静かな職場、増えていく独り言
朝から夕方まで、話す相手は事務員の女性ひとり。しかも彼女は、ほとんど私の話し相手にはならない。そんな中、気づけば自分の口が勝手に動いている。「さて…」「ん?これなんだ?」などと、誰に向けるわけでもない言葉が、部屋にぽつぽつと響くようになった。昔はもっと静かに仕事をしていたはずなのに、最近の自分はまるで“独り芝居”のようだ。これは年齢のせいなのか、環境のせいなのか、正直わからない。ただひとつ言えるのは、独り言が私の日常の一部になってしまっているということだ。
事務所に響くのはキーボードの音と、自分の声だけ
依頼が少ない日や、登記申請の確認に集中しているときなど、まるで自分の存在がこの空間にしかないような気持ちになる。キーボードを叩く音、プリンターの印刷音、そして、自分の「これでいいんだっけ…」という独り言。そんな音しか存在しない事務所で、私は静寂に耐えきれず、自分で音を作っているのかもしれない。人と話すことの大切さを、失ってからやっと実感するようになった。
会話のない日常に慣れすぎた結果
最初は誰かと話せないことに違和感を覚えていた。でも気づけば、それに慣れきってしまった自分がいる。お昼の時間もひとりでコンビニ弁当をつつきながら、「今日は〇〇法務局まで行かないと」と独りごちる。これが普通だと思っている時点で、もう社会的な感覚がずれてきているのかもしれない。でもこの環境で長年仕事をしていれば、多少は仕方のないことだとも思っている。
独り言で確認しないと不安になる癖
登記のチェックリストを一つずつ読み上げながら確認する。ミスが許されないこの仕事で、自分の声が“もう一人の自分”として、確認役になっているのだ。「不動産番号確認済み…印鑑証明添付済み…」と、口に出すことで安心する。それが癖になってしまい、いつの間にかどんな作業でも声を出して確認しないと落ち着かない体質になってしまった。
「よし」と「なんで?」の繰り返し
気づけば「よし」という言葉を1日50回は言っている。書類が揃ったとき、登記が通ったとき、電話を切ったとき。「よし」で気持ちを切り替えているつもりだが、これもまた独り言の一種だ。逆に、ミスや予想外の出来事に遭遇すると「なんで?」と自分に問いかける。人間って、話す相手がいなくても、自分と会話しようとするんだなと、つくづく感じる。
無意識の相槌と自己ツッコミ
ときどき「うん、それで…」と独りで頷いていたり、「いや、それおかしいだろ」と自分にツッコミを入れていたりする。誰かに見られたら完全に変な人だろう。でも、長年こうして一人で事務所を守ってきた結果、こうした自己会話がないと気が済まない自分になってしまった。ある意味、仕事の一部としての“儀式”なのかもしれない。
ひとり芝居のような業務時間
ある日のこと、「これ、提出書類3通で合ってるよな…あれ?待てよ…いや、大丈夫か…いや、ちょっと待て」…このやりとりを独りでつぶやきながら、机の上を行ったり来たりしていた。ふと我に返ると、まるで一人舞台。お客さんも観客もいないのに、自分だけがセリフを発している。ちょっとした自嘲とともに、笑えてきたが、それと同時に少しだけ虚しさもこみ上げてくる。
誰にも聞かれない安心と、ふとした虚しさ
独り言を言っていても、誰からも指摘されない。聞かれていないという安心感。でも、その裏には「誰も気にしていない」「誰にも注目されていない」という事実がある。それが妙に虚しく感じるときがある。人と接することの少なさが、こうした孤独感を強めているのだと思う。誰かに「どうしたの?」と聞かれるだけで、救われることもあるのに。
独り言の内容は、たいてい文句
「なんでこうなるんだよ」「またこのパターンかよ」…独り言の多くは文句だったり、軽い愚痴だったりする。仕事柄、イレギュラーな案件や意味不明な問い合わせも多く、ストレスがたまりがちだ。そんなとき、誰かに言いたくても言えないから、つい自分に向かって文句を言ってしまう。それでも吐き出すことで少し楽になるから、悪いことばかりではないのだろう。
パソコンに八つ当たりする日々
フリーズしたパソコンに「おいおい、今じゃないって…」と話しかける。マウスが動かなくなれば「またかよ…」とつぶやく。それに反応する人はいないが、自分の中では一種の感情処理になっている。感情を押し殺すような仕事の中で、せめてもの吐き出し口なのかもしれない。パソコンは文句を言わずに聞いてくれる、貴重な相棒だ。
仕事の段取りを口に出さずにはいられない
「よし、次は銀行。終わったら法務局、戻ったら依頼人に電話」…声に出して自分を動かしていくスタイル。静かな事務所では、その声が逆に自分を励ますリズムになっている。予定表に書いてあることも、口に出すとより明確になる気がしてしまう。これは、ある種の自己暗示かもしれない。
たまに事務員さんに聞かれて赤面
独り言が日常化していると、ときどき「それ、誰に話してるんですか?」と笑われることがある。そんなときは「いやー、クセでさ…」とごまかすしかない。恥ずかしいけど、止めようにも止まらない。しかも事務員さんに気を遣わせてしまうこともあって、「あ、大丈夫です、ひとり言なんで」なんて言い訳する羽目に。
「あ、大丈夫です」ってごまかすしかない
話しかけたと思われたら困るから、「あ、それ自分に言ってただけです」と苦笑いで済ませる。内心ではかなり恥ずかしいのに、もう慣れっこになってしまった自分がいる。でも、こういう瞬間に「自分って寂しいんだな」と気づく。笑ってごまかすけど、心のどこかではちゃんとわかってる。
変な人だと思われてないか気になる瞬間
独り言の量が増えるたび、「この人、大丈夫かな」と思われていないか不安になる。特に事務員さんとの距離感があると、その不安は増す。でも、無理して黙っていると、逆にミスが増えるから、結局しゃべってしまう。どっちに転んでも不安というのが、なんとも面倒くさい性格だと、自分でも思う。