“信用”が重くのしかかる夜に、僕らは何を背負っているのか

“信用”が重くのしかかる夜に、僕らは何を背負っているのか

「信用」という言葉が持つ異常な重さ

司法書士として仕事をしていると、「信用」という言葉の重さを嫌というほど感じさせられます。これは単なる「信頼されているから嬉しい」などという話ではありません。むしろ、期待に応えられなかったときの代償が恐ろしくて、手足がすくむような感覚です。ひとつのミスがすべてを壊しかねない職業。それが司法書士という仕事です。

お金の重みよりも重く感じる“信用”のプレッシャー

お金のミスなら、最悪返せば済むこともあります。でも、信用を一度失ったら、取り戻すには時間も、実績も、人間関係も、何もかもが必要になります。僕の知人の司法書士は、登記の期日を1日遅らせただけで顧客から契約を切られ、その噂が他の不動産会社にも広がって、業務量が激減しました。たった1日の遅れで、です。それほどこの仕事では“信用”が命なのです。

失敗すれば即アウトの世界で生きること

「ミスは誰にでもある」と言ってくれる人もいますが、それはこの業界では通用しません。僕自身も、相続登記で被相続人の名前の漢字を一文字間違えたことがありました。すぐに訂正はしたものの、依頼者の表情は明らかに曇っていました。その瞬間、自分が築いてきた信頼が崩れ落ちる音が聞こえた気がしました。

依頼人の“信用”に応えるということ

依頼人は「先生にお任せします」と簡単に言ってくれるけど、その一言に含まれる期待は重い。特に、相続や不動産取引など、人生の節目に関わる案件になると、その重みは倍増します。依頼人は「安心」を求めて僕らに仕事を託してくる。だからこそ、応えたい。でもそれが、またプレッシャーになる。

「あなたにお願いしたい」の言葉が嬉しくて、でも怖い

ある日、20年以上前に登記を担当したお客様の息子さんから依頼の電話がありました。「父があなたに頼んでいたから、自分もお願いしたいと思って」と。正直、涙が出るほど嬉しかった。でもその一方で、「今度こそ失敗できない」と身が引き締まるどころか、呼吸が浅くなるほど緊張しました。信用されることは、同時に“責任”を背負うことなんです。

受任した時点で背負う「万が一」への恐怖

登記が終わったあとも、「あれで本当に大丈夫だっただろうか」と寝る前に思い返すことがよくあります。事務員と一緒にダブルチェックはしているけど、どこかに抜け漏れがあるんじゃないかと不安になります。安心して寝られる日なんて、正直ほとんどありません。

「もしものとき」に備えた保険では救われない現実

業務過誤保険に入っているとはいえ、それでカバーできるのは金銭的損害だけです。信用の損失は保険では補填できません。依頼人の信頼を取り戻すには、10年かけても足りないこともあります。「万が一」が現実になった瞬間、自分の職業人生すら脅かされるのです。

事務所の“信用”は誰が守っているのか

事務所の看板に名前が出ているのは僕ですが、実際に回っている業務の多くは事務員が支えてくれています。でも、その事務員の一つのミスが「代表者である僕の信用」に直結する。この構造、なかなかしんどいんですよ。

スタッフに任せる怖さ、自分で抱え込む限界

「任せることも信頼のうち」と言われますが、実際はそう簡単にはいきません。任せた結果、もし間違いがあれば、それはすべて自分の責任になります。結局、重要な判断は自分で確認するようになり、気づけば深夜まで書類チェック…。これでは“信用”を守るどころか、自分が壊れてしまいそうです。

人を雇うことの“信頼”と“裏切り”のリスク

以前、雇っていた事務員に顧客情報を持ち出され、別事務所に転職されたことがありました。守秘義務を説明したうえでの雇用でしたが、人の心まではコントロールできません。こちらが築いてきた“信用”を土台ごと持っていかれるような感覚に、何も言えなくなりました。

同業者との“信用”と、その薄氷の関係

士業の世界は狭い。ちょっとした噂もすぐに広まります。「あの事務所、最近登記遅れたらしいよ」なんて話は、たった一件でも仕事に影響が出る。怖い世界です。

業界内の噂話が実務より怖い

たとえば、不動産屋さん経由で回ってきた案件で、別の司法書士の対応ミスの話がありました。それが事実かどうかもわからないのに、「あそこの先生はちょっと…」と噂されていた。僕はその先生のことを知っていたので内情も分かるのですが、それでも噂の影響力には驚かされました。事実より“印象”が先に独り歩きする業界です。

「あの先生は信用できる」って誰が決める?

結局、“信用できる司法書士”という評価は、技術力よりも「どこに属しているか」「誰と付き合っているか」で決まることも多い。そんな不公平な世界に、嫌気がさすときもあります。それでも、自分のやるべきことを黙々とこなすしかないのがこの仕事です。

若い司法書士、目指す人たちへ伝えたいこと

これから司法書士を目指す人には、厳しい現実を知っておいてほしいと思います。スキルや知識はあって当たり前。その上で、「信用される人間」でなければ続けていけない。それが、この業界の現実です。

スキルより先に“信用”を試される職業

試験に受かっても、実務で評価されるわけではありません。最初に来るのは「この人に任せても大丈夫か?」という“人間性”の評価です。資格があっても、「任せたくない」と思われたら仕事は来ません。だから、勉強だけしてきた人ほど最初は戸惑うんです。

誤解されがちな「一人でできる仕事」ではない

司法書士は一人で黙々とやる仕事だと思われがちですが、実際は他士業や依頼人、不動産業者、銀行、裁判所…いろんな人と関わる“調整型”の職業です。人との関係性の中で成り立つ職種だからこそ、“信用”は常に問われるテーマになります。

信用されることは、背負わされることでもある

信用されると、そのぶん期待され、頼られます。嬉しいことですが、裏返せば常に「この人を裏切らないようにしなければ」という無言のプレッシャーを抱えることになります。新人のうちは、無理に全部応えようとしないことも大事かもしれません。

それでも、僕らがこの仕事を続けている理由

「信用が重い」と愚痴をこぼしながらも、それでも仕事を続けているのには理由があります。辛くても、投げ出したくなっても、続けてしまう理由が。

「ありがとう」の一言が、また一歩進ませてくれる

登記が完了し、「これで安心しました。ありがとうございました」と言われると、それまでの苦労が一瞬で報われます。心が少し軽くなる気がするんです。この一言をもらうために、僕は今日も書類に向き合っています。

不安と信用の間で、今日も書類をめくる

信用に押し潰されそうな夜もあるけれど、それでも明日はやってくるし、待っている依頼人もいる。僕ら司法書士は、不安と信用の狭間で今日も地道に働いているんです。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。

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