全国に散らばる相続人――全員と連絡がつくまでの3ヶ月間、私は何をしていたのか

未分類

全国に散らばる相続人――全員と連絡がつくまでの3ヶ月間、私は何をしていたのか

相続人が全国に散らばっていた…3ヶ月かかった現場のリアル

「書類さえ揃えばすぐ終わる」と思っていた案件が、結果的に3ヶ月もかかった——そんなこと、司法書士をやっていれば何度も経験します。でも今回の件は、それでも特別長く感じた。理由は明確で、相続人が全国に散らばっていたから。東京・大阪・札幌・福岡・沖縄……それぞれの生活、時間、温度感の違いに私は振り回されました。このコラムでは、その時の“ちょっと笑えない”体験談を通して、全国に散らばる相続人対応の落とし穴と、同業者の方に役立ててもらえるヒントを共有します。

この仕事、スムーズに終わると思っていた

依頼を受けたとき、正直「これはわかりやすいパターンだな」と感じていました。被相続人は一人暮らしで、相続人は実の兄弟姉妹のみ。争いもなさそうだったし、登記原因も明確。普通なら1ヶ月もあれば終わる案件のはずだったのです。

最初の電話で「全国に兄弟がいる」と言われた時の違和感

「兄弟は6人で、北海道から沖縄までバラバラに住んでるんです」と言われたとき、ちょっとイヤな予感がしました。でも口では「それでも大丈夫ですよ、郵送で対応できますから」と答えてしまった。今思えば、あの時点で少し警戒すべきでした。全国にいるということは、書類の送付・返送にかかる時間もバラバラ。しかも全員が同じ熱量で協力してくれるとは限らないんですよね。

「すぐ終わりますよ」と言えなかった理由

本当は「1ヶ月で終わります」と言いたい気持ちもあったんです。でもなんとなく胸騒ぎがして、「相続人全員から書類が揃うまで少し時間かかるかもしれませんね」と濁しておきました。経験上、こういう予感って意外と当たるものでして。相続の手続きって、書類そのものより“人の反応”のほうが何倍も厄介だったりするんですよね。

連絡がつかない日々が始まる

さぁ書類を送りましょう、という段になって、さっそく問題発生。「あの人は今、どこに住んでるかわからない」「連絡とれてないんですよね」——え、聞いてないんだけど。

平日昼間は電話に出ない、郵送も戻ってくる

電話をかけても「現在使われておりません」、郵便は「宛先不明で戻る」、やっとつながっても「平日は仕事で忙しくて…」の一点張り。一人や二人ならまだしも、6人中3人がこれではどうにもならない。こちらとしては進めたくても進められない。この間も依頼者からの問い合わせがくる。「先生、進んでますか?」ってね…。心の中では「進んでないですよ」と叫んでました。

事務員さんの「また返送されてます…」の報告に心折れる

うちの事務員さんは優秀です。ですが何度も返送されてくる書類を手に「またです…」と申し訳なさそうに報告してくる顔を見ていると、なんだか自分が悪いことしてる気持ちになる。「いや、俺のせいじゃないよ…」と心の中でつぶやくけど、気持ちは重くなるばかりです。

書類の集まり方に地域差がある不思議

この案件を通して、ちょっと興味深いことに気づきました。地域によって対応スピードに傾向がある気がするんです。もちろん一概には言えないけれど、「あれ、また〇〇の人が一番早かったな」と思うことが何度もありました。

地方ほど協力的?都会ほど返信が遅い?

今回、一番早かったのは秋田の方。逆に最後まで時間がかかったのは東京と福岡の方。これはあくまで今回のケースですが、都会に住んでいる人ほど返信が遅くなる傾向があるように感じました。仕事が忙しいのか、手続きを軽く見てるだけなのか、そもそも郵送物の扱いが雑なのか…。理由はわかりませんが、確かに差はあるんですよ。

「そもそも何の書類ですか?」から始まる説明疲れ

中には「これって何の書類なんですか?誰が亡くなったんですか?」という人も。えっ、説明してもらってないの?となるけど、相続人同士で連絡をとっていないことも多いんです。結局、1人1人に同じ説明を何度も繰り返すことになります。地味に、これがしんどい。精神的にも体力的にも。

時間だけが過ぎていくプレッシャー

日数だけが積み重なっていくなかで、私の焦りは募るばかり。依頼者の顔が浮かんで、夜中に目が覚めることもありました。「先生に頼めば安心」と言われたのに、このままじゃ信頼を失うんじゃないか……。

依頼者からの催促、でも相続人が悪いわけでもない

依頼者から「進み具合どうですか?」という連絡が来るたび、「正直、変わってません」とは言えず、「◯◯さんからは返ってきましたが、△△さんがまだで…」とボカす。でも、相続人も悪い人ではない。単に、忙しいか、手続きを軽く見てるだけなんです。責めるに責められない状況が一番きつい。

「先生、何してるんですか?」と言われて傷ついた一言

一番堪えたのは、依頼者からの「先生、ちゃんと動いてくれてますか?」の一言。いや、動いてるよ…。動いてるけど、書類が来ないんだよ…。そんな言葉を飲み込みながら、「できる限り早く進めてます」と返した自分。なんとも情けなかったです。

3ヶ月かかって見えたこと

こうして3ヶ月後、ようやく全員から書類が揃い、登記が完了しました。依頼者は喜んでくれました。でも、こちらは燃え尽きた感が強くて、正直「やっと終わった…」という疲労感のほうが大きかったです。

人は本当にバラバラな生き方をしている

この仕事をしていると、「家族」とひとくくりにできない現実を何度も見ます。兄弟でも、連絡先も知らないし、会っていない人も多い。それぞれの土地で、それぞれの暮らしをしていて、価値観もスピード感も違う。それをひとつの登記にまとめるのは、ほんとに大変なことなんです。

全国対応の手続きに必要な“覚悟”と“諦め”

今回のことで学んだのは、「全国に相続人がいる案件は時間がかかる」という覚悟と、「すぐには終わらない」という諦めも必要だということ。段取りを丁寧に、粘り強くやるしかない。そして何より、自分の気持ちを消耗しすぎない工夫も大切だと感じました。

同業者へのメッセージ:「早く終わる」は信じるな

最後に、これを読んでいる同業の先生方、あるいは司法書士を目指している方へ。相続人が全国に散らばっていると聞いたら、「時間かかるな」とまず思いましょう。そして、「早く終わりますよ」とは決して言わないでください。

最初のヒアリングで確認すべき3つのポイント

1つ目は、相続人全員の連絡先がわかっているか。2つ目は、相続人間の関係性。3つ目は、本人確認書類がすぐ手に入る状況か。この3つをしっかり押さえておけば、のちの苦労をだいぶ減らせます。

事務所のリソースをどう回すかがカギになる

事務員が一人だけの小規模事務所では、こういう長丁場の案件は本当に負担が大きいです。だからこそ、見通しと優先順位の管理が重要。同時進行の他の案件にどう影響するかも計算しながら、慎重に進めていくことをおすすめします。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。

未分類