急かされても、できないもんはできない――心と体の限界に気づいてほしい

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急かされても、できないもんはできない――心と体の限界に気づいてほしい

「早くして」の圧に押しつぶされそうになる日々

司法書士という仕事は、スピード勝負のように見られがちだ。でも実際は、ひとつの案件に多くの確認と調整が必要で、机の上だけで終わるものなんて一つもない。それなのに、「まだですか?」「急ぎなんです」と言われることが、週に何度もある。人に言われて焦るたび、胃がギュッと掴まれるような思いになる。それでも私は、丁寧に、確実に仕事をこなすしかないのだ。

依頼人の一言が胸に突き刺さる瞬間

ある日、登記の打ち合わせの終わりに、依頼人から何気なく言われた。「これ、できれば急ぎでお願いしたいんです。他のところはもう少し早いって聞いたもので」。悪意のない言葉なのは分かっている。けれど、こちらの都合や工程は一切無視され、ただ結果だけを求められているように感じて、心がズシンと沈んだ。

「他の事務所はもっと早いらしいですよ?」の破壊力

この言葉は、私にとって一種のトラウマだ。比較されること自体は避けられない。でも、その裏には「あなたは遅い」と言われている気がして、自分の存在が否定されたように感じることがある。実際、過去にその言葉をきっかけに自信をなくし、一晩中寝られなかったこともある。

どこまで説明しても理解されないジレンマ

「なぜ時間がかかるのか」を丁寧に説明しても、「でも早くして」と返される。法務局の混雑、必要な書類の確認、相続人との連絡――全部話しても、相手の頭の中は“いつ終わるか”しか残っていない。話すこと自体が徒労に思えてくる。

スピードと正確さはトレードオフ

仕事が早いことが評価される時代。でも司法書士の業務は、“正確さ”が命だ。スピードを優先すれば、どこかでリスクを生む。しかもその責任はすべてこちらに降りかかる。割に合わないと感じることが何度あったか。

登記という仕事の“不可視の工程”

「書類作って出すだけでしょ?」と思われがちだが、実際は関係者への確認、法務局との調整、場合によっては役所や税務署との連携もある。目に見えない作業が山のようにあるのに、その努力はほとんど評価されない。

「急ぎ」に応えすぎて起こるミスと後悔

実際、かつて「急ぎだから」と依頼人に言われ、睡眠時間を削って対応した結果、確認漏れを起こして補正通知をもらったことがある。依頼人には謝ったが、その後も関係はぎくしゃくした。無理をしても誰も幸せにならない。それを学んだ。

事務所運営の現実と限界

地方の司法書士事務所にとって、「人手が足りない」は当たり前の日常だ。事務員は一人。自分は外回りも書類も相談も全部担当。そんな状況で「早くして」と言われても、もはや魔法使いじゃないと対応できない。

人手不足と過重労働の板挟み

もう少しスタッフを雇えればいいのだけど、予算の問題がある。報酬水準は変わらず、物価と人件費だけが上がる。疲れていても仕事は待ってくれない。事務員と二人で回す毎日は、正直ギリギリだ。

事務員は一人。自分も人間。無限じゃない

「一人いれば回るでしょ?」と言われることもあるが、そんなに簡単なものじゃない。事務員が休んだ日は、朝から晩まで電話、来客、書類、役所…全部私ひとり。体力と気力の限界を感じながら、なんとか踏ん張っている。

補助者がいない=全部自分で背負う構造

補助者がいる事務所とは違い、うちのような小規模事務所ではすべての責任が自分にのしかかる。誰にも頼れず、誰にも甘えられない。だからこそ「急いで」と言われるのが一番つらいのだ。

「時間を買う」という発想が浸透しない

「お金払ってるんだから早くして」的な感覚は、まだまだ根強い。でも、実際の報酬額を見てほしい。これで“緊急対応料”込み? と思ってしまうときがある。時間を買うには、それ相応の対価が必要だという感覚が社会に根づいていない。

報酬が安すぎる構造と司法書士の自尊心

昔はもっと報酬も高く、尊敬されていた。でも今やネットで比較され、価格競争に巻き込まれ…。そんな中でも“誇り”を持ちたい気持ちはあるけれど、現実はなかなか厳しい。自尊心を保つだけでも一苦労だ。

業界全体で“急ぎ依頼”にどう対応するか

個人事務所だけでなく、業界全体で「急ぎ=追加報酬」「無理はしない」という文化を作っていかないと、司法書士全体がすり減っていく。今は“やさしさ”でやってるけど、いつかそれは限界を迎える。

無理なものは無理、と言える勇気

「できません」と言うのは、勇気がいる。でも、言わなければこちらが壊れてしまう。無理を受け入れても、結果的に依頼人にも迷惑がかかることになる。だからこそ、伝えるべき言葉はある。

「できない」と言ったときの怖さ

「できません」と伝えた瞬間、相手の顔色が変わるのを何度も見てきた。その度に「他の事務所に行かれるかも…」という不安がよぎる。でも、それでも言わなければならないときがあるのだ。

依頼を断る=信頼を失う?という不安

過去に一度、スケジュール的に無理な案件をお断りしたことがある。相手は表面上は納得してくれたけれど、その後は連絡が途絶えた。「無理です」と言ったことが、信頼を損なったのかもしれないと悩んだ。

でも、「無理して対応」は未来の自分を壊す

無理してなんとかしようとすると、たいていどこかに歪みが出る。体調を崩したり、他の依頼が後回しになったり…。結局、長い目で見ると誰も得をしない。だから私は、無理なものは無理と伝える覚悟を持ちたい。

他の司法書士へのメッセージ

同業者の皆さんに伝えたいのは、「無理しなくていい」ということ。仕事の質を守るためには、まず自分を守ることが必要だ。完璧じゃなくても、誠実であれば、きっと伝わる。

無理を通せば歪みが生まれる

「なんとかする」が続くと、いずれどこかで破綻する。そのときに誰が責任を取るのか。結局は自分なのだ。だから無理を通さないためのラインを、今のうちに自分の中で決めておくことが大切だ。

「遅くても丁寧」を共有できる文化を

私たち司法書士がもっと発信していくべきなのは、「早いよりも丁寧であることの価値」。少し時間がかかっても、ミスがなく、信頼できる仕事をする。そのスタンスが当然とされるような文化を、一緒につくっていきたい。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。

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