怒鳴られたその瞬間、心が折れかけた
地方で司法書士をしていると、日々の業務の中でいろんな人と接する機会がある。そんな中には、当然ながら感情をぶつけてくる方もいるわけで……。この前のことだ。朝一番の電話で、いきなり怒鳴られた。声が大きすぎて、隣にいた事務員がビクッとしたほど。あの瞬間、自分の中で何かがガラガラと崩れた音がした。
電話の第一声で察する「これはヤバい」
着信音が鳴り、受話器を取った瞬間、向こうのトーンで嫌な予感がした。「お前さぁ、どうなってんのこれ？」開口一番、それだ。こういうとき、内容よりも口調でメンタルがやられる。何が起きたか確認する前に、頭の中は真っ白になる。よく言う「怒鳴る人は、自分の不安の裏返し」というやつかもしれないが、こちらも人間だ。傷つかないわけがない。
内容うんぬんより口調でダメージを受ける
話の内容を聞くと、確かにこちらのミスではなかった。登記の進捗が遅れている件だったが、実際には相手側の必要書類がまだ届いていない状態。それを丁寧に説明しても「そんなの関係ない」の一点張り。「こっちは時間がないんだ」と言われても、こちらにも限界がある。理屈が通じない相手との会話は、ただただ消耗戦だ。
理不尽さに慣れているつもりでも慣れない
司法書士になって十数年。多少の怒鳴り声には慣れてきたつもりだった。でも、この仕事をしていて「完全に慣れる」なんてことはないんだと思い知らされた。理不尽に怒られると、やっぱり心はざらつく。特に、自分なりに一生懸命やっている最中だと、それを否定されるようで堪える。心のどこかに「自分が悪いのかもしれない」という罪悪感すら芽生えてしまう。
心の切り替えができないまま次の仕事へ
電話を切ったあとも、しばらく心の中がざわざわしていた。落ち込んでいる場合じゃないと分かっていても、なかなか切り替えができない。頭の中では次の案件のことを考えようとしているのに、さっきの怒鳴り声がリフレインする。机に向かっても集中できず、手が止まる。
表情だけ切り替えて机に戻る
事務員の前では、何事もなかったように振る舞う。弱ってる姿を見せたくないし、気を遣わせたくない。でも、そんなふうに気を張っていること自体が、また心に負荷をかけてくる。とにかく、淡々と仕事を再開しようとしたが、指が思うように動かない。パソコンの画面を見ていても、さっきの電話の内容が頭を支配してしまう。
事務員さんには気づかれたくないけど無理
無理して元気なふりをしても、事務員のAさんにはバレていた。「さっき、すごい声でしたね……大丈夫ですか？」とそっと声をかけられたとき、泣きそうになった。でも、そこは「まあまあ、いつものことだから」と笑って返す。自分の感情に蓋をするのも、この仕事の一部なのかもしれない。
ふとした一言に救われた瞬間
その5分後、今度は来所された別の依頼人と話をしていた。何気ない相続登記の相談だったが、話が終わったあと、その方がふと一言、「本当に助かりました」と言ってくれた。その瞬間、さっきまでの怒りや落ち込みがスーッと溶けていくのを感じた。
「本当に助かりました」の破壊力
たった一言だった。でも、その言葉には嘘がなく、心からの感謝がこもっていた。人は感情に振り回されやすい。ついさっきまで怒鳴られていたことを考えると、なんでこんなにも心が軽くなるのか自分でも驚いた。「ありがとう」って、すごい力を持っているんだなと改めて感じた。
こんなにも違うのか、たった数分で
怒鳴られたときは、「もうやってられない」と思っていた。けれど、感謝の言葉一つで「また頑張ろう」と思える。こんなにも気持ちが変わるなんて、人間って単純だと思う。でも、それが救いでもある。感情が動くからこそ、この仕事を続けられている気がする。
なぜ、怒鳴る人と感謝する人がこんなに違うのか
理屈では分かっている。人それぞれ事情があって、立場も性格も違う。でも、それにしても、同じような案件でもこうも反応が違うのかと、不思議になることがある。怒鳴る人には怒鳴る理由があるのかもしれないが、それをぶつけられるこちらとしてはやっぱりつらい。
相手の事情があるのは理解してるつもりだけど
「こっちも大変なんだ」という気持ちで怒ってくる人もいる。でも、それはこっちだって同じだ。書類が揃わなければ進められないし、登記の処理には法的な制限もある。説明しても理解されず、「とにかく急げ」の一点張り。無力感と理不尽さに押しつぶされそうになる。
余裕のない人ほど怒鳴りがち？
逆に、感謝してくれる人は不思議と余裕を持っている印象がある。話をじっくり聞いてくれて、こちらの説明にも耳を傾けてくれる。きっと人間的な器の問題なのだろう。社会的な立場より、日々の心の在り方が表れるのが、司法書士の現場だと感じる。
実は「ありがとう」が言える人こそ余裕がある
感謝の言葉は、相手に与えるだけじゃなく、自分の内面の余裕の証でもあるのだろう。余裕がなければ、人に優しくなんてできない。「ありがとう」が言える人の言葉には、こちらも自然と頭が下がる。たった一言に救われる瞬間は、そういう人からしか生まれない。
それでも私は司法書士をやっている
正直、何度も「もう辞めようかな」と思ったことがある。でも、それでも続けているのは、やっぱり人とのやりとりに価値を感じているからだ。しんどいことのほうが多いかもしれないけど、たまにある「ありがとう」が、すべてを帳消しにしてくれる。
嫌なことの方が目立つ日もある
今日も電話で怒られた。昨日も書類の不備で小言を言われた。そんな日々だ。でも、その中にほんの少しの「助かりました」「ありがとう」がある。嫌なことが9割だとしても、残りの1割が思い出に残るのは不思議だ。それがこの仕事の続けられる理由なのかもしれない。
それでも、たまにある「ありがとう」で帳消しになる
仕事としては報酬が発生するし、責任も伴う。でもそれ以上に、「人の役に立てた」と感じられる瞬間がある。それが、司法書士という職業の底力だと思っている。誰かの不安を取り除く手助けができたなら、それだけで十分報われた気がする。
愚痴を吐きつつ、明日もまた電話を取る
今日も愚痴は多かった。でも、たった一人でも「ありがとう」を言ってくれる人がいる限り、この仕事はやめられない。感情の起伏は激しいし、ストレスも大きいけれど、それでも、司法書士として人と関わることに意味を見いだしている。
今日の一言が、どこかの誰かの救いになりますように
このコラムを読んでくれた誰かが、「ああ、同じように感じてる人がいるんだ」と少しでも楽になれば嬉しい。司法書士という職業は孤独になりがちだ。でも、こうして思いを綴ることで、どこかで誰かとつながっていけたら、それもまた意味のあることだと思っている。
