書類の山に埋もれる午後

書類の山に埋もれる午後

書類の山に午後が沈む

朝はまだ少し余裕がある。予定表を眺めて、今日は早めに終われそうだな、なんて期待する。だが、その希望は午後になるとあっさり裏切られる。昼ごはんを食べて戻ったら、机の上に置かれている書類の束が増えている。電話が1本、2本鳴るごとに、依頼が舞い込み、処理すべき書類が雪崩のように追加される。気づけば、書類の海に肩まで沈んでいて、「あれ?午前中はどこへ?」と呆然とする。午後はいつも、そんなふうに始まるのだ。

昼休みが終わった瞬間に始まる絶望

「あと10分あればな」と思いながら、コーヒーを飲んでいた昼休み。その一口が終わるころ、電話が鳴る。「今日中にお願いできませんか?」の声。はいはい、と答えてしまう自分がいる。断れない。優しさじゃなくて、もう反射に近い。気がつけば、午後イチのエンジンをかける間もなく、次の案件に巻き込まれている。たった20分前はリラックスしていたはずなのに、いまは完全に戦闘モード。午後の始まりは、いつも無慈悲だ。

コーヒー1杯では焼け石に水

私の午後のスタートは、コーヒーから始まる。コンビニで買っておいた紙コップのそれを一口。深呼吸して、「よし」と自分に言い聞かせる。でも、正直言ってあの一杯で立て直せた試しはない。書類が視界に入った瞬間、さっきの「よし」はどこかへ吹き飛ぶ。カフェインより強烈なストレス。むしろ、飲んでる時間すら惜しくなる自分が怖い。結局コーヒーは冷め、心も冷えたまま。午後の重さは、そんな甘いもんじゃない。

電話が鳴るたびに積み上がる山

この業界、電話1本で一日がひっくり返る。ちょっとした確認のつもりが、予想外の書類確認、押印、そして謎のトラブル対応へと発展する。最近あったのは、「登記情報が古い」と言われて確認してみたら、関係先がまさかの改姓していた件。調べて、電話して、直して、説明して…たった1本の電話が、午後の予定すべてを吹き飛ばした。追加された書類はしっかりと山積み。午後が深くなるにつれて、山も高くなる。

事務員さんに頼めない、頼みにくい

うちには事務員さんが一人いる。彼女はよく働くし、本当にありがたい存在だ。でも、人手が少ないからこそ、逆に頼みづらいこともある。「これ、お願いしていいですか?」と聞くたびに、彼女の手もパンパンなのが見えるからだ。しかも、書類の内容によっては司法書士本人が処理しないといけないものも多い。結局、「やっぱり自分でやるか」となり、机に戻ってため息をつく。書類の山は、分け合えないのがつらい。

「ちょっとお願い」が心に刺さる午後

「ちょっと手伝ってもらっていいですか?」と言うたびに、申し訳なさが心に積もる。忙しいのはお互い様。それはわかっている。でも、自分だけが抱えるより、少しでも助けてもらいたいという気持ちと、「また頼んでしまったな…」という罪悪感が交錯する。最近は「ちょっと」と言いかけて飲み込むことも増えた。言えずに自分で処理して、夜になって、肩が重くて動かなくなる。そんな午後が続くと、自分の声すら出なくなってくる。

自分で抱えるしかない書類たち

司法書士という仕事は、意外と「誰にも渡せない書類」が多い。内容確認、法務局への提出判断、権利関係の判断など、責任を伴う判断は必ず自分がしなければならない。だからこそ、時間がかかるし、疲れる。仮にミスがあっても、それはすべて自分の責任。誰のせいにもできない。「あとでやろう」と積んだ書類が、まるで責めるようにこちらを見てくる。午後の沈黙の中、紙の束がこちらを睨んでいるように感じる瞬間がある。

「効率化」という言葉が遠い

世の中は「効率化」「DX」と叫ばれているけれど、この業界にその波はほとんど届かない。書類は紙、印鑑は必須、役所の対応は対面が基本。デジタル化の話になると、むしろ「余計な混乱を招く」とさえ言われる。だから、効率化なんて夢のまた夢。午後に積み上がる仕事も、全部アナログで地道にこなすしかない。そんな日々に慣れてしまった自分が、ちょっと悲しくなる。

IT化が進まないこの業界の現実

たとえば不動産登記の申請。オンラインでできるようになったとはいえ、添付書類は紙、印鑑証明書は現物、委任状も手書き。そして役所側が受け取るのも結局紙。「結局これ、手渡しと変わらんやん」と思いながら作業することもしばしば。たまにPDFで送ったら「見づらいですね」と言われてしまう始末。そんな中で、効率化ってなんだっけ?と考える。せめて、書類に埋もれない方法があればいいのにと、本気で思う。

結局、紙とハンコとFAXと

朝から晩まで使っているのは、紙、ハンコ、FAX。ITなんてどこ吹く風。クラウド管理?一部は試したけれど、関係各所との整合性を取るのが逆に手間でやめた。結局、紙で保管しておく方が安心という感覚がまだまだ強い。だがそれが、机の上の山をどんどん高くしている元凶でもある。ペーパーレスという言葉が、遠い世界の幻想のように思えてくる。

DX?何それ美味しいの?

「DX」という言葉、最近やたら耳にする。でもこの業界では、笑い話にしかならない。「うちはまだFAX使ってるよ」なんて言うと、「うちも」「うちも」って返ってくるのが普通。笑ってるけど、内心泣いてる。誰もが非効率さに気づいてるのに、動かせない。午後の仕事量がDXで半分になったらどれだけ楽だろうか…なんて妄想しながら、今日も紙と格闘している。

しがない司法書士
shindo

地方の中規模都市で、こぢんまりと司法書士事務所を営んでいます。
日々、相続登記や不動産登記、会社設立手続きなど、
誰かの人生の節目にそっと関わる仕事をしています。

世間的には「先生」と呼ばれたりしますが、現実は書類と電話とプレッシャーに追われ、あっという間に終わる日々の連続。