「何から始めればいいのか分からない」──相続の現場でよく聞く言葉
「何から手をつければいいのか分からないんです…」これは、僕の事務所に相談に来る方がよく口にする言葉です。相続は突然やってきます。身近な人の死という大きな出来事に直面して、感情の整理がつかないまま、事務的な手続きが次々に押し寄せてくる。そんな状況で、何をどう進めればいいか分からないのは当然のことです。
身内が亡くなってから最初の1週間、誰もが混乱している
僕自身も父を亡くした時、司法書士であるにもかかわらず、感情が先に立ってしまい、思考停止していたのを覚えています。通夜・葬儀の準備、弔問客の対応、役所手続きと、心が休まる暇がない。「何か忘れてる気がするけど、何を忘れてるのかも分からない」という不安が常につきまとうんです。
まず“誰かに聞く”ことの難しさ
「司法書士に聞けばいいのか、税理士か、弁護士か…」その区別が一般の方に分かるはずもありません。しかも誰に相談しても、最初に聞いた人が「それは他の専門家に」とたらい回しにされるケースも少なくない。そんな経験があると、「誰に相談すればいいか分からない」どころか、「もう誰にも相談したくない」という気持ちになってしまうのも無理はないと思います。
最初に確認すべきは「本当に相続が必要か」
相続手続きが必要かどうかは、実は“やる前”に見極める必要があります。感情的に「故人のことをきちんと整理しないと」と思いがちですが、手続きを始めたがために面倒なトラブルに巻き込まれることもあります。特に、借金を背負ってしまうリスクがある場合は要注意です。
相続放棄、限定承認、単純承認の選択肢
「プラスの財産しかないだろう」と思い込んでいたら、後から借金が出てきた…という話は珍しくありません。相続には、3つの選択肢があります。すべてを引き継ぐ「単純承認」、プラスとマイナスを差し引いて引き継ぐ「限定承認」、そしてすべてを放棄する「相続放棄」。この判断を誤ると、一生の悔いになります。
遺言書の有無が判断を左右する
遺言書があるかどうかで、相続の流れは大きく変わります。家庭裁判所の検認が必要な自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言など形式もさまざま。しかも「見つからない」というケースも多く、その場合は遺産分割協議が必要になることも。最初に遺言の有無を確認することは極めて重要です。
相続財産が“プラス”とは限らない現実
不動産があるからプラス、というわけでもありません。地方では売れない土地、維持費だけがかかる空き家が“負動産”になることも多い。僕の地元でも「残してくれた家が足かせになった」という声をよく聞きます。現金だけでなく、不動産や借金まで含めた全体像を見ないと判断を誤ります。
戸籍を集める──ここで9割がつまずく
実際に手続きを進めるには、相続人を確定させるための戸籍集めが必要です。が、これが本当に大変。特に本籍地が遠方だったり、転籍を繰り返していると、10通以上の戸籍を取り寄せる必要が出てきます。役所に電話しても「それは別の市役所へ」と言われ、気づけば1ヶ月以上かかることもあります。
「本籍地って何ですか?」という質問から始まる
戸籍を取るときに「本籍地が分からない」という方は非常に多いです。運転免許証に書いてある住所とは違うので、「え、本籍って引っ越すたびに変わるの?」と聞かれることもしばしば。実は本籍は自分で自由に変えられるのですが、それが相続手続きの混乱を呼ぶ一因になっています。
役所のたらい回し、郵送対応のストレス
役所ごとに書式が違い、返信用封筒や手数料もバラバラ。しかも、郵送でやり取りするので1通ずつ時間がかかるんです。あるお客さんは「3ヶ所の役所から戸籍が届くまでに2ヶ月かかった」と言っていました。急いでいる人ほど、この部分でイライラが積もります。
まとめ:相続で最初にすべきたったひとつのこと
結局、相続で最初にやるべきことは「一人で抱え込まないこと」だと思います。誰に相談すればいいか分からなくても、まず「自分が何に困っているのか」を整理してみる。それを司法書士なり、身近な専門家にぶつけてみることで、少しずつ道が見えてきます。僕の事務所に来たお客さんが、少しホッとした顔で帰っていく瞬間、それだけでこの仕事をしていてよかったなと思えます。