まさかの「親族間トラブル」で案件が止まる日が来るとは
この仕事を長くやっていても、時折「そんな理由で?」と唖然とするような出来事に出くわします。今回紹介するのは、親族間の些細な喧嘩が原因で、完全にストップしてしまった登記案件の話です。書類もそろっていて、手続きも問題ない…はずだったのに、気づけばこちらが板挟みに。司法書士としてどうしようもない状況に陥り、精神的にも消耗するばかりの経験でした。
書類は揃ったのに、進められない矛盾
登記に必要な書類は、依頼人側で揃えてくれていました。委任状、登記原因証明情報、印鑑証明書…全て完璧です。あとは印鑑を押してもらって、申請すれば終わるはず。ところが、突然「ちょっと待ってほしい」と兄弟の一人から連絡が入りました。詳細を聞いても「今は話せない」と濁され、こちらも一歩も進められない状態に。
印鑑証明はある、でも印鑑が押せない
面白いのは、印鑑証明書がすでに提出されているのに、当の本人が「まだ押せない」と言ってくることです。形式上は整っているのに、実際の印は押されていない。結局、法的な意味ではまったく動けないんです。事務的には進行中、でも実務では停滞。これが地味にキツい。
「後で話す」と言われたまま数週間
「また改めて連絡する」と言われてから、何の音沙汰もなく2週間が過ぎました。こちらから催促すれば「もう少し待って」と。依頼人の家族内で何かが起こっているのは明白。でも、こちらは聞かされていない。宙ぶらりんの状態で、ただただ時間が過ぎていくのは、本当に消耗します。
原因は家庭内の小さな火種だった
ようやく原因が分かったのは1ヶ月後。事務所に兄弟揃って来所したときです。聞けば、財産の分け方をめぐって口論になり、それが感情的なわだかまりに発展したとのこと。もともとは円満に進んでいた話が、ちょっとした言葉の行き違いから、深刻な問題へと変わってしまったようです。
相続ではなく「生前贈与」で揉めるという盲点
意外だったのは、このトラブルが「相続」ではなく「生前贈与」に関するものであった点です。相続なら揉めるのは想定の範囲ですが、生前贈与でも同じように感情が入り込んでくるとは…。親の意向に兄弟の一人が納得できず、結果として登記に協力しないという流れに。いや、もう正直、こちらには関係のない話なんですが。
この手のトラブル、実は珍しくない
初めて経験したときは「こんなことあるのか」と思いましたが、実は親族間トラブルによる登記の中断はそこまで珍しいものではありません。見えないところで火花を散らしている家庭は多く、登記のタイミングで一気に表面化するケースが少なくないのです。
過去の案件でもあった“親族内ブレーキ”
たとえば以前、相続登記の際に弟が突然「俺だけハブにされてる」と言い出して、手続きが止まったこともありました。実際には連絡もしていたし、説明もしていたのに、「気持ちの問題」で納得してもらえず、振り回される展開に。こういう“感情優先”のブレーキは、法では止められません。
相続放棄の誤解からの対立
「放棄したんだから文句言うな」と言われた側が、「放棄したのは金銭部分だけだ」と反論。細かいニュアンスの違いが、深い溝を生む。本人たちは筋を通しているつもりでも、立場が違えば理解も食い違う。登記の話が、いつのまにか人生観の対立に変わってしまう。これが一番厄介です。
財産目録に書かれていない「感情の遺産」
目に見える財産よりも、目に見えない“しこり”のほうがやっかいです。たとえば「長男ばかり優遇されてきた」とか、「昔の喧嘩が忘れられない」とか。財産目録には載らない「感情の遺産」が、登記の場面で爆発するんです。司法書士としては、どうにもならない領域です。
現場の司法書士にできること、できないこと
こういう場面で依頼人から期待されるのが、「なんとか話をまとめてくれませんか?」という無茶ぶり。でも、司法書士はあくまで書類作成と手続きの専門家であって、家庭内カウンセラーではありません。とはいえ、断ると冷たい印象を持たれがちで…毎回ジレンマに悩まされます。
調整役を期待されるけど、法律上の限界もある
「中立な第三者として立ち会ってくれれば話がスムーズにいく」と思われがちですが、実際には一方の肩を持ったと誤解されることもあります。会話のニュアンス一つで、空気がピリつく。法律家として、どこまで踏み込むべきか悩みます。
「ちょっと話を聞いてくれ」と長電話をされる日々
「今日は仕事の電話かな」と思って出たら、「実は昨日また兄とケンカしまして…」と延々愚痴が続く。仕事にならないし、内容も業務とは無関係。でも、あまりにも切実そうなので無下にもできない。この対応だけで1時間潰れることもあります。
中立の立場が逆にストレスになる瞬間
どちらの言い分も聞いて、間に入る立場って、実は相当ストレスです。どちらにも加担せずに話をまとめる…簡単に聞こえますが、実際は双方から不満をぶつけられる“サンドバッグ”状態。優しさだけでは乗り越えられません。