何度説明しても伝わらない——法務局で立ち尽くしたあの日

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何度説明しても伝わらない——法務局で立ち尽くしたあの日

法務局に行くのが、少し怖くなる瞬間

司法書士として働いていて、何度も法務局に足を運んでいると、時折「今日はダメな日だ」と感じる瞬間があります。いつもの担当者が不在で、新人らしき方が窓口に座っている——それだけで、胸の奥がざわつくんです。こちらは何十件も処理してきた定型的な登記でも、担当者が変わるだけで通らない。そんな日が、たまにあるんです。

いつもの担当者がいない、それだけで不安

その日も、普段なら何も言われず受け付けてもらえる登記申請書を出しに行きました。ところが、窓口にいたのは見慣れない方。嫌な予感は的中します。「これはこの書式では受け取れません」と、まさかの一言。思わず「えっ?」と聞き返しました。

「この書き方では受理できません」と言われたときの衝撃

根拠を尋ねても、「こちらの解釈ではそうなっております」と繰り返すだけ。法務省の通達も、先日の審査官とのやりとりも、すべて伝えましたが、まるで通じませんでした。どんなに丁寧に説明しても、目の前にある“正しさ”が認識されない。それはもう、怒りというより絶望に近い感情でした。

説明しても伝わらない焦燥感

声を荒げるわけにもいかず、深呼吸をしながら、言葉を選び、資料を出して説明しました。しかし、その方はずっとマニュアルの一文をなぞるように対応を続けます。まるで自動音声のようで、こちらの必死の訴えは虚空に消えていくようでした。

「前回は大丈夫だったのに」の虚しさ

前回、同じ内容で問題なく受理されたことを伝えても、「今回はダメです」との一点張り。法務局が一貫していないことは百も承知ですが、せめて“なぜ”を共有してくれたら…。その説明がないまま、書類だけを突き返された時の気持ち、経験者ならわかってもらえると思います。

なぜこうも通じないのか、制度の壁と人の壁

司法書士としての業務の中でも、特に精神をすり減らすのが「人との噛み合わなさ」です。制度の運用は本来、一定の共通理解があってこそ成り立つはずなのに、現場ではそういかないことが多い。とくに、新人職員と対面したときの“壁の厚さ”は異様です。

新人担当者はマニュアル通り、それが逆に厄介

彼らが悪いわけではないのです。むしろ真面目で誠実だからこそ、マニュアルを厳格に守ろうとする。でも、現場には例外があるし、運用の幅もある。それを理解しきれないまま窓口に立っていると、現実と制度の狭間で、摩擦だけが生まれます。

法務局内での運用の違いという落とし穴

同じ登記でも、A支局ではOKでB支局ではダメ——これは司法書士なら誰もが経験していること。まるで方言のように、支局ごとの“流儀”があるんです。それを知らずに「全国共通のルール」で挑むと、必ずしっぺ返しをくらいます。

書類の正しさよりも、誰に出すかの運

ある意味、運です。誰に出すか、どの窓口か。制度や条文より、目の前の担当者の理解力と解釈にすべてが左右される世界。法律の専門家としては情けない話ですが、それが現実なのです。

「通れば正義」になってしまう現実

不思議なことに、一度突き返された書類でも、別日に別の担当者に出すと、あっさり通ることがあります。これはもう、「通れば正義」なんです。ルールの本質ではなく、表面的な確認作業だけが重視される状況に、心が削られていきます。

現場のリアル:司法書士の説明責任の重さ

依頼者にとって、司法書士は“専門家”です。ですから、どんな理由で登記が通らなかったかを、明確に説明しなければなりません。でも、その原因が「担当者との相性」だなんて言えません。だからこそ、現場では“理不尽さを飲み込む力”が求められます。

こちらが正しくても通じなければ意味がない

法律的に問題がなくても、現場で通らなければ意味がない。それが司法書士の世界。正しさよりも、通ることが優先される場面があるのは、実に苦しい現実です。そしてそのギャップに、心がすり減っていきます。

事務員にも説明しづらいこの理不尽さ

「先生、どうだったんですか?」と聞かれて、「いや、通らなかったんだ…」と答えるのは実に情けない。事務員にとっても、「なぜ?」が気になるところ。でも、それが“説明してもわかってもらえなかったから”とは、なかなか言えないんです。

現場では、理屈より納得感が優先される

ロジックや根拠よりも、「なんか不安だからやめておきましょうか」といった感情的判断で書類を突き返されることもあります。感情に対して論理は無力。これが司法書士の現場のひとつの真実です。

心が折れそうになった日、それでも続ける理由

理不尽さを前に、何度も「もう辞めたいな」と思ったことがあります。そんな時でも踏みとどまれるのは、やはり依頼者の存在があるからです。あの人たちの不安を、自分が代わりに背負わなければ、と思うと、簡単には逃げられないんです。

依頼人のために怒るわけにもいかず

こちらが怒ってしまえば、窓口の空気はさらに悪くなり、依頼者にも迷惑がかかります。だからこそ、どんなに理不尽でも、丁寧に対応し続けるしかない。でも、内心では何度も机を叩いていますよ、本当に。

「今日は無理だった」と帰る勇気

悔しくても、納得がいかなくても、その日は諦めて帰る——それもまたプロの判断です。時間をおいて、体制が変わったときに再提出する。登記の仕事には、そういう“タイミングを待つ知恵”も必要なのです。

一晩寝かせて翌日再提出、それで通る不思議

実際、翌日に別の窓口で出したら通ったという経験は、一度や二度ではありません。魔法でもなんでもなく、ただ“人が違う”だけ。それでも、「やっぱり出して良かった」と思える瞬間があるから、続けられるんでしょうね。

司法書士を目指す人に伝えたいこと

机の上の知識だけでは、実務は回りません。相手があって初めて成立する仕事ですから、“伝わらない”ことも含めて想定しておくべきです。それでも、あきらめずに続けていけば、少しずつ“通じる瞬間”が増えていきます。

実務は教科書通りにいかない

条文や先例だけでは処理できない場面が、山のように出てきます。でも、経験を積むことで、少しずつその“間”が読めるようになる。だからこそ、実務を怖がらず、現場に飛び込んでみてください。

だからこそ、丁寧に、でも折れない気持ちを

丁寧さは大事。でも、丁寧さだけでは足りません。ときには、相手の理解の限界も見極めながら、自分の立場を貫く強さも必要です。優しさと諦めの境界線を行き来しながら、それでも心折れずにいること——それが司法書士の真の仕事だと思います。

優しさだけではやっていけないが、優しさは必要

最後に伝えたいのは、“優しさ”を捨てないでほしいということです。制度の歪み、理不尽な扱い、伝わらない悔しさ——そんな中でも、依頼者へのまなざしは変えずにいてほしい。愚痴を言いながらでも、その姿勢を守り抜ける人が、長くやっていけるんだと思います。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。

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