信用が重くのしかかる毎日
司法書士という肩書きには「信用」がつきまといます。書類ひとつとっても、「この人が言うなら大丈夫」という目で見られ、それがありがたい反面、怖くなることがあります。信頼されているということは、それだけ責任も重くなるということ。たった一枚の提出ミスが、大きなトラブルになる可能性もあるのです。ミスが許されない世界に身を置いていると、自分がただの人間だということすら忘れそうになります。
「先生」と呼ばれることの意味
「先生」と呼ばれるたびに、胸の奥がザワザワすることがあります。別に偉くなったわけでもないし、完璧なわけでもない。でも、相手は「先生なら大丈夫でしょう」と安心した顔で言ってくる。その言葉に、自分も「大丈夫でなければいけない」と無意識に背筋を伸ばしてしまうのです。本当は不安でいっぱいなのに、そう見せるわけにはいかない。この肩書きに、自分の感情を押し込めてしまうことが何度もあります。
期待と現実のギャップに苦しむ
「信用されていることが苦しい」と言うと、変に思われるかもしれません。でも現実には、相手の期待が高すぎて、それに応えきれない自分とのギャップに苦しむ日々があります。たとえば、相続の手続きで「全部お任せします」と言われたとき、その重さに吐き気すら覚えたことも。まるで、相手の人生の一部を背負っているような気がしてしまうのです。どんなに誠実に取り組んでも、完璧な結果を出すことは難しい。それが辛さの根源です。
信頼に応えたい気持ちはあるけれど
信頼してもらえることは嬉しいです。それがこの仕事の誇りでもあります。ただ、信頼というのは、ときに「裏切ってはいけない」というプレッシャーになり、自分を追い詰める存在にもなります。夜中にふと目が覚めて、「あの書類、本当に大丈夫だったかな」と確認のために事務所へ行ったこともありました。信頼に応えたい、その気持ちが強すぎて、自分の心と体がすり減っていくのを感じることもあります。
「ミスが許されない仕事」の本当の重さ
司法書士の仕事は、表面上は地味に見えるかもしれませんが、ミスが許されないという点では非常に厳しい仕事です。小さな書き間違いひとつで、登記が受理されないどころか、依頼者との信頼関係が一気に崩れることもあります。それが分かっているからこそ、確認に確認を重ねて、常に緊張状態でいる必要があります。結果的に、精神的に追い詰められていくのです。
眠れない夜が増えていく
何度も確認したはずの書類が、どうしても頭から離れず、夜中に目が覚めてしまうことがあります。「あの表現で間違いなかったか」「提出先は本当にあの法務局で良かったか」などと考え始めると、目が冴えて眠れなくなるのです。寝不足で翌日の仕事に集中できず、またミスを招きそうになるという悪循環。体調もメンタルもジワジワ削られていく感覚に、ふと「これでいいのか？」と自問することもあります。
事務所を出たあとも気が抜けない
一般的な仕事なら、仕事が終わればリラックスできる時間があるかもしれません。でも、司法書士は違います。事務所を出たあとも、「あの案件はどう進めるべきか」「急ぎの依頼が来たらどうしよう」と考え続けてしまいます。スマホを見るのも、誰かからの急ぎの連絡があるかもしれないという緊張感で、ちっとも気が休まりません。そうやってオンオフの区別がつかなくなり、いつの間にか自分の生活が全部「信用」に支配されていくのです。
地方で一人で背負うもの
都会とは違って、地方の司法書士事務所は代替がききません。誰かが代わりにやってくれる、という環境ではない中で、自分一人が責任を全部背負わなければならないのです。そういう立場にあると、「信用の重さ」は何倍にもなって感じられます。誰かに頼ることもできず、結果的に「自分が潰れるかどうか」のぎりぎりの綱渡りを続けている感覚になります。
代わりがいない現実
事務員は一人だけ。彼女も頑張ってくれてはいますが、最終的な判断や責任はすべて私が負うことになります。自分が倒れたらすべて止まる。その現実が、常に頭の片隅にあるからこそ、無理をしてでも仕事を続けてしまうのです。休みの日にも、「何かあったらどうしよう」と思ってしまうし、旅行なんて何年も行っていません。そうやって自分を追い込んでいるのは、自分自身なのかもしれません。
