依頼人が録音していた…そのとき司法書士は?契約立会の“まさか”にどう向き合うか

依頼人が録音していた…そのとき司法書士は?契約立会の“まさか”にどう向き合うか

契約立会の最中、録音されていたという現実

まさか、という気持ちしかなかった。ある契約立会の場面で、ふとした拍子に依頼人のスマートフォンが伏せられたままテーブルに置かれているのに気づいた。違和感を覚えて話を続けながらよく見ると、ボイスメモが作動していたのだ。「あ、これ録音されてるな…」と背筋がゾッとした。その場では平静を装ったが、内心は穏やかではなかった。信頼されていないような、監視されているような、そんな複雑な感情がぐるぐると渦を巻いていた。

まさかの瞬間:気づいたときの違和感

最初はただのメモ代わりかとも思った。でも、録音ボタンが明らかに作動していたのを見た瞬間、全身の力がスッと抜けた。相手はこちらに特段何も言わない。こちらも空気を壊さないよう努めたが、「これはなんなんだ」というモヤモヤが頭から離れなかった。契約書にサインをもらう手が、ほんの少し震えていたのを、たぶん相手は気づいていなかったと思う。

無断録音に抱いた感情と動揺

録音そのものに怒りがあるわけではない。でも、「言ってくれればいいのに」という気持ちが強かった。録音されるというのは、自分の発言がいつでも証拠として使われるということだ。言葉を選びながら慎重に話すべきか、それともいつも通りでいいのか――正直、分からなくなった。誤解を恐れて、いつものように冗談も言えなくなる。そんな無意識の自己規制が、じわじわと心を疲弊させるのだ。

なぜ依頼人は録音していたのか?

あとで振り返ってみて、相手の立場になって考えてみた。「もしかすると不安だったのかもしれない」「他の家族と話を共有する必要があったのかもしれない」。理由はさまざまだろう。ただ、どれも理解はできるけど、納得はできなかった。私たちは信頼の上で成り立つ職業のはずだ。なのに、言葉のひとつひとつを録られていると思うと、足元がグラつく。

信用できないから?それとも確認のため?

録音する側の心理は「不安」や「万一への備え」なのかもしれない。でも、それは「信用できないから」という裏返しでもある。録音しないと安心できない関係って、そもそもどうなんだろうか。私たちは誠実に対応しているつもりだし、説明だって繰り返す。だが、それでも「音声」が必要だと言われたら、こちらとしてはやるせない。

「保身」と「不信」の間にある壁

録音は自己防衛かもしれない。でも、その行為が私たちには「不信」に映る。相手はそんなつもりじゃなくても、こちらの受け止め方には大きな影響がある。「言った・言わない」にならないために、というのもわかるけれど、まずは信頼してくれよ、と言いたくなる。お互いに壁を感じたまま契約書に署名だけするような場では、本来の立会の意味がどんどん薄れてしまう。

録音行為は違法なのか?法的観点から考える

こうした無断録音、そもそも法的にはどうなのか気になる人も多いだろう。結論から言えば、日本の法律上、当事者間での録音自体は原則として違法ではない。だが、問題になるのは「どう使われるか」だ。とくにSNSやYouTubeなどで拡散されるケースが増えたいま、録音された内容が一人歩きするリスクは見過ごせない。

公開されなければ問題ないという落とし穴

「録音したって、公開しなきゃ問題ないでしょ」と言われることがある。確かにそうだ。でも、実際にはその録音が誤解を生んだり、内容の一部が切り取られて拡散されたりすることで、名誉毀損やプライバシー侵害に発展する可能性がある。つまり、録音はその瞬間だけで完結せず、後のトラブルの種になることもあるということだ。

民事・刑事の視点から見た「録音」

民事の場面では、録音は証拠として使われることが多い。ただし、録音の仕方や編集の有無によっては信用性が問われる。一方、刑事事件となれば、録音の内容が脅迫や業務妨害と捉えられるケースもゼロではない。依頼人がその意識なく録音していたとしても、こちらとしては常に慎重でいなければならない。

許可なく録音されたときの対処法

録音に気づいたとき、私は「録音はやめてもらえますか」とやんわり伝えた。正直、強く言う勇気はなかった。でも、それだけじゃダメだとあとで思った。やはり、冒頭で「録音される場合は事前にご相談ください」と伝えるべきだった。それが自分の身を守る手段にもなるし、相手との信頼関係にもつながるのだ。

録音されることへの“疲弊”と“割り切り”

録音されるのが当たり前、という時代なのかもしれない。だけど、こちらは感情のある人間だ。「証拠として残したい」気持ちも理解はできるけれど、毎回「録られてるかも」と警戒しながら話すのは、精神的にしんどい。割り切りの難しさを痛感している。

感情のやり場がない:心のしんどさ

録音されたと知ったときのモヤモヤは、帰宅しても消えなかった。夕飯の味もよくわからないくらい、ずっと気になっていた。「あの言い方、まずかったかな」「変にとられないかな」と、頭の中でリプレイが止まらない。こんなふうに悩んでる司法書士、きっと他にもいると思う。

いちいち反応してられないという諦め

とはいえ、いちいち腹を立ててもしょうがない。そう思っても、やっぱりどこかで「記録されてるのか…」という警戒心が抜けない。割り切って流すことができれば楽なのに、それができないからこそ、司法書士の仕事はしんどいのかもしれない。

今後に活かせる対応と予防策

経験から学ぶことは多い。録音されることを前提に考えるなら、こちらも備えておくしかない。トラブルを未然に防ぐための一工夫、それが今後の安心材料になると信じたい。

事前のアナウンスと注意喚起

「録音はお控えください」と紙に書いておくだけでも抑止力になる。「録音する場合は事前にお申し出ください」という一言を最初に伝えるだけで、空気はまるで違う。それが言いづらい場面もあるが、自分のストレスを減らすためにも必要な手間だ。

「録音される可能性がある前提」で話す

これからの時代、「常に録音されているかもしれない」と思って話すのが一番安全かもしれない。雑談も冗談も、油断すれば切り取られて広まる恐れがある。少し寂しいが、それもまた自衛だ。

書面化の重要性がますます高まる時代

口頭での説明には限界がある。やはり書面にして残しておくことが一番だと、今回の件で強く思った。証拠としても説得力があるし、後のトラブルを防ぐ意味でも有効だ。面倒でも、丁寧に書いておくことで自分を守ることができる。

同業者へ伝えたいこと:私たちは録音されている

このコラムを読んでくれている同業の方々へ。あなたも、おそらくどこかで録音されています。気づいていないだけで、スマホの向こうで、あなたの言葉は記録されているかもしれません。

あなたもきっと、気づかないうちに録られている

私だけの話ではないと思う。立会いのとき、何気なく置かれたスマホ、違和感のある沈黙…。そんなとき、気づかないふりをしていませんか?気づいた瞬間のショックと動揺は、たぶん共通しているはずです。

それでも誠実であり続ける意味

どれだけ録音されても、私たちは誠実に向き合うしかない。それが司法書士という仕事の本質だと思う。だからこそ、日々の対応を見直すきっかけとして、この体験を忘れずにいたいと思う。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。

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