もうダメだ…からの逆転劇。あの日、自分を許せた瞬間

もうダメだ…からの逆転劇。あの日、自分を許せた瞬間

朝からすでにやる気が出ない日がある

司法書士という職業は、常に気を張っていないといけない仕事です。ミスが許されない世界。だからこそ、朝起きた瞬間に「今日はやりたくないな」と思ってしまう日は、本当に苦しい。心と体がバラバラに動いているような、そんな感覚になります。特に週明けや雨の日なんかはひどくて、デスクに座っても目の前のタスクが何一つ進まない。それなのに、電話は鳴るしメールは溜まる。焦りと自己嫌悪がぐるぐる回るスタート。そんな朝が、何度もありました。

なんでこうも気持ちが乗らないのか

真面目な人ほど、手を抜くのが下手です。僕もそうでした。「もっと頑張らなきゃ」「手を抜いたらバレる」と思い込み、自分を追い込んでいたんです。でも、それは燃え尽きるための準備だったのかもしれません。やる気が出ないのは怠けじゃない。体が、心が、限界だってサインを出してるだけなんですよね。でも、それを無視して進もうとすると、必ずどこかでガタが来る。それが、あの日だったんです。

誰にも言えない「今日、帰りたい」

事務所に出勤して一時間も経たないうちに「もう帰りたい」と思うことがあります。でも、そんなこと言えるはずがない。僕は所長で、代表で、責任者。事務員一人に留守を任せるなんてできないし、そもそもそんなこと言ったら自分が壊れてしまいそうで怖い。だから黙って、机に向かって、耐える。だけど心の中では「ここから逃げたい」「全部やめたい」と叫んでいるんです。そんな日が、あのミスに繋がりました。

あの日のミスは、完全に自分のせいだった

あれは、午前中に提出しなければならない登記申請の準備中のことでした。急ぎの案件だったんですが、確認が甘く、添付書類の内容を一つ見落としてしまっていたんです。法務局から電話がかかってきた時、全身が冷たくなりました。「やってしまった」。それは明らかに自分の確認ミス。誰にも責任転嫁できない、完全に僕の落ち度でした。

細かい確認を怠ったツケ

その日は朝から頭がぼんやりしていて、何度も確認しようとしながらも集中力が続かず、最後には「まあ大丈夫だろう」で処理してしまった。それが命取りでした。司法書士の世界では「まあ大丈夫」が最も危険なんですよね。1文字のミスが、登記の遅延や依頼者の信用を失う原因になる。頭では分かっているのに、心が追いついていなかった。そのズレが、ツケとして跳ね返ってきたわけです。

「すみません」で済まない場面に限ってやらかす

よりによって、初めて依頼をくださったお客様の案件でした。電話で謝罪したときの、あの沈黙。何を言われるよりもつらかった。言い訳なんてできません。こちらのミスですから。それでも心の中では「なぜ今日に限って…」「どうしてあのときちゃんと確認しなかったんだ」と、悔しさと自己嫌悪が押し寄せてきました。どうしようもないくらい、自分が嫌になりました。

落ち込みと自己嫌悪のループ

その日一日、事務所の空気はどんよりとしていました。僕のせいです。無言の時間が多くなり、パソコンの前に座っても手が止まる。お客様への再連絡、書類の再確認、すべての作業が重くのしかかってきました。仕事のミスって、修正すれば終わりじゃない。心に残るんですよね。じわじわと染み込むように。

ミスをした後の沈黙が一番つらい

事務員も何も言わず、静かに作業していました。それが逆に辛くて。怒ってるのか、呆れているのか、気を使っているのか…。その沈黙に、自分の価値がどんどん下がっていく気がして。誰かに怒鳴られる方が、よっぽどマシだったかもしれません。でも、大人の世界ってそういうものじゃないんですよね。静かに、自分で責任を感じて、潰れていく。そんな空気に包まれていました。

「なんで司法書士なんかに…」と思った瞬間

正直、帰り道で思いました。「俺、向いてないんじゃないか」って。司法書士って、勉強も試験も大変で、やっと資格を取っても仕事は激務。常に緊張感の中で、間違いが許されない。その重圧に耐え続ける人生って、何なんだろうと。もっと気楽に働ける仕事だってある。もう全部投げ出したい。そんな感情が、波のように押し寄せてきました。

同業の先輩に言われた言葉

翌日、以前からお世話になっていた先輩司法書士に、思い切って話を聞いてもらいました。ミスの内容や、自分がどれだけ落ち込んでいるかを包み隠さず話したら、その先輩は一言、「俺もそういうミス、何回もやってるよ」と言ってくれたんです。

「ミスしない人なんて、いないよ」なんて嘘だと思ってた

その言葉を聞いた瞬間、最初は正直「慰めだろうな」と思いました。でも、先輩は淡々と、過去に起きた自分のミスや、その後の対応、依頼者との関係の再構築まで話してくれたんです。そのリアルさに、「本当にこの人も苦しんだんだな」と思えました。

だけど、その人もかつて失敗していた

今では頼りにされるベテランでも、昔はたくさんのミスをして、自分を責めていた。そう聞いて、少しだけ自分の中の「自分だけじゃないんだ」という気持ちが芽生えました。人は失敗からしか学べないというのは、本当なのかもしれません。

「自分を責めすぎない」ってどうやるの?

でも、それでもすぐには自分を許せませんでした。「自分を責めすぎないで」と言われても、どうすればそれができるのか分からない。ただ、先輩が言ってくれた「また次の仕事で信頼を取り戻せばいいよ」という言葉だけが、少しだけ心に残りました。

前を向くって、キラキラしてなくていい

それから数日後、何とか気持ちを切り替えて仕事に戻りました。と言っても、劇的な変化があったわけじゃありません。変わらず忙しいし、失敗の記憶も消えてない。でも、少しだけ「今日をちゃんと終える」ことだけを考えようと決めたんです。

「しんどいけど、やるしかない」が合言葉

前向くって、明るくなることでも、元気になることでもない。ただ「やるしかない」を選び続けること。それが前を向くってことなんだと、やっと気づきました。小さなミスで折れそうになる日もあるけれど、続けていることに意味がある。そう思えるようになりました。

完璧を目指すより、「戻ってこれる」自分を持つ

ミスをゼロにするよりも、ミスしても戻ってこれる力を持っていたい。それが今の僕の理想です。まだまだ愚痴も多いし、ミスもゼロにはできません。でも、「それでも大丈夫」と自分に言えるようになってきた気がします。

あの一件は、いまでも忘れられない

今でも時々思い出します。あのミス。あの沈黙。あの自己嫌悪。でも、それはもう「消したい記憶」じゃない。「そこから学べたことがあった」と思えるようになりました。

でも「消したい記憶」ではなくなった

つらかったことは、消えない。でも、それが自分の一部として、少しずつ優しくなれる材料になっていく。そんな気がしています。

過去の自分に、少しだけ優しくなれた日

あの日、「もうダメだ」と思った自分に、「よく踏ん張ったね」と言える日が来るなんて思っていませんでした。だけど、それがあったから、少しずつでも前に進めています。だから今日は、そんな自分に、ほんの少しだけ「お疲れ」と言ってあげたいです。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。