誰にも相談できない日々──司法書士という“ひとり職”の現実

誰にも相談できない日々──司法書士という“ひとり職”の現実

ひとりで背負う重み──司法書士の仕事はなぜ孤独なのか

司法書士という仕事に対して、「安定している」「資格があれば食いっぱぐれない」といったポジティブなイメージを持たれることが多い。しかし、実際にこの仕事をしてみると、予想以上に「孤独」と向き合わされる場面が多い。特に地方で個人事務所を営んでいると、日々の業務はほぼ一人で完結してしまい、誰とも会話せずに終わる日もあるほどだ。

「相談相手がいない」日常の正体

トラブルが起きても、判断を下すのは自分ひとり。ミスが許されない世界において、何か不安や迷いがあっても、それを口にする相手がいない。「これでいいんだろうか?」と頭を抱えても、事務所の中には聞いてくれる人がいないし、外部に相談するにしても専門的すぎて通じない。まるで、山の中で独り言をつぶやいているような感覚になる。

悩みを共有できる人が事務所にいない

うちの事務所には事務員さんが一人いるが、当然ながら法的な判断を一緒に下すわけではない。気軽に「どう思う?」と聞ける関係ではあるけれど、専門的な内容になるとお手上げだ。お互いに気を使いながら話すので、深い悩みまでは踏み込めない。結局、「一人で抱える」構図は変わらない。

話したところで理解されにくい専門性

たとえば、相続登記で相続人が10人以上いて、一人が行方不明になっているケース。法定相続情報一覧図をどう構成するか悩んだとしても、そもそも「一覧図って何?」というところから説明が必要になる。世間話の延長で話せるような内容ではないので、自然と口を閉ざすようになる。

地方ならではの閉塞感

都会と違って、地方は人口も司法書士の数も少ない。そのため、同業者同士が近すぎてかえって距離を取ってしまうことが多い。「あそこの先生、あんなこと相談してたよ」なんて話がまわるのが怖くて、気軽に悩みを打ち明けられない。

同業者同士も「距離を置く文化」

飲み会や会合では顔を合わせるが、どこか壁がある。同業者だからこそ、ライバル視されたり、逆に気を使われすぎてしまったりする。結局、仕事の本音を語れる相手にはなりにくい。表面上は和やかでも、心の奥にある「孤独感」は消えない。

都会と違い、横のつながりが希薄

東京などでは若手司法書士の会や勉強会が活発に行われているらしい。しかし、地方ではそうした動きは少なく、気づけば数年誰とも深く交流していない、なんてこともザラだ。勉強する場も、仲間も、自分で探さなければならない。

事務員さんがいても、孤独は埋まらない

「一人じゃないでしょ、事務員さんがいるんだし」と言われることがある。でも、それで孤独が解消されるわけではない。むしろ、気を使う分だけ、さらに孤独を感じることもある。

役割が違えば、話せないことも多い

事務員さんはあくまで事務処理のプロであり、法律判断に関しては関与しないのが一般的だ。「この案件、ちょっとやばいかも…」といった話は、心配をかけたくなくて、かえって話せない。業務が違えば、抱えている不安も共有しにくい。

気を使う立場だからこそ弱音が吐けない

雇っている立場だと、やはり「しっかりしなきゃ」という意識が働く。「ボスが不安そうだったら、私まで不安になる」と思わせてしまいそうで、つい平気なフリをしてしまう。結果、自分の中だけで感情が渦巻いてしまう。

どんな時に孤独を強く感じるか

普段は何とも思っていなくても、ふとした瞬間に「自分って独りだな」と感じる。特にトラブルが起きたときや、予期せぬ展開に巻き込まれたときは、強烈に孤独を実感する。

登記で想定外のトラブルが起きたとき

オンライン申請が通らない、書類の記載ミスがあった、法務局から差し戻し。そういうときに「誰かに聞きたい」と思っても、誰もいない。Googleで検索しても状況が特殊すぎてヒットしない。結局、自分の勘と経験で判断するしかない。

クレームやクレーマーにひとりで向き合うとき

「こんなに時間かかるとは聞いてない!」と言われても、説明しても納得してくれない人は一定数いる。電話口で怒鳴られたあと、無言の事務所に一人で戻ってくるあの時間。しんどいというより、虚しくなる。

行政や金融機関と「折り合わない」とき

書式の解釈が食い違ったり、対応が一方的だったり。そんなときに抗議の電話を入れても、相手は「ルールですから」の一点張り。理不尽さに苛立ちつつも、誰にも共感してもらえない状況が続く。

愚痴を吐く場所すらないという現実

本音で愚痴を言える場所が本当に少ない。SNSも、同業者の集まりも、「誰が見てるかわからない」怖さがつきまとう。

SNSは使える?使えない?

匿名アカウントを作って愚痴を吐いていた時期もあったが、結局は「守秘義務」があるので踏み込んだことは言えない。下手に発信して炎上したら目も当てられない。だからといって完全に閉じこもると、今度は孤独が増す。

発信すれば誤解されるリスク

「最近疲れてる」と書いただけで、「あの人の事務所、やばいんじゃない?」と勘ぐられる可能性もある。そんなリスクを背負ってまで発信しようとは思えず、SNSも自然とフェードアウトした。

そもそも「守秘義務」が重くのしかかる

司法書士は業務上知り得た情報を外部に漏らしてはいけない義務がある。だからこそ、日常的な愚痴ですら「あの件のことか?」と特定されそうで怖い。結果、何も言えなくなる。

同業の集まりも気を使うばかり

集まりがあるといっても、建前の挨拶や情報交換が中心。悩み相談なんて雰囲気ではないし、「そんなことも分からないの?」と思われたくないというプライドもある。結局、本音はどこにも出せないまま。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。

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