気づけば“動けない自分”がそこにいた
気がつけば、目の前の仕事は山のようにあるのに、手が止まっている自分がいました。朝、事務所に着いてもやる気が出ない。メールを開いても返信が進まない。書類の山を見ても、どこから手をつければいいのか分からない。まるで時間だけが流れていて、自分だけが取り残されているような感覚。地方で一人事務所を切り盛りするプレッシャーと、誰にも言えない焦り。そんな「動けない日々」は、気づかぬうちに忍び寄っていました。
忙しいのに前に進んでいない感覚
予定表はびっしり埋まっているのに、終業後に感じるのは「今日も進まなかった」という無力感。業務をこなしているはずなのに、何かを積み上げた実感がない。日々の登記申請や相談対応に追われ、頭の中は常に“処理”に支配されている。以前は、どんなに疲れていても達成感があった。でも今は、その達成感さえも霧の中に消えてしまったような気がしています。
やることは山積み、でも手が止まる理由
おそらく、キャパオーバーというより「気持ちの摩耗」なのだと思います。毎日やるべきことを考えるだけで胃が痛くなる。やる前から失敗が怖くて動けなくなる。書類一枚の記載ミスで依頼者の信頼を損なう職業だからこそ、「慎重であること」が裏目に出ることもあるのです。ふと手が止まった瞬間、「このままじゃダメだ」と思いながら、また何もしないまま一日が終わる。そんな日々が続いていました。
「何をやっても足りない」と感じる日々
努力しているはずなのに、それが報われている実感がない。周囲の同業者が新しい取り組みやSNS発信をしているのを見るたび、「自分は遅れている」「何もできていない」と落ち込む。やればやるほど、なぜか満たされない。どこかで「司法書士はこうあるべき」という理想に、自分自身が苦しめられている気がします。
事務員に任せきれない、任せきれない自分
ありがたいことに、事務所には一人事務員がいます。でも、つい細かく口を出してしまう自分がいます。間違ってはいけない書類、期限を守らなければならない手続き。そのプレッシャーが強すぎて、任せるという判断ができなくなる。結果、業務を抱え込み、自分がさらに疲弊するという悪循環。信頼したいのに信頼しきれない、そのジレンマがいつも心のどこかにあります。
業務の重さと責任のバランスが崩れる瞬間
登記や相続、商業登記など、多岐にわたる業務を日々こなしていますが、どの案件にも共通するのは「ミスが許されない」という緊張感。常に正確性を求められ、目を血走らせて書類をチェックする日々。ひとつの誤記が、大きな損失や信頼の失墜につながる。やりがいはあるはずなのに、重圧ばかりが心に残る。ふと、何のためにこの仕事をしているのか分からなくなる瞬間もあります。
登記ミスへの恐怖と孤独
あるとき、不動産登記の記載を一行間違えてしまい、慌てて修正申請を出したことがありました。依頼者は穏やかに対応してくれましたが、自分の中では「終わった」と感じました。自責の念で眠れず、翌朝もどんよりした気持ちで事務所に向かった。誰にも相談できず、ただ一人でそのプレッシャーを抱え込む。それが司法書士という仕事の“孤独な一面”でもあります。
“できない自分”を認めるところから始めた
そんなある日、ふと「できないのはダメなことなのか?」と自分に問いかけました。完璧であろうとするから苦しくなる。自分はスーパー司法書士ではない。そう認めることで、心が少し軽くなったのです。「今の自分にはこれくらいしかできない」と言えるようになると、不思議と少しずつ動けるようになっていきました。
完璧を手放す勇気
依頼者の期待に応えたい気持ちはあります。でもそれが、「すべて一人で抱える」という方向に向いてしまっていたことに気づきました。完璧主義は、ミスを恐れるあまり動けなくなる原因にもなります。実際、「ここまでで良し」と区切りをつけた方が、意外と仕事が早く終わるし、依頼者との関係も良好に保てることが多かった。完璧より“継続”の方が大事だと、ようやく気づけました。
「がんばれない日」も司法書士にはある
