうした瞬間があればこそ、やっていけるのだと思います。
伝わらなかった経験が、いつか誰かの役に立つ
このもどかしさを共有できる人が増えてくれたら、少しは楽になるかもしれません。同じように悩んでいる司法書士の方、これから目指す方にとって、「ああ、こんな気持ちになることもあるんだな」と思ってもらえれば、それだけで書いた意味があると思います。
同じ悩みを抱える誰かへ
相続登記の説明が伝わらないことで悩んでいるあなたへ。あなたは一人じゃありません。私も、何年やっても悩んでいます。だからこそ、肩の力を抜いて、自分のペースでやっていきましょう。うまくいかないことも、意味があるのだと、私は信じています。