親戚が突然怒鳴り合い…その場が凍った“あの瞬間”

親戚が突然怒鳴り合い…その場が凍った“あの瞬間”

あの瞬間、空気が一変した:親戚同士の怒鳴り合い現場に立ち会って

司法書士として働いていると、予期せぬ場面に出くわすことがある。中でも最も冷や汗をかいたのは、相続登記のための説明に伺った場で、親戚同士が突然怒鳴り合いになった瞬間だった。こちらは冷静に書類の内容を伝えていたつもりでも、積もり積もった感情が一気に噴き出したのだ。空気が一変し、その場にいた全員が硬直。私はただ立ち尽くすしかなかった。

ことの始まりは「確認のつもり」だった

事の発端は、「この土地の相続に関する説明を一度全員で聞きたい」という依頼からだった。集まったのは被相続人の兄弟姉妹たち。最初は穏やかだったが、こちらが相続人の確認事項を読み上げていたとき、「あんたには関係ないやろ」と一言。そこから火花が散り始めた。私はまだ書類の半分も読み終えていなかった。

怒声が飛んだ瞬間の沈黙と、その場の空気

「あのとき何をしてた!」「ずっと音信不通だったくせに!」そんな怒号が飛び交い始め、私は口を挟むこともできなかった。事務所では一人で静かに仕事をすることが多いが、あの現場はまるで修羅場。今にも誰かが手を出すのではないかと身構えたほどだった。冷や汗が背中をつたって流れるのを、久しぶりに感じた。

司法書士として、ただ立ち尽くすしかなかった

法的な立場では中立を保たなければならない。だが、その「中立」が、こういう場では非常に無力に思える。「少し休憩にしましょう」と声をかけるのがやっとで、誰一人としてその提案に耳を傾けなかった。結局、説明会は途中で打ち切り。後日、別々に面談することになったが、心身ともに疲弊する出来事だった。

なぜこうなったのか?背景にある「説明のズレ」

このような場面を思い返すと、問題の根本には「情報と感情のズレ」があることが多い。こちらが正確に伝えているつもりでも、受け手の理解度や背景事情によっては全く異なる意味合いに受け取られる。特に相続の場面では、過去の感情のわだかまりが情報の伝達を大きく歪めることになる。

専門用語の理解不足が招く誤解

「代襲相続」や「共有持分」などの言葉に、表面的には頷いていても理解されていないことがある。すると後になって、「そんな話は聞いていない」「騙された」と感情的に反発されるのだ。説明責任を果たすことと、理解してもらうことは、似ているようで全く違う。司法書士にとって、このギャップは永遠の課題かもしれない。

「遺産分割協議」と「登記」のズレ

特に多いのが、「遺産分割協議書さえあればすぐ登記できる」と誤解されているケース。実際には印鑑証明や戸籍など、登記に必要な書類は多岐に渡る。さらに、その内容に納得していない相続人が一人でもいれば、協議自体が成立しない。ここでも、「一枚の紙」がすべてを解決するという幻想が、怒りの火種になることが多い。

親族間での事前情報の共有不足

こちらが伺うまでに、親族同士で一切話をしていないケースも多い。「司法書士の先生から説明を受けてから考える」といったパターンだ。だが、それでは初耳の情報ばかりとなり、混乱と不信感が一気に噴き出す。事前にある程度の話し合いをしておくことの大切さを、もっと強調すべきだったと後悔する。

現場で冷や汗をかく瞬間は、一度ではない

あの日の怒鳴り合いだけが特別ではない。司法書士の仕事には、表には出ないが感情のぶつかり合いに直面する場面が意外と多い。特に地方では、親戚同士の距離が近く、その分こじれると厄介だ。

感情が先に立つ場面での「無力感」

一度、成年後見人の説明で集まってもらったときも、後見人の選定を巡って、「信用できる」「いやあいつはダメだ」と言い争いに。こちらは制度を説明しに来ただけなのに、気づけば責任の所在を押し付けられるような空気に包まれた。自分の立場を見失いそうになることも、正直ある。

中立であることが、時に足かせになる

「先生、どっちが正しいと思います?」と聞かれるたび、胃が痛くなる。立場を示せば誰かの信頼を失い、黙っていれば「はっきり言ってくれない」と不満を抱かれる。中立のまま嵐をやり過ごすには、相当な胆力が要る。

こうした現場を減らすためにできること

完全には避けられないとはいえ、準備次第で緊張の爆発を防げる可能性はある。私が試行錯誤の末にたどり着いたいくつかの方法をご紹介したい。

「説明会方式」の導入で場を整える

最近では、一度に説明するのではなく、事前に文書を配布し、個別に説明してから合同で話し合うスタイルに切り替えた。これにより、怒鳴り合いの頻度はかなり減ったように感じる。特に感情が高ぶりやすい方がいる場合は、事前面談が効果的だ。

個別面談と集団協議を分ける判断基準

判断基準は「前回までに大きな反対意見が出たかどうか」と「誰が主導権を握っているか」。温度差がある場合は、個別面談で地雷を先に把握しておくことで、合同説明会での爆発を未然に防げる。

あらかじめ「揉めそうな人物」を把握しておく

家族構成や関係性を聞く際、「誰が中心になってますか?」とやんわり探る。経験上、発言力が強い人と、静かに怒っている人の両方に気を配るべきだ。怒鳴り声は突然ではなく、静かな違和感の蓄積から生まれる。

それでも、どうしても起きるトラブルの現実

いくら準備しても、起こるときは起こる。それが人間の感情だ。こちらも人間だから、やっぱり心が疲れる。

司法書士の「精神的体力」も試される

この仕事は頭だけでなく、気持ちの持ちようも大事だと痛感する。帰り道でため息をつきながら、「なんでこんなに疲れるんだろう」と思うことも多い。資格を取るときには想像していなかった「感情労働」がここにはある。

事務員さんにどこまで任せるか、悩みどころ

現場対応をすべて自分が担うと体力的に持たない。だが事務員さんに同行してもらうにも限界がある。「下手なことを言わせたらどうしよう」と心配する気持ちもある。信頼して任せる難しさを痛感する日々だ。

振り返って思う、あの現場の教訓

怒鳴り合いになったあの日のことは、今でも鮮明に覚えている。あの経験が無駄だったとは思わない。むしろ、今後の自分の仕事の進め方に大きな影響を与えた。

冷や汗をかく経験も、次に活かすためにある

怖い思いもしたし、気も滅入った。でもあのときの「何もできなかった悔しさ」が、今の事前準備の徹底につながっている。無力だった自分を、恥ずかしいとは思わない。むしろ原点だ。

「事前に怒鳴り合う空気」を感じ取る力

今では、ほんの些細な表情や声色から「この人は今日、何か言いたいことがあるな」と感じ取れるようになった(気がするだけかもしれないけど)。五感を研ぎ澄ます力も、司法書士には必要なのだ。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。

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