“簡単な話なんだけど”で始まる地獄の30分会議

“簡単な話なんだけど”で始まる地獄の30分会議

「簡単な話なんだけど」に潜む罠

「簡単な話なんだけどさ…」と切り出された瞬間、ああ、今日はもう予定通りに進まないなと覚悟します。なぜかこの言葉のあとには、長くてややこしくて感情の絡んだ話が続くことが多いのです。しかもその話は、なぜかこちらに全部丸投げされる前提で進んでいく。実務経験のある方なら、何度もこのパターンにやられてきたことでしょう。私も例外ではなく、毎回うっかり「どうぞ」と言ってしまって後悔するのです。

最初に言っておくが、簡単な話なんて一つもない

「簡単」なんて言葉を使っている時点で、たいていは簡単ではありません。そもそも相手が簡単だと思っていることと、実際に法的手続きに落とし込めるかどうかは別問題。たとえば「家の名義をちょっと変えたいだけ」と言われたとき、その背景には相続登記の未了、共有者の存在、法定相続人の行方不明…といった問題が隠れていることも多い。聞きながら内心「またか」と思っても、顔には出せません。

「ちょっとだけ相談が…」は、たいてい重い

個人的な体験ですが、過去に「すぐ終わるから!」と言われて始まった相談が、最終的に家庭裁判所での調停にまで発展したことがあります。その場では軽く話していたのに、蓋を開けてみると相続人が10人以上。しかも音信不通の兄弟や行方不明の従兄弟まで関係していて、まさに“地獄の案件”。結局、半年以上かかりました。そういう案件に限って、依頼者は「こんなに大事になるとは思ってなかった」と言うんですよね。

話が長くなる理由は、整理されていないから

なぜ「簡単な話」なのに30分以上もかかるのか? その理由の多くは、相談者の話が整理されていないことにあります。話したいことが山ほどあるのはわかりますが、情報がバラバラだとこちらが整理していくしかなくなる。事務所の時間は限られているのに、その場でパズルのように組み立てていかなければならないのは、正直つらい作業です。

依頼者の頭の中がごちゃごちゃのまま来る

「とにかく誰かに話したかった」という気持ちで来られる方がいます。悪気はないのでしょうが、話の順番がめちゃくちゃで、重要なことほど後回し。なぜ最初に「もう10年前に亡くなった父名義のままです」と言わなかったのか…。話を聞き終わった後で「えっ、そこが一番大事なポイントだったの?」ということが少なくありません。

事実と感情と願望が混ざっている

たとえば「兄が勝手に実家を使っていてずるい」という話をされても、それが不法占拠なのか、遺産分割協議未了の状態なのか、実態がわからない。そこに「私は何ももらってないんです!」という感情や、「だから実家を取り戻したい」という願望が混ざると、話がどんどん複雑になります。こちらとしては、まず法的に何が起きているのかを掘り出さないといけないわけです。

結論がないから、こちらで構造化しなければいけない

「で、今日は何をしたいんですか?」と聞き返すと、答えが返ってこないことも。話を聞いた後でようやく「名義変更をお願いしたいです」と言われたりしますが、もっと早く言ってくれれば助かるのにと思ってしまいます。こちらで質問を重ねながら事実を整理し、手続きの流れを描き直すのは、相当な頭の体力を使います。

“とりあえず全部話す”の精神で情報過多になる

「何から話したらいいかわからないんですが…」と前置きして延々と続く話。たとえば、親戚関係のことから、関係のないご近所トラブル、犬の話まで出てくることもあります。確かに人柄はよくわかりますが、そこから必要な事実をピックアップするのは一苦労。時間をかければかけるほど「今日は何をする日だったか?」とこちらもわからなくなってきます。

時間泥棒される側の本音

「ちょっとだけ相談いいですか?」という気軽な声かけで、こちらのスケジュールはすべて吹き飛びます。そのくせ、相手はまったく時間を気にしていない。次の予定が詰まっていても、こちらが時計をチラチラ見るわけにもいかず、ただただ内心で叫びながら話を聞いています。

タイマーをつけたいが、それすらできない空気感

個人的には「相談は30分以内でお願いします」と張り紙したいくらいです。でも、実際にそんなことをしたら“冷たい人”扱いされてしまうのが田舎のつらいところ。地元密着の商売って、親切心とサービス精神が試されますよね。本当は時間を測って進めたい。でもそれができないジレンマがあります。