休めない、頼れないという孤独
一度だけ、体調を崩して数日休んだことがあります。そのときの不安感はすさまじいものでした。「依頼者に迷惑がかかったのではないか」「次から依頼が来なくなるのでは」と、休んでいる間じゅう、罪悪感と不安に支配されていました。誰にも任せられないという孤独、そして「一人でなんとかしなければ」という思いが、ますます自分を追い詰めていきます。
「誰にも迷惑をかけられない」の呪縛
小さいころから「人に迷惑をかけるな」と言われ続けてきました。その価値観が、今でも自分を縛っています。本当はもう少し肩の力を抜きたい。でも、「信用を裏切ってはいけない」「迷惑をかけてはいけない」と思うと、どうしても無理をしてしまうのです。結局、プレッシャーの正体は、周囲の目だけでなく、自分が自分にかけている呪いなのかもしれません。
地元の人間関係の怖さ
地方の小さな町では、良くも悪くも人間関係が濃いです。一度何か失敗すれば、あっという間に噂が広まり、信頼が揺らいでしまう。その恐怖があるから、余計に気を抜けません。表面的には笑顔でも、内心は常に緊張している。そんな日々が続くと、心の余裕がどんどんなくなっていきます。まるで、自分の全人生を常に見られているような感覚です。
噂はすぐに広がる
以前、小さな登記ミスがあったとき、直接関係のない他の依頼者から「最近忙しいんですか？大丈夫ですか？」と聞かれたことがありました。どうやら誰かが話したようで、あっという間に町中に知れ渡っていたようです。たった一度の失敗が、こうして尾を引く。それが地方の怖さであり、信用の怖さでもあります。
だから余計に失敗が怖い
こうなると、何か新しいことに挑戦したり、効率化のための工夫をしたりするのも怖くなります。「うまくいかなかったらどうしよう」「また噂になったらどうしよう」と考えてしまう。だから、結局は安全なルーティンにしがみつき、変化を避けてしまうのです。プレッシャーに押しつぶされそうな気持ちの根底には、「失敗を許されない」という過剰な恐れが根深くあります。
どうしても愚痴が出てしまう
愚痴っぽくなるのは、自分でもよくないと思っています。でも、あまりにも我慢が多すぎると、つい口から出てしまうんです。「なんでこんなに背負わないといけないんだろう」と。誰かに話すことで少しは軽くなるけれど、それすらできない日もある。そんなときは、机に突っ伏してため息をつくしかない自分がいます。
優しさが裏目に出る瞬間
私は、依頼者にはできるだけ丁寧に、優しく接したいと思っています。でもその優しさが、「なんでもやってくれる人」として期待をどんどん引き上げてしまうことがあります。結果、手に負えないほどの案件を抱えることになり、苦しくなってしまう。「断るのが苦手」という性格も手伝って、自分で自分の首を絞めているのかもしれません。
本音を出す場所がない
本当は誰かに「疲れた」「つらい」と言いたい。でも、それを言える相手がいない。家族もいないし、友人にもなかなか言い出せない。そうなると、どんどん本音を飲み込むようになります。気がつけば、自分でも自分の気持ちが分からなくなる。そうやって「信用」の鎧をまといながら、本当の自分はどこか遠くに行ってしまった気がしています。
「信用されている＝強くなければならない」の誤解
最後に思うのは、「信用されている人間は強くなければならない」という誤解です。私たちはつい、信頼を守るためには弱さを見せてはいけないと思い込んでしまいます。でも、それは本当に正しいのでしょうか。もしかしたら、弱音を吐ける人こそ、本当は強いのかもしれません。そんなふうに、自分を許すことが、プレッシャーから少しでも解放される第一歩かもしれません。
弱音を吐いたら負けだと思っていた
今まで「弱音を吐いたら負けだ」「信用を失う」と思い込んできました。でも、それを守り続けた結果、心がどんどんすり減っていくのを感じています。本当は、もっと楽になりたい。もっと普通の自分でいたい。そんな気持ちに気づけたことだけでも、少しは前に進めたのかもしれません。
