海外にいる相続人――たった一人の不在で、登記が半年も止まった話

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海外にいる相続人――たった一人の不在で、登記が半年も止まった話

  1. たった一人、でも大きな壁――登記が進まない現実
    1. 手続き自体はシンプルなはずだった
    2. 「海外在住」というだけでここまで変わるのか
  2. 連絡が取れない、書類が戻らない…苛立ちと不安の毎日
    1. メールも国際郵便も“遅い”という現実
    2. 依頼者からのプレッシャーが心に刺さる
      1. 「司法書士さん、まだですか?」という無言の圧力
      2. 自分の責任ではないと分かっていても辛い
  3. なぜこんなに時間がかかるのか?――手続きの流れを整理する
    1. 遺産分割協議書と印鑑証明の壁
    2. 署名押印のための現地対応とタイムラグ
      1. 日本の常識が通じない海外事情
        1. 現地の公証制度の違いと翻訳・認証の罠
  4. 精神的に一番きつかったのは“待つだけ”の時間
    1. 自分ではどうにもならないという無力感
    2. モチベーションの維持がとにかく難しい
  5. ようやく終わった…でも残ったのは達成感より疲労感
    1. 半年という時間の重さ
    2. 「これ、また起こるのでは…」という予感
  6. 対策はあるのか?――今後に備える知恵と工夫
    1. 最初のヒアリングで“海外在住”を見逃さない
    2. 最悪のケースを先に説明しておくべきだった
      1. 依頼者の期待値コントロールが鍵
  7. それでも司法書士は続けるのか?
    1. この仕事が好きなわけじゃない、でもやめられない理由
    2. いつか誰かの役に立っていたと信じたい

たった一人、でも大きな壁――登記が進まない現実

相続人が複数いる案件で、問題なく進むと思っていた手続きが、たった一人の「海外在住」というだけで完全に止まってしまったことがある。しかも半年間。自分の段取りが悪いのか、郵便事情なのか、それとも法律のせいなのか…。原因を突き詰めたところで現実は変わらない。依頼者の期待と焦りがこちらにも波のように押し寄せてきて、気づけば「進んでいないこと」そのものがストレスになっていた。

手続き自体はシンプルなはずだった

もともとこの案件は、遺産分割協議もスムーズに済みそうな内容で、被相続人も相続人も少なく、資料も揃っていた。唯一の難点が「相続人の一人が海外在住」というだけだった。正直、その時は「時間はかかるかもしれないけど、手続き自体はそんなに難しくないだろう」と思っていた。でも、それが甘かった。

「海外在住」というだけでここまで変わるのか

一人がアメリカ在住だったのだが、本人確認書類のやりとり、署名押印、印鑑証明の代替措置など、日本では考えられないくらいの「壁」が次々と立ちはだかった。日本の制度では想定されていない部分も多く、こちらも一つひとつ調べながら進めるしかなかった。その度に数日、あるいは一週間単位で時間が溶けていく。

連絡が取れない、書類が戻らない…苛立ちと不安の毎日

登記手続きで一番つらいのは「こちらではどうしようもないことを、ただ待たされる」時間かもしれない。連絡はしている。催促もしている。でも返事がない。依頼者には状況を説明しても、「なぜそんなに時間がかかるのか」と半信半疑の声が返ってくる。その板挟み状態が、精神的にとてもつらかった。

メールも国際郵便も“遅い”という現実

たとえば、日本から送った協議書が先方に届くまで1週間。そこから署名され、また戻ってくるまでさらに1〜2週間。それだけで1ヶ月が経過する。途中で誤字が見つかれば、また修正して再送。しかも、向こうの感覚ではそれが「普通」なのだ。こちらは胃がキリキリしているのに、相手は「まあ来週返すよ」くらいの温度感。文化の違いとはいえ、しんどかった。

依頼者からのプレッシャーが心に刺さる

依頼者には「海外の方がいるので時間がかかります」と何度も伝えた。だが、時間が経てば経つほど、その言葉は言い訳に聞こえてしまうらしい。

「司法書士さん、まだですか?」という無言の圧力

電話では言わなくても、言外にそう言われているような気がして、毎回心がざわついた。「こちらでもどうしようもないことなんです」と説明しても、納得してもらえたかどうか、毎回不安だった。返事の声のトーンが少し冷たくなるだけで、「怒ってるのかな…」と感じてしまう。

自分の責任ではないと分かっていても辛い

正直な話、自分の責任ではない。法制度上、やることはやっているし、最大限動いている。それでも「完了しない」という結果だけが突きつけられる。司法書士は「完了してナンボ」の仕事だ。だから余計に、完了できないことに対する無力感が大きくなる。