朝から気力が湧かない日。電話を取るのさえ億劫な日。そんな日があってもいいんだと思えるようになるまで、ずいぶん時間がかかりました。でも今では、「今日は休もう」と決めた日の方が、結果的に良い仕事ができていたりする。不思議なものです。「がんばらない勇気」も、この仕事には必要だと思うようになりました。
小さな一歩を“今できること”として認める
大きな目標を立てても、疲れた心と身体では動けない。だからこそ、「今の自分にできる小さなこと」を積み重ねていく。僕の場合は、業務日報を丁寧につけることから始めました。それだけでも「今日はこれだけやった」と思える。たったそれだけのことで、日々の停滞感が少しだけ和らぎました。
業務日報を書く、それだけでも前進
一日の終わりに、今日対応した案件、気づいたこと、不安だったことを書き出す。それだけで「今日も仕事したな」と自分を肯定できるようになりました。以前はタスク管理アプリで管理していたけれど、紙に書く方が自分には合っていたようです。書き出すことで頭の中が整理され、翌日の不安も軽減されます。
雑務に救われる不思議な感覚
不思議なことに、郵便物の整理や書類ファイリングといった雑務をやっていると、気持ちが落ち着いてくることがあります。集中力のいらない作業が、心のノイズを取り除いてくれる。大きな仕事をする前の“助走”として、意外と効果的です。「何もしていない」ようで、ちゃんと動けている。それが今の自分にできることなんだと思えました。
「誰かの役に立っている」という実感が支えになる
どんなに疲れていても、依頼者の「ありがとう」の一言に救われる瞬間があります。誰かの人生の節目に関われるこの仕事には、たしかに重みがあります。そしてその重みが、自分を立ち上がらせてくれる力にもなります。
依頼者の言葉に背中を押された日
ある高齢の依頼者の相続手続きをお手伝いしたとき、「こんなに親身になってくれるなんて…」と涙を流してくれたことがありました。その瞬間、ああ、自分のやっていることは間違ってなかったんだと胸が熱くなりました。派手さはないけれど、確実に誰かの支えになっている。この仕事の意味を、改めて感じた瞬間でした。
「ありがとう」の重み
「ありがとう」は魔法の言葉です。何度聞いても、その一言で全てが報われた気持ちになります。きっと、司法書士という仕事は、感謝される機会が少ない職業かもしれません。だからこそ、たまに届く感謝の言葉は、何倍にも心に響く。重荷に感じていた業務が、その言葉ひとつで意味を持ちはじめるのです。
完了通知メールに込める思い
手続きを終えた後に送る完了通知のメール。これまでは事務的に済ませていましたが、最近は少しだけ一言添えるようにしています。「お疲れさまでした」「ご不明点があればお気軽に」——そんなささいな言葉でも、相手の反応が変わる。自分も温かい気持ちになれる。その積み重ねが、また明日への活力になっています。
未来の司法書士へ伝えたいこと
もし、今これを読んでいるあなたが、司法書士を目指していたり、同じように悩んでいる司法書士さんだったとしたら、ひとこと伝えたい。「無理して頑張らなくていい」。誰だって動けない日があるし、落ち込む日もある。それでも、「今の自分にできること」を見つけていけば、いつかまた歩き出せる日が来ると思っています。
スーパーマンじゃなくていい
なんでもできる司法書士にならなきゃ、と肩肘張っていた自分に、今ならこう言ってやれます。「普通でいいよ」って。ミスもある、落ち込む日もある、サボりたい日だってある。それでも、依頼者のために誠実であろうとする気持ちがあるなら、それで十分。自分にそう言い聞かせて、今日もまた机に向かっています。
「今の自分にできること」から目を逸らさない
何もできないと思ったときこそ、小さなことをひとつやってみる。電話一本かける、メールひとつ返す、書類を一枚整理する。それだけでも、自分は“司法書士として働いている”んだと感じられる。「今の自分にできること」に向き合うこと。それが、この仕事を続ける鍵なのだと、今は実感しています。