土曜日も仕事、それが当たり前になってしまった理由
「今日は土曜日だから少しゆっくりできるな」──そんな感覚、最後に味わったのはいつだっただろうか。地方で司法書士事務所を運営していると、土曜も平日と大して変わらない日常になる。特に相続関連の相談が増えてくると、土曜は“駆け込み相談”の受付窓口になってしまうのだ。気づけば「土曜だから休む」という選択肢は消え、「土曜も仕事です、はい」と無意識に答える自分がいる。
土曜に電話が鳴る恐怖、メールも止まらない
朝9時。せめて昼までは寝かせてくれ…と思っていた矢先、携帯が鳴る。相続人の一人が「今から書類を持っていきたい」と言ってきた。メールも「急ぎでお願いします」と矢のように飛んでくる。こうした連絡は大抵、平日にやるべきことを後回しにした結果だが、こちらがそれを指摘できる余裕などない。放っておくと後々ややこしくなるため、つい応じてしまう。そして今日も仕事モードに突入だ。
「平日で完結する仕事」なんて幻想
「役所が動いてる平日にすべての対応を済ませましょう」。確かに理屈としては正しい。でも現実はどうだ？依頼者の都合、書類の不備、思いがけないトラブル…あらゆるイレギュラーが、土曜の自分を働かせる方向に引っ張っていく。そもそも“平日で完結する”なんて発想自体が、都会の大きな事務所だけの話じゃないのかと感じる。
そもそも“休む”という選択肢がない
自営業である以上、土曜を休みにするのは「仕事を断る」という選択とほぼ同義になる。特に一人で回していると、「今日は対応できません」が次の依頼を失うことに直結するように感じてしまう。そうやって、気づかぬうちに“土曜も稼働”が常態化し、やがて「土曜くらいは休もう」という気力すら奪われていくのだ。
土曜出勤の実態：何をしているのか
「土曜はゆるっと出勤です」と言ってみたい。でも実際は、普通に働いている。電話対応、相続関係の聞き取り、書類のチェック、時には法務局のオンライン申請の準備まで…。静かなはずの土曜日が、気がつけばいつも通りの慌ただしさになっている。
登記の準備、書類の不備対応、相談の折衝
土曜日に集中するのは、平日中に終わらなかった作業のツケだ。依頼者から送られてきた戸籍や印鑑証明を確認して、不備があれば連絡。補完書類が必要ならその場で説明し、できれば面談まで持っていく。平日に「後でやろう」と思っていたことが、土曜にまとめて降ってくるという悪循環だ。
法務局は休みでも、こっちは動いてる
土曜は法務局が閉まっているため、申請はできない。だけど準備だけはやっておかないと、月曜に「出し忘れ」「書類不足」といった地獄を見る。その恐怖があるから、ついつい書類を見直してしまうし、業務フローの整備にも手を出してしまう。結果的に、土曜も一日仕事漬けだ。
相続関係の相談は土曜に集中する傾向
不思議なことに、相続関係の相談は土曜に集中しやすい。理由はシンプルで、依頼者たちが「土曜のほうが家族と予定を合わせやすい」からだ。しかも、他の士業が休んでいるからか、「司法書士ならやってるかも」という淡い期待を抱いて連絡してくる。土曜出勤が“当たり前”になる背景には、こうした依頼者の生活リズムも深く関わっている。
事務員は休み、自分は出勤…この矛盾
雇っている事務員はしっかり土日休み。これは彼女の働き方を尊重しているし、当然だと思っている。でも、ふと我に返ると「なんで自分だけこんなに働いてるんだろう」と虚しさがこみ上げてくる。働き方改革って誰のためのものなんだ？
「ブラック事務所じゃない」と自分に言い聞かせる
うちの事務所はブラックじゃない。そう信じたいし、そうであるようにしている。でも、自分がブラックな働き方をしていることに関しては、誰にも是正されない。言ってしまえば、経営者が一番“放置”されている。これは笑い話のようで、けっこう深刻な問題だと思う。
土曜も働くことの心理的なダメージ
カレンダーに赤丸がついている日は、精神的な救いのはずだ。でもその赤丸に背を向けて働き続けると、いつしか曜日感覚すらおかしくなってくる。自分が何のために働いているのか、ふと立ち止まっても答えが出てこない。
休めないことで思考もネガティブに
頭の中が常に「次の予定」「次の対応」で埋め尽くされると、余裕がなくなり、人にも自分にも厳しくなる。クレームが一つでも入ると、「もうダメかもしれない」と思ってしまうことすらある。休息は単なる身体の回復ではなく、思考の整理のためにも必要だと感じる。
「今日は何のために働いてるんだっけ」
土曜の夕方、ふとした瞬間に思う。「今日、自分は何を得たのか？何のために働いたのか？」──そして、答えが見つからないまま、また月曜が来る。こうした“報酬なき労働感覚”が続くと、自営業者といえども心が折れそうになる。
本当にそれって普通？まわりの司法書士の声
周囲の司法書士と話してみると、「やっぱり土曜も仕事してるよ」という声が多い一方で、「土曜は絶対休む」と決めている人もいる。結局、自分がどう線を引くかにかかっているのだろう。
「俺も土曜どころか日曜も仕事」派のリアル
同業の先輩の中には「土曜どころか、日曜も電話が来るよ」と笑っている人もいた。でもその笑顔の裏には、諦めや慣れがあるようにも見えた。働き続けるのが当たり前になってしまうと、もう何も感じなくなるのかもしれない。
「ちゃんと休む主義」な人も確かにいる
一方で、「土日は家族の時間って決めてる」と断言する人もいる。そういう人の方が、逆に信頼を得ていたりするのが皮肉だ。むやみに稼働日数を増やすより、「休む力」を持っている人のほうが、実は仕事の質も高かったりする。
なぜこんな働き方がまかり通ってしまうのか
土曜労働が当たり前になる理由は、「誰も止めてくれない」からだ。特に一人事務所では、自分で決め、自分で走り、自分で壊れていく。この悪循環は、制度の問題ではなく、構造の問題だ。
小規模事務所ゆえの限界と責任
従業員が少ない分、すべての判断と責任を自分が負う。誰かに仕事を任せる余裕もなければ、任せられる相手もいない。だから、「代わりがいない」という状況が、土曜出勤を常態化させる原因にもなっている。
依頼者ファーストの歪んだ理想
「依頼者のために動く」。それ自体は間違っていない。でも、その理想が自分の体力や心をすり減らしてしまっているなら、少し立ち止まって考えた方がいいのかもしれない。優しさと犠牲は違う。
結論：土曜日も仕事です、はい──でも…
今の働き方が間違っているとは思わない。でも、このまま何年も続ける自信は正直ない。土曜も働く。それが今の現実。でも、その現実の中で、少しでも心を軽くする工夫はできるはずだ。
少しでも「楽になる選択肢」を探していこう
週に一度だけでも“完全オフの日”を作る。思い切って土曜の午前は予定を入れないようにする。それだけで心に余白が生まれる。働き方はすぐに変えられないけれど、少しずつでも“余白のある時間”を取り戻していきたい。
