朝の段取りは完璧だった、はずなのに
その日の朝は、正直いつもより余裕があった。補正書類もしっかり確認済み、印鑑もカバンに入れたし、スーツもアイロンばっちり。今日は珍しくスムーズに出られるなと思っていた。事務員さんに「今日は補正だけだから早めに戻るかも」なんて軽口まで叩いて家を出たのに、まさかその口が災いするとは。すべては、玄関の鍵をかけた直後、ポケットに違和感がなかったことに始まる。
出発前の“いつものチェック”はどこへ
毎朝のルーチンがある。カバンの中身を確認し、ポケットの財布とスマホをチェックしてから玄関を出る。それなのに、その日に限って、なぜか確認をしなかった。いや、正確には“確認した気になっていた”のだと思う。朝の余裕が逆に油断を招いた。普段より5分早く出られたことが、まさかこんなトラップになるとは。
財布がない。脳が固まる午前8時15分
駅に向かう途中のコンビニで缶コーヒーでも買おうとポケットを探った瞬間、何も入っていない感触。あれ?と思ってもう一度、ジャケットの内ポケット、カバンのポケット、スーツの尻ポケット、全部探しても、ない。まるでコントのようにその場でくるくる回りながら探してしまった。冷や汗が背中を伝い始めた午前8時15分。
なぜこういう日に限って予定が詰まっているのか
財布がない、それだけでもパニックなのに、その日は補正書類を法務局に出しに行く大事な日。午前中のうちに片付けて、午後は預金の確認とお客様との打ち合わせを入れていた。こんな日に限って予定がぎっしり詰まっているのがまたつらい。思わず空を見上げて「今日はやめにしませんか?」と呟いてしまった。
補正書類の提出期限は本日中
補正の期限が今日までというのがまたプレッシャー。万が一間に合わなかったら、依頼者にも迷惑がかかる。言い訳もできない。書類は完璧に揃っているのに、財布一つで台無しになりかねないこの状況、誰が想像するだろうか。しかも、印紙を買わなければならなかったことを、そのときになって思い出す始末。
ついでに寄ろうと思っていた金融機関の予定もパー
補正書類を出したあと、銀行にも立ち寄る予定だった。先方の手続きに必要な確認があり、本人確認書類を持参する必要があったのだ。当然、財布がないということは免許証もない。ああ、今日1日が崩れ落ちていく音が聞こえた気がした。これで午後の予定も再調整が必要だ。
こうなると、選択肢が妙に限られてくる
財布がないと気づいた時点で、取れる選択肢は限られている。家に戻るか、事務員さんに助けを求めるか、もしくは誰かに立て替えてもらうか。けれど、どれもすぐには実行できない状況にあった。まるで罠にかかった気分だ。普段は「まあなんとかなるだろ」と思っているのに、今日はそう簡単にはいかなかった。
取りに戻る?事務員さんに頼む?
家に戻れば往復で40分以上かかる。午前中の法務局の受付時間を考えるとギリギリだ。一方で、事務員さんに財布を届けてもらうというのも気が引ける。彼女にもやるべき業務があるし、何より自分のミスで振り回すのが申し訳ない。結局、自転車を飛ばして一度戻る決断をした。
現金がない司法書士の無力感
普段、キャッシュレスに頼り切っていたツケがここに来た。印紙を買うにも、身分証を出すにも、財布がないと何もできない。まさか司法書士を10年以上やっていて、こんな基本的なことで足をすくわれるとは。こういうときの無力感は本当に堪える。
そもそも、なぜこうなったのか
人間は失敗したときに限って、「なぜあの時」と後悔するものだ。今回のケースも、「なんで財布を確認しなかったんだろう」と自問し続けた。でも、その原因は突き詰めれば、“疲れ”と“油断”。それに尽きる気がする。
「疲れ」と「油断」は仲良し
連日立て込んでいた業務で、寝不足気味だった。業務内容はルーチン化され、手が勝手に動くような状態。そこに油断が加わると、確認作業が“やったつもり”で終わる。完全に思考停止していた自分に腹が立つが、これもまた現実。
ルーティン作業が心を麻痺させる
補正書類の提出なんて、司法書士にとっては日常茶飯事。それゆえに気が緩む。慣れた業務ほど危ないとはよく言うが、身をもって痛感した。手順が体に染みついているはずの作業ほど、見直しが必要だ。
たかが財布、されど財布
財布なんて、ただの物だ。でも、それがないと何も始まらない。法務局で印紙も買えないし、身分証も出せない。誰もが持っていて当たり前の“道具”に、これほど依存していたとは。完全に盲点だった。
同じ失敗を繰り返さないために
このまま「まあ、いい勉強になった」で終わらせてはダメだ。忙しい日々の中でも、再発防止の仕組みは考えなければならない。今回は自分の財布だったが、もしこれが登記済証だったら…と思うとゾッとする。
自分ルールの再構築
まず、カバンの中身チェックを“前夜”に済ませるようにした。朝はどうしてもバタつくからだ。さらに、財布と印鑑を同じケースに入れる習慣をつけた。ルールは誰かに決めてもらうものじゃない、自分で決めて守るしかない。
書類と財布はセットで準備
補正書類を準備したら、その横に財布と印鑑を置く。この「セット準備」をルール化した。目で見て確認しないと、記憶は信用ならない。夜にやることで、翌朝の余裕も確保できるようになった。
朝に頼らず、前夜に終わらせる
朝に余裕があっても、それは事故の元だと今回で学んだ。むしろ前夜に段取りを終わらせて、朝は“動かない”くらいがちょうどいい。睡眠時間も確保できるし、何より精神的に安定する。
「まあそういう日もあるよ」と思える余裕
失敗に対して必要以上に自分を責めると、心がすり減る。反省は大切だが、「人間だもの」と思える余裕も必要。次に活かせばいいのだ。あの日の自分にそう声をかけてあげたい。
自分にちょっとだけ優しくなるススメ
忙しさに追われて、つい自分を責めすぎてしまう。でも、毎日頑張っているのだから、たまには失敗してもいい。ちょっとしたドジも、あとで笑い話にできれば、それでいいじゃないか。