他の予定が押しても謝られない理不尽

相談者が帰ったあと、「ああ、今日中に役所行けなくなった…」という日もあります。でも本人は「すみません、長くなっちゃって」すら言わない。なんとなく「話を聞いてもらって当たり前」みたいな空気を感じることもあります。こちらとしては一人で回してる事務所なので、その30分は本当に貴重なんですけどね。

結局「簡単な話」では終わらない実務の現実

話を聞くだけで終わるならまだいい。でも、そこからが本番です。書類の確認、戸籍の収集、法務局とのやりとり…。相談内容によっては、関係者への連絡や調整も必要になります。「簡単な話」は、たいてい「簡単に終わらない話」への入り口なのです。

相談が終わったあとが本当のスタート

「今日は話だけです」と言っていたのに、帰り際に「じゃあこれお願いします」と言われて、手続きスタート。あるあるですね。話を聞きながら、既に頭の中で必要書類をリストアップし、スケジュールを逆算して…帰られてからが本当の地獄。誰か共感してくれ…と思う瞬間です。

裏取り、書類確認、関係者調整…全部こちらの仕事

「親戚とは連絡とれないので、そこは先生にお願いできますか?」というセリフ。いや、それ、こちらの仕事じゃないから!と思いつつ、結局動かざるを得ない。書類に不備があれば補正、役所に行けば待たされ、関係者との電話は折り返し地獄。これで報酬が…と思うと、愚痴のひとつも出たくなります。

“聞いただけ”で終わる相談者の気軽さに愚痴りたくなる

相談だけで終わる人も多いです。「また来ます」「検討します」と言って、音沙汰なし。それなのにこちらはすでにかなりの時間と労力を割いている。この「空振り感」、何度経験しても慣れません。優しさでやってるけど、やっぱり限界はあります。

司法書士としての割り切りと疲労感

こんな日々の積み重ねに、ふと疲れを感じることがあります。「誰のためにやってるんだろう?」と思う夜も。でも、それでも続けてしまうのがこの仕事の不思議なところ。誠実さと現実の間で、揺れながら働いています。

「聞き役」に徹することの消耗

どれだけ話を聞いても、感謝されるとは限らない。「先生に話せてよかったです」と言われるだけで報われる日もあれば、「ふーん、じゃあ自分でやってみます」と言われて疲れが倍増する日もあります。聞き役って、実はかなりの精神力が必要です。

優しさと職務の境界線が曖昧になる

つい頼まれると断れない。困ってそうだと手を差し伸べてしまう。それが私の性格なんでしょう。でもそれが業務の効率を下げ、売上にも響いているのは事実。「人情」と「商売」のバランスに、いつも悩まされます。

対策:話を“簡単に”終わらせるための術

では、どうすればこの「簡単な話地獄」から抜け出せるのか?最近、少しずつ自分なりの工夫を試しています。完全な解決策ではないにせよ、少しは負担を減らせるかもしれません。

事前ヒアリングシートで話を整理させる

最近導入したのが「簡易相談シート」。相談者に来所前に書いてもらうようにしたところ、かなりスムーズになりました。本人も「何が問題か」を自分で整理できるようになり、話がだいぶコンパクトになった印象です。効果は感じています。

「結論からお願いします」と言える雰囲気づくり

最初の挨拶で「お時間限られてますので、結論からお願いしますね」と軽く伝えるだけで、相手の話し方が変わります。こちらのペースを作ることって大事ですね。言い方次第で印象も悪くならないので、おすすめです。

愚痴を共有することもまたプロのサバイバル

最後に。こういう愚痴を誰にも言えず溜め込んでしまうと、本当にしんどくなります。だから私は、たまに同業の先生と電話で「いや〜また来ましたよ、“簡単な話”ってやつが」と話すことで気を紛らわせています。共感は救いです。

同業者との「あるある話」は救いになる

たまに司法書士の集まりに顔を出してみると、似たような話が山ほど出てきます。「ああ、みんな同じように悩んでるんだ」と思えるだけで、不思議と気が楽になるものです。肩肘張らずに愚痴れる場所、大事ですね。

ひとりで抱え込まないメンタル維持術

孤独な仕事だからこそ、意識して誰かと話すようにしています。たとえ事務員さんと世間話でもいい。言葉にすることで、自分の中の疲れやイライラを外に出すことができます。愚痴も、仕事の一部。そう思えるようになったのは、歳を重ねたからかもしれません。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。

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