静かすぎる夜に、ふと辞めたくなる瞬間がある

静かすぎる夜に、ふと辞めたくなる瞬間がある

静まり返った夜に心を蝕む「このままでいいのか」

一日の業務を終え、事務所の電気を落としたあと、静けさがじわじわと迫ってくる。地方の司法書士事務所に響くのは、古いエアコンの低い唸り声だけ。そんな夜ほど、ふと頭に浮かぶのが「このままでいいのか?」という問いだ。別に明確な事件があったわけじゃない。ただ、何となく、しんとした空気に飲み込まれて、自分の存在が溶けていくような感覚になる。仕事のやりがいや、社会的な意味を考えようとしても、静寂の前では無力だ。

日中の喧騒が終わったあとに訪れる孤独

昼間は、電話に来客に書類の山。何も考えずに目の前のことをこなしていく。でも、それが終わって事務員も帰り、自宅へ戻る途中の車内で、ふと訪れる虚無感。スーパーの駐車場で買い物リストを開いても、買うのはいつも同じ食材ばかり。誰かに相談するでもなく、話しかける相手もいない。「なんのために働いてるんだろうなぁ…」と、つぶやいてみても、もちろん返事はない。

テレビの音もつけたくない静けさが不安を煽る

帰宅しても、テレビをつける気にならない夜がある。騒がしいバラエティ番組やニュースの怒鳴り声すら、今日は耳に痛い。ただただ、部屋の静けさが胸に重くのしかかってくる。まるで自分の孤独を可視化するための演出のようだ。冷蔵庫のブーンという音さえ気になるほどの静寂の中、自分の存在の薄さを突きつけられる。こうして、不意に「辞めたいな」という気持ちが生まれる。

ただの疲労か、それとも本心か

「辞めたい」と思うたびに、自分を責めてしまう。「今日は疲れてるだけだ」と何度も言い聞かせるが、その頻度が増えてきているのも事実だ。もしこれが本心ならどうする? 生活は? 依頼者は? でも、それ以前に自分の心の平穏は? 無理して続ける意味はあるのか、問いの連鎖は止まらない。気づけば深夜2時。疲れたままベッドに倒れこむ日々が続く。

なぜ夜になると辞めたくなるのか

日中は、思考よりも行動が先にくる。次から次へとくる仕事に、考える暇などない。でも、夜になると一気にその反動がくる。とくに静かな夜ほど、蓋をしていた感情が浮かび上がってくる。たとえば、手続きを終えた依頼者からの「ありがとう」がなかったとき。その小さな出来事が、夜の空気と混ざると、なぜか心を深く刺してくる。

昼は「やるしかない」夜は「本音」が出る

日中は「やるしかない」。逃げ出す選択肢はないし、誰も代わってくれない。特に小さな事務所を一人で切り盛りしていると、倒れるわけにもいかない。だからこそ、夜になると解放される分だけ、心の奥底にある「本音」が顔を出す。「もう無理だ」「こんな仕事やって意味あるのか」…それを口に出した途端、どこかホッとしている自分がいることにも、気づいてしまう。

心の声を無視し続けたツケが出る瞬間

無理して、無理して、ここまで来た。その結果、夜ごとに心の声が耳元で囁くようになった。「そろそろ辞めてもいいんじゃないか」。その声に最初は戸惑ったけど、今ではもう慣れてしまっている。怖いのは、その声に慣れてしまった自分かもしれない。無視し続けることで、もっと大きな代償を払う日が来るんじゃないかと、うっすら思いながらも、今日もまた机に向かう。

誰にも言えない「もう限界かもしれない」

司法書士って、頼りにされてなんぼの仕事。だからこそ、自分の不安や限界を誰かに吐き出すことが難しい。「疲れた」と言えば、弱いと思われる。「辞めたい」と言えば、逃げだと叩かれる。そうやって、どこにも逃げ場がないまま、心の中に澱のように思いが溜まっていく。でも、誰かに言いたい気持ちもある。夜の空に向かって、「もう限界かもしれない」と呟くだけの夜もある。

優しさが裏目に出る仕事の現場

依頼者の話を丁寧に聞いて、わかりやすく説明して、必要な書類も整えて、それでも「高いですね」と言われることがある。そう言われるたびに、「自分が悪いのか?」と考えてしまう。優しさが仇になるとはこのことだ。お金の話をするたびに自分の中の良心が傷つく。でも、相手はそこに漬け込んでくる。結果、どんどん自分だけが疲弊していく。

依頼者のために尽くしても報われないとき

この前も、急ぎの登記を引き受けた。無理なスケジュールだったけど、「どうしても」と懇願されたから。結果、睡眠時間を削ってギリギリで仕上げた。でも、感謝の言葉どころか、「これで終わりですか?」の一言だけ。その瞬間、ガクンと力が抜けた。努力が報われないとき、人はどれだけ強がっていても折れる。報酬よりも「ありがとう」が欲しかったのに。

「先生」なのに「便利屋」扱いされるもどかしさ

司法書士という職業は、法的な知識を駆使して依頼者の問題を解決するプロのはず。でも現実は、「印鑑を押してくれる人」「書類を代わりに出してくれる人」くらいにしか思われていないことも多い。悲しいかな、コンビニのコピー機と大差ない扱いをされることもある。肩書きは立派でも、その実態とのギャップに苦しむ。「もっと役立ってるはずなのに」と、心の中で叫んでいる。

辞めたい気持ちと、続ける理由

「辞めたい」と何度思っても、翌朝には机に向かっている。それは習慣なのか、責任感なのか、自分でもよくわからない。でも、どこかでこの仕事を必要としてくれる誰かがいるのかもしれないという期待がある。逃げたい気持ちと、踏みとどまる理由。そのせめぎ合いの中で、今日も一日が始まる。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。