星ひとつに震えた夜:Googleマップの口コミが怖すぎた話
ある日、事務所のGoogleマップページに「星1」のレビューがついた。その瞬間、心臓がギュッと縮んだような感覚がした。内容はたった一行、「対応が冷たかった」。たったそれだけ。だけどその短い言葉が、自分の人間性や仕事そのものを否定されたような気がして、頭の中が真っ白になった。地方で細々と続けている司法書士事務所にとって、ネット上の評価は死活問題だ。誤解でも、嘘でも、ネットの「星」は容赦がない。その夜は、眠れなかった。
口コミは「評価」か、それとも「刃物」か
たった一行が精神を削る
「冷たかった」の一言に、何度も心を刺された。仕事は真面目に、丁寧にやってきたつもりだ。だけど、きっとその時は余裕がなかったんだろう。忙しい時期で、次の予約も詰まっていた。事務員も不在の日だった。言葉が足りなかったのかもしれない。だけど、あの一言で自分のすべてが否定されたような感覚になった。こういうのって、引きずる。
誰が書いたか分からない恐怖
顔も名前も思い出せない。「もしかしてあの人かな」と思い当たる節もあるけれど、確証はない。匿名の口コミは、こちらには一切反論の機会もなく、一方的に突き刺してくる。名前も顔も出して仕事をしているこっちは、なすすべもない。裁判でも本人確認が前提なのに、ネットの世界ではそれがない。このギャップが、地味にきつい。
なぜこんなに気にしてしまうのか
地方の小さな事務所という不安定さ
東京の大手なら一件の口コミなど気にしないかもしれない。でもうちは地方の一人事務所だ。口コミの数は多くないし、ネット経由で相談が来ることもある。だからこそ、たった一件の低評価が目立つし、影響も大きい。売上にも直結する。大げさではなく、明日の仕事があるかどうかがかかっていると感じてしまうのだ。
口コミ一つで依頼が消える現実
実際、問い合わせフォームから「口コミが気になったので今回は他を当たります」というメッセージが来たことがある。そこまでダイレクトな反応があると、「ああ、自分はネットに生殺与奪を握られている」と痛感する。リアルな口コミって、想像以上に信用される。良い意味でも悪い意味でも。
実際にあった「星1レビュー」事件
理不尽な内容ほど後を引く
昔、「電話に出なかった」とだけ書かれた星1レビューがついたこともあった。だけどその日は定休日だったし、事務所の電話は留守電にしてあった。折り返しもしていないのに、なぜ?という疑問しかなかった。理不尽すぎて怒りを通り越して、ただただ悲しくなった。説明もできない、訂正もされない。ただ残る「星1」の痕跡だけ。
仕事のやり方を疑う自分
こういった口コミが続くと、「自分の接し方に何か問題があるのか?」と自問自答するようになる。気遣いが足りない?説明不足?でも、そう思って改善をしても、今度は「くどかった」と書かれる。どっちだよ…と机に突っ伏したこともある。結局、全員に満足してもらうのは無理なんだろう。そうは分かっていても、気にしてしまうのが人間だ。
反論しても泥沼? 無力感との戦い
返信機能の限界と自己嫌悪
Googleには返信機能があるけれど、何を書いても「言い訳」と取られるのが怖い。「感じ方には個人差がありますが〜」なんて書いたら、逆に炎上しそうだと思ってしまう。実際、他の士業の人が反論して余計に印象が悪くなっていたのを見たことがある。結局、黙っているしかない。でも、それがまた無力感につながる。
他の人の目が気になりすぎる
評価が下がったページを見るとき、他人の視線を意識してしまう。「この事務所、星1あるけど大丈夫?」と見られている気がして、何をするにも自信が持てなくなる。地元は狭い。口コミを書いた人が知り合いの知り合いかもしれない、なんて考えだすと、どんどん精神的に追い詰められていく。
少しだけ救われたエピソード
本当に助けたい人の声
そんなある日、「とても丁寧に対応してくれた」と星5で書いてくれた方がいた。名前も出さずに、感謝の言葉を残してくれていた。ああ、見てくれている人はいるんだと、涙が出た。自分のやっていることに意味があると、少しだけ思えた瞬間だった。たった一行でも、人は救われる。
見えない応援団の存在
あのレビューを書いた人とは、もう二度と会わないかもしれない。でも、心の中では何度も感謝している。「また頑張ってみよう」と思わせてくれた、見えない応援団のような存在だ。そういう声が、星1のレビューのダメージを、ほんの少しだけ和らげてくれる。
司法書士の仕事と評価文化
「信頼」は数字で測れない
本来、司法書士の仕事は地味だ。評価されるべき場面も多くはない。でも、誰かの人生の一部に関わる仕事だ。信頼は、ゆっくりと築くものだと思っていた。だけど、現代はそうじゃない。ネットの評価、レビューの数字が先に来てしまう。それが歯がゆいし、ちょっと悲しい。
でも数字が支配する世界
どれだけ誠実にやっても、数字で切り捨てられることがある。星4.2と星3.8では、選ばれ方が全く違う。就職でも転職でも、店選びでも、全部数字がものを言う。司法書士の世界も、その流れに逆らえなくなってきている。仕方ないと分かっていても、やっぱりやるせない。
これから口コミとどう向き合うか
無視できないけど、振り回されない
口コミを完全に無視することはできない。でも、振り回され続けるのも違うと思う。星1がついたら、深呼吸して、原因を考え、改善点があれば見直す。それだけでいい。完璧は目指さない。人間だから、ミスもある。それを認めつつ、ちゃんとやっていくしかない。
良い口コミを増やす工夫も必要?
最近では、良い口コミをもらえるように少し工夫をしている。直接お願いはしないけど、丁寧なやり取りを心がけ、終わり際に「もしご満足いただけたら、Googleに書いていただけると嬉しいです」と伝えるようにしている。言うのはちょっと勇気がいるけれど、少しずつ効果は出ている気がする。