売上が立たない日の重さ――その不安は突然やってくる
司法書士として独立してから十数年が経つが、いまだに「売上ゼロの日」の怖さには慣れない。特に月初め、帳簿に何の動きもないまっさらな状態を見ると、胸のあたりが重たくなる。事務員に「今月もよろしくね」と言いつつも、自分の中では「本当によろしくできるのか?」という声が渦巻いている。
月初に売上ゼロ…「このまま何も来なかったらどうしよう」
月初の数字がゼロというのは、ただの「まだ動きがない」だけのはずなのに、頭の中では「このまま誰からも依頼が来なかったらどうしよう」「家賃どうしよう」「スタッフの給料どうしよう」と妄想が加速する。これが一晩寝れば忘れるものならまだしも、朝から晩までその不安と一緒に過ごす羽目になる。
地方だからこその波――依頼はあるけど季節モノ
都市部と違い、地方は人の動きが季節に左右されやすい。特に冬場は不動産の売買が減るから、登記も減る。農繁期に入ると相続の相談も減る。地元のペースに仕事が振り回されるのは、もう慣れたけれど、それでも「来ない時は本当に来ない」。それが何度経験しても、怖い。
眠れぬ夜を生む「見えない明日」
売上が安定しないというのは、「未来が見えない」ということと同義だ。今日頑張ったから明日結果が出る、というわけではない。むしろ、どんなに頑張っても誰にも評価されず、電話もメールも鳴らない日がある。そういう日が続くと、夜眠れなくなる。
数字がすべて…という現実に押しつぶされそうになる
どれだけ丁寧に対応しても、ありがとうと言われても、通帳に数字が並ばなければ事務所は続けられない。だから「数字がすべて」という言葉が、否応なく現実味を帯びてくる。でもその数字に追い詰められて、思考停止してしまう自分もいて、それがまた自己嫌悪を呼ぶ。
「やるべきことはやってるのに」の空回り
HPの更新もした。SNSにも投稿した。地域の会合にも顔を出した。でも、結果が出ない。やるべきことをやっているつもりなのに、それがどこにも届いていないような虚しさ。「俺、間違ってるのかな」と考え出すと、何もかも手につかなくなる。
一人事務所ゆえのジリジリとした孤独
一人でやっている事務所は、自由である一方で孤独だ。何かに迷っても、誰かと相談できるわけじゃない。事務員さんには気を遣わせたくないからこそ、本音もなかなか言えない。淡々と日々をこなす中で、じわじわと心が削られていく感覚がある。
事務員はいても、最後に責任を取るのは自分
ミスが起きたら謝るのは自分、資金繰りが苦しくなれば自分の財布から持ち出すしかない。スタッフには「大丈夫」と笑って見せるけれど、実際は胃が痛い日もある。孤独は、見えない重りのように日常に潜んでいる。
愚痴る相手もいないから、疲れが心に溜まる
飲みに行く友達も、同業者の知り合いも、だんだん減ってきた。同じ地域にいる司法書士とは、ライバルでもあるから、余計なことは話せない。「愚痴らない=強さ」みたいな空気があるけど、それってただの我慢比べなんじゃないかと思う。
売上が安定しないのは、自分のせいなのか?
「売上がない=自分がダメ」と思ってしまうことがある。でも本当にそうなのか。やることはやってるし、対応も誠実にしているはず。でも数字がついてこないと、自分の存在意義まで疑ってしまうような感覚に襲われる。
比較してしまう同業者のSNS投稿
「今日も3件登記完了!」そんな投稿を見かけると、焦りがこみ上げる。自分は何もできていないように思えてしまう。それが例え単なる自慢でなくても、つい比べてしまうのが人間だ。
「今日も登記完了○件!」という報告が刺さる
たった一文でも、心にグサッと刺さる。自分の方が努力してるのに…なんて思ったところで、余計に惨めになるだけ。それでも、見てしまう。見なきゃいいのに、確認してしまう。
自分だけ取り残されている感覚
周囲は前に進んでいるのに、自分だけ止まっている気がしてくる。この感覚が数日続くと、「もう全部終わりなんじゃないか」とさえ思えてくる。売上ゼロは、ただの数字の問題ではなく、自信を根こそぎ奪う。
実は誰もが抱える「波」――でも言えない空気
本当はみんな波がある。ずっと忙しい人なんていないはず。でも「忙しいアピール」はよく見るけど、「暇でつらい」という話はなかなか聞かない。だからこそ、自分だけがおかしいような錯覚に陥る。
売上の不安を口にすると“経営者失格”みたいな風潮
「不安がある」と言うと、「努力不足だ」「戦略が甘い」と言われそうで怖い。だから誰も口にしない。でも本当は、不安を抱えながらやってる人の方が多いと思う。言わないだけで。
でも本音では、みんな似たようなもんじゃないか?
先輩司法書士と飲みに行ったとき、「いやー、今月やばいよ」とポロッと言われて救われた。みんな、同じように波の中で浮き沈みしてる。隠してるだけで、自分と変わらない。
言葉にした瞬間にラクになることもある
「暇だ」「売上がない」と声に出すことで、少し気持ちが軽くなることもある。だからこのコラムも、誰かの「つらい」に寄り添える存在になれたらと思う。
未来を考える気力も削られる日々
不安が長引くと、「どうすればよくなるか」を考える気力さえ奪われる。気がつくと、ただ目の前の依頼だけをこなす日々になっていて、数年後の自分の姿が全然見えない。
目の前の依頼に追われ、戦略を立てる余裕がない
少ない依頼でも、個別対応に時間がかかる。トラブルにならないように、丁寧に丁寧に。そうしてるうちに一日が終わる。未来のための行動が後回しになる。この繰り返しがまた不安を呼ぶ。
「マーケティング」なんて言葉が遠すぎる
「SNSで集客」「YouTubeで解説」…そんな話を聞くたびに、時間も気力も足りない現実に打ちのめされる。自分のやり方が古いのか、それとも他がすごすぎるのか。よくわからなくなる。
それでも「辞めない」理由
ここまでやってこれたのは、ただ一つ。「辞めなかった」からだ。そして、それは「何か」があるからできている。たまにある、その「何か」がすべてを支えている。
依頼人の一言が、全部を救うときがある
「先生にお願いしてよかった」この一言が、どんな高額報酬よりも心にしみる。どれだけ売上が不安定でも、この一言をもらえた日は、すべてが報われた気になる。たまにしか来ない。でもそれがあるから続けられる。
不安があっても、自分で選んだ道だから
誰かに命令されてやってるわけじゃない。自分で選んだ道。だからこそ、不満も不安も、全部引き受ける覚悟がある。辞めたくなる日もある。でも、続けると決めたのも自分だ。