なぜこんなに時間がかかるのか?――手続きの流れを整理する

この体験を通して、なぜここまで長引くのかを冷静に見直す必要があった。ただの愚痴で終わらせたくない気持ちも、少しはあった。

遺産分割協議書と印鑑証明の壁

国内の相続人であれば印鑑証明を添付すればよいが、海外在住者の場合はサイン証明(在外公館での認証)や現地公証人による証明など、煩雑な手続きが必要になる。それらは郵送でやりとりされ、さらに日本語訳や認証の確認も加わるため、単純に「一筆書いてもらう」わけにはいかない。

署名押印のための現地対応とタイムラグ

先方が現地の日本領事館に出向く時間が取れなければ、そこでさらに数日、あるいは数週間遅れる。こちらが催促しても、相手が多忙であればどうしようもない。郵送の遅れ、現地の休日、翻訳の手配…。あらゆる要因が積み重なって、半年という時間になった。

日本の常識が通じない海外事情

「書類にハンコを押す」「役所に行く」この日本では当たり前の感覚が、海外ではまったく異なる。メールやPDFで済まされる文化圏の人にとって、原本主義の日本の制度は“面倒すぎる”らしい。それをこちらが必死に説明しても、「なんでそんなことを?」という反応をされて、会話すら成り立たないことがあった。

現地の公証制度の違いと翻訳・認証の罠

たとえば、アメリカの公証制度は州ごとに異なる。どこで認証してもいいのか、どう書類を整えればいいのか、日本の感覚では判断が難しい。さらに、日本語の協議書を理解できないため、先方が自前で翻訳を依頼したが、その翻訳内容がズレていたりすると、また最初からやり直し。何重にも手間がかかる。

精神的に一番きつかったのは“待つだけ”の時間

最終的には、手続きが複雑というより、「ただ待つ」ことが何よりもつらかった。こちらは動けないのに、依頼者は「進んでない」と思っている。そのギャップが心に重くのしかかった。

自分ではどうにもならないという無力感

毎朝メールを確認し、ポストを覗き、「今日こそ書類が届いているかも」と期待する。でも何も来ていない。その繰り返しが続くと、何もやっていないような気持ちになってくる。他の案件も抱えているが、この一件の存在がずっと心に引っかかっていた。

モチベーションの維持がとにかく難しい

正直、こんな状態が続くと気力も削がれる。書類が届くまでは動けない。でも依頼者は進捗を知りたがる。その板挟みで、だんだんと自分の中の「やる気スイッチ」も鈍くなっていった。

ようやく終わった…でも残ったのは達成感より疲労感

最終的に書類がすべて揃い、無事に登記が完了した日、思わず「終わった…」と一言つぶやいた。けれど、達成感よりも圧倒的な疲労が勝っていた。

半年という時間の重さ

半年と聞くと大したことないように思えるかもしれないが、仕事の中で「一件が半年動かない」というのは精神的に相当くる。しかも原因が外的要因ならなおさらだ。ずっと心に重しを載せたまま、他の業務をこなすのは本当にきつかった。

「これ、また起こるのでは…」という予感

今回は偶然かもしれない。でも、今後また同じようなケースが来る可能性は十分にある。そのことを考えると、「またか…」という気持ちが先に立ってしまう。対応策を考えておかないと、次はもっとこたえるかもしれない。

対策はあるのか?――今後に備える知恵と工夫

愚痴っていても仕方ないので、今回の経験から学んだことを次に活かすための備えを考えた。

最初のヒアリングで“海外在住”を見逃さない

まず、依頼時点で相続人が海外在住かどうかを明確に確認し、特別なフローが必要だと判断したら、その場で説明すること。できれば、本人と直接Zoomなどで連絡をとり、意思確認や動いてくれるタイミングを確認しておくのが理想だ。

最悪のケースを先に説明しておくべきだった

「もしかすると半年くらいかかるかもしれません」と、最初に伝えておくだけで、依頼者の心構えは全く違っただろうと思う。

依頼者の期待値コントロールが鍵

司法書士の役割は「期待通りに終わらせる」こと以上に、「状況に応じた説明と納得」を届けることだと感じた。期待が高すぎると、ちょっとした遅れが大きな不満に変わってしまう。そのバランスを取るのが、この仕事の難しさだ。

それでも司法書士は続けるのか?

つらかった、しんどかった、何度もやめたくなった。でもそれでも、結局また依頼を受けている自分がいる。

この仕事が好きなわけじゃない、でもやめられない理由

好きかどうかは正直わからない。ただ、感謝の言葉や、完了した時の依頼者のほっとした顔を見ると、「やっててよかったな」と思える瞬間がある。たぶんその繰り返しで、なんとか続けているのだと思う。

いつか誰かの役に立っていたと信じたい

報われないことも多い。でも、「この人はあなたに頼んでよかった」と言ってくれたことを、何度も思い返しては自分を励ましている。自分の仕事が、誰かの人生の一部に関われたとしたら、それだけでも意味がある――そう信じていたい。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。

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