「あんたはどっちの味方？」と詰められる日々
司法書士という職業は、基本的には「中立」であるべき立場のはずなんです。相続手続きを進めるにあたって、私たちは依頼人の利益を守りつつも、法律に則って公平に動くことが求められます。でも、現場はそんなに理屈どおりにはいかないんですよ。特に相続人同士の関係がギクシャクしているときなんかは最悪です。誰かの肩を持っているように見られるだけで、たちまち「こっち側じゃないのか」と詰め寄られる。実際、先日は葬儀が終わった数日後に面談に来られた依頼人の妹さんが、私の書いたメモを盗み見て「兄に味方してるんですね」と泣き出してしまったんですから。こっちは書類の内容を確認してただけなのに。これじゃ、心が持ちません。
相続手続きは「中立」なのに、そう見てもらえない
相続の現場に立ち会うと、「中立である」という原則がまるで通用しないことに嫌でも気づかされます。依頼人がどちらか一方の立場である限り、書類を交わすたびに「味方扱い」されるリスクがつきまとうんです。たとえば、ある兄弟間の相続では、遺産の配分について揉めていたのですが、私が先に兄の印鑑をもらっただけで、妹さんが激怒。「順番に偏りがある」と抗議されました。いや、それは単に先に予定が取れたからなんですよ…。それでも一度“疑われる側”に入ってしまうと、何をしても信用されない。まるで地雷原を歩いているような気分です。
法律と感情の間に立たされる
「法律ではこうです」と伝えるたびに、「じゃあ気持ちは無視なんですか？」と返されることがあります。たとえば、法定相続分の説明をした場面で「母の介護は私が全部やっていたのに」と、泣きながら訴えられたこともありました。気持ちはよくわかる。でも、それを遺産分割に反映させるには、きちんと合意書を取り交わさないといけない。こういう感情と制度の狭間に立たされることが、本当に苦しいんです。何を言っても誰かを傷つけてしまう感覚がつきまといます。
親族会議に巻き込まれる司法書士
「ちょっと同席してくれませんか」と言われて行ってみると、ただの親族会議だった…なんてこともあります。特に地方だと、親族の家に集まって「話をまとめたい」となりがちで、なぜか私がその場に呼ばれることに。何のために呼ばれたのかと思えば、「先生が決めてください」と丸投げされる。いや、私は裁判官でもカウンセラーでもありません。それでも空気を壊さないように言葉を選びながら、「合意が必要です」と繰り返すのは、地味に胃にきます。
“こっそり味方して”という圧力
「この話、兄には内緒でお願いできますか？」そんなセリフを何度聞いたことか。相続の場面では、人はどうしても自分に有利に動いてほしいと思うもの。書類を作成する過程で、依頼人から“味方でいてほしい”という無言のプレッシャーがかかってくることが多々あります。中には、現金をチラつかせて「他言無用で進めてくれ」と言われたこともありました。もちろん断りますが、そんな場面に出くわすたびに、この仕事のしんどさを痛感します。
依頼人の希望と現実のギャップ
「うちの親族はまともだから揉めないと思います」って、最初にそう言う方ほど、だいたい揉めます。希望と現実のギャップが激しいと、司法書士に対する期待も膨らんでしまい、「先生が何とかしてくれる」という誤解につながるのです。でも、こちらは調停役でもなければ和解を導く力もない。できるのは、ルールを伝えて、その枠内で書類を整えることだけ。ところが、依頼人が勝手に“期待”してくると、そのズレがのちの不満になって返ってくる。やりきれません。
受任者でありながら傍観者でいられない苦しさ
理想論では、司法書士は傍観者であるべきかもしれません。でも現実は、当事者たちの板挟みになることも多い。たとえば、相手方が書類にサインしないことで話が進まない場合、「先生から強く言ってくれませんか？」と頼まれることがあります。いや、私にはそんな権限ありません。そう言っても、「冷たい」と言われてしまう。じゃあ間に立って何か言えば、今度はもう一方から「そっちの味方か」と言われる。結果、どっちからも嫌われて、胃薬が手放せない毎日です。
司法書士は相談役？調停人？それともサンドバッグ？
司法書士の本来の仕事は、法的な手続きを円滑に進めること。でも、実際には相談役や調停人、時には感情のはけ口になることもあります。相続に関するトラブルが激化すると、依頼人たちは“味方”を探し始め、最終的にその矛先がこちらに向いてくる。誰かのストレスの捌け口になってしまうと、次第に自分自身のメンタルも削られていきます。「話を聞いてもらえて助かりました」と言ってくれる方もいますが、その裏で無言の怒りをぶつけてくる人もいて、正直、やりがいとしんどさは紙一重です。
本来の役割と実際のギャップ
登記や書類の確認、必要な届け出など、司法書士の業務は本来きわめて事務的なもののはず。でも、実際の現場では“家族の事情”に巻き込まれてしまい、ただの書類屋では済まされないケースが多いんです。あるときなど、「姉の発言を録音しておいたので聞いてください」と音声ファイルを渡されました。そこまでされても、私にできるのは“書類を整えること”だけだと何度も説明するしかない。無力感に襲われながら、「じゃあ誰がこの人の話を聞くんだろう」と思うと、複雑な気持ちになります。
書類作成だけじゃ済まされない
実際の相続案件では、書類を作る前段階で、すでにドロドロの感情戦が始まっていることも珍しくありません。たとえば、相続人の一人が「絶対にハンコを押さない」と言い出した場合、その説得までを“なぜか司法書士が担う”という空気になってしまうんです。もちろんそれは職務外。でも、「それも含めてお願いしたい」と頼まれると、断るのも難しい。結果的に時間も精神もすり減らされ、「こんなはずじゃなかった」と思う日々が続きます。
感情のはけ口にされる覚悟
「聞いてくださいよ、あの人本当にひどいんです！」と怒鳴りながら来所される方もいらっしゃいます。こちらとしては冷静に話を聞こうとしても、次第に“第三者”ではいられなくなってしまう。感情がぶつけられると、少しずつこちらのメンタルも削られていく。まるでサンドバッグのように一方的にパンチを受ける日もある。そんな時は、「今日は一日誰とも喋りたくないな」と、ため息をつきながら事務所のカーテンを閉めるのが習慣になっています。
