「モテそうだよね」と言われて四半世紀、恋はどこへ消えたのか

「モテそうだよね」と言われて四半世紀、恋はどこへ消えたのか

「モテそう」と言われ続けた結果、こうなりました

司法書士という職業柄、身だしなみにはそこそこ気を使っているつもりだ。スーツを着て、髪も短く整えている。「先生」と呼ばれることも多く、それが一定のイメージを生むのだろうか、なぜか昔から「モテそうだよね」と言われる。しかし、だ。そう言われて実際にモテたことは、一度もない。むしろ恋愛経験は少なく、会話の流れもつまずきがち。「モテそう」という評価と現実の乖離が、自信を削っていく。そして気がつけば、もう45歳である。

最初に言われたのは司法書士になる前

「モテそう」と最初に言われたのは大学のゼミ仲間からだった。「真面目そうだし、ちゃんとしてるし」と。それから何度となく、そう言われる機会はあった。就職してからも、「雰囲気が落ち着いてて頼りがいある感じ」と言われたこともある。だが、その言葉のあとにデートの誘いが来ることはなかった。誰かに紹介されることもなく、なんとなく相手が他の人と付き合っていくのを見送る役ばかりだった。あれは「褒め言葉」ではなく、ただの感想だったのかもしれない。

「いい人止まり」の呪縛と肩書きの重さ

司法書士という肩書きは、信頼感を得やすい一方で、恋愛の場では“近寄りがたい”印象を持たれることもある。「先生」と呼ばれるせいか、ちょっとした相談や雑談はしてもらえるが、その先に進むことがない。恋愛は肩書きじゃない、という言葉は確かにその通りだが、肩書きが邪魔になるという現実もある。「いい人だよね」とはよく言われるが、「付き合いたい」とは決して言われない。それが、地味に心にくる。

先生って呼ばれるたびに距離ができる

街中や飲みの場で「先生」と呼ばれるたび、なんとも言えない空気が流れる。妙に構えられてしまい、リラックスした会話がしづらくなる。相手が一線を引いてしまうのがわかるのだ。「先生ってきちんとしてるから」とか「緊張しちゃう」と言われた経験も何度かある。でもこちらは、ただの寂しい独身男性にすぎない。名前で呼んでくれる人が、もう少し増えたら――そう思う夜もある。

見た目で期待される中身とのギャップ

人は見た目が9割とはよく言うが、「モテそう」と言われるのは、実際の人柄とは別物であることを痛感する。眼鏡をかけて、真面目そうな外見をしていれば、「誠実そう」と誤解される。でも中身は決してスマートな人間ではなく、話題も恋愛経験も豊富ではない。そういう自分を「モテそう」という表現でくるむのは、なんだか空しい。見た目と中身のギャップが広がるたびに、「どうして自分はこうなんだろう」と自問してしまう。

スーツを着てるだけで勘違いされる説

業務上、毎日スーツを着ている。それが「ちゃんとしてる」「きちんとしてる」と受け取られているのかもしれない。だがスーツは単なる仕事着であり、プライベートでの魅力とはまったく無関係だ。スーツを脱げば、休日はジャージでコンビニに行く冴えないおっさんである。表面だけで評価されるのは、楽なようでしんどい。いざ中身を知ってもらおうとすれば、逆にそのギャップで引かれてしまう。何とも皮肉な話だ。

清潔感=モテではないと気づいた日

「清潔感があればモテる」と言われたことがある。その言葉を信じて、毎朝ヒゲを剃り、ワイシャツにアイロンをかけ、整髪料で髪をセットしてきた。だが現実は、そんな努力に恋愛の成果は伴わない。清潔感はあくまで“最低限”の条件であり、それがあっても魅力には直結しないのだと悟ったのは、40を過ぎてからだった。「清潔感がある=恋愛対象」ではない。そのことを知らずに、無駄に希望を持っていた自分がちょっと哀しい。

司法書士という仕事と「恋愛の壁」

この仕事をしていると、プライベートとの線引きが曖昧になりがちだ。依頼者からの連絡は土日や夜でも平気でくるし、「急ぎなので今すぐお願いできませんか?」という要望も日常茶飯事。そうなると、誰かと会う約束をしていてもキャンセルせざるを得ないことが増える。結果、恋愛のチャンスは遠のく一方だ。仕事が理由とはいえ、何度も断るうちに、自然と誘いもなくなる。それが、今の孤独につながっている気がしてならない。

急ぎの案件は、恋のチャンスを奪っていく

「この登記、今日中にどうしても」という電話が入ると、すべての予定が吹き飛ぶ。夜の食事の約束も、土曜の映画の予約も、すべて白紙。相手に謝りの連絡を入れるたびに、自分の人間関係が少しずつ削れていくのを感じる。恋愛はタイミングと信頼の積み重ねだが、急な仕事でその両方を失いやすい。これが恋愛ベタの一因であることは、たぶん間違いない。

夜間や土日の対応で、誰とも会わず

「平日に動けないから、土曜にお願いできますか?」と言われたら、断るのは難しい。休日を潰して働くことに慣れすぎてしまい、気づけば自分のスケジュールはすべて「誰かの都合」で埋まっていく。そのうち、誰かと会おうという気力すら失われてしまう。誰にも会わない週末が当たり前になっていくのは、じわじわと心を蝕む。

「忙しい男」はモテるという幻想

若い頃、「仕事ができる男はモテる」と信じていた。だが現実は違った。忙しい男は、ただ「余裕がない男」として扱われる。恋愛において、余裕は非常に大事だ。相手の話を聞いたり、さりげなく気づかう時間もなければ、思いやりも伝わらない。「仕事がある=魅力がある」と思っていた自分が恥ずかしい。そして、その幻想が崩れた頃には、もう誰もいなかった。